第69話 海2
未来達は一通り遊んだ後、お昼になったので4人で海の家へ行く事にした。
海の家へ行くよりも別荘へ戻った方が近いしちゃんとした物が食べられるのだが、せっかく海に遊びに来たのだから海の家のチープな食事を食べようという事になったのだった。
妃子も、別荘に遊びに来ても、家族との為海の家には言った事が無いらしく、楽しみなようである。
ただ、未来には一つ心配な事があった。
未来が発見したダンジョンのゲートは、海の家の方にあるのである。
未来は、ステータスが上がっている為に別荘前の駐車場からでも見えたのだが、近づけば妃子も存在に気づくかもしれないという不安があった。
妃子も一度ダンジョンに入っているのだからゲートが見える可能性は十分にある。
未来は妃子はもちろん悠里や虹花も、ダンジョンに関わらせたいとは思っていない。
漫画やアニメなら仲間のレベルを上げて強くすれば。なんて展開もあるのだろうが、未来は初めにダンジョンで彷徨って苦しんだ経験、初めの頃の化け物と戦う恐怖。自衛隊や他国の軍がほぼ全滅しているという現実から、そんな場所へ友達を関わらせたいとは考えられなかった。
友達を関わらせないように、友達を守れるように、その分も自分がダンジョンで強くなろうとしているのだから。
道中、ダンジョンのゲートがある方向に注意が向かないように、未来は道中会話を盛り上げた。
話題はこれから行く海の家をみんなが楽しみにしていた為、なんとかゲートの存在は気づかれずにすんだようである。
もしかしたら、海の家からも離れた端の方にあるので、未来の気にしすぎで見えない場所なのかもしれないが。
ともあれ海の家に着いたので、お昼ご飯を買うのだが、お昼を少しすぎた時間とはいえ、海の家は繁盛しており、どの店も並んでいる状況であった。
システムはそれぞれのお店の店舗内で食べるタイプではなく、フードコートのように店で頼んだ物を空いている席に持ち寄って食べるタイプのようである。
未来達は、役割を分担して買い出しをする事になった。
虹花は、自分の買いたい物を買って来ると真っ先に手を上げ、妃子もせっかくならば並んで買うのを体験したいそうなので、買い物組に。
未来も丼など重いものを運ぶ為に買い物にとスムーズに決まり、悠里は空いている席を確保しておく事になった。
とはいえ、悠里の席の確保も大変そうではある。
未来は、自分の担当のカレーとラーメン、焼きそばを買い終えて悠里を探すが見当たらない。
悠里を探してキョロキョロする様子は、カップルならばカエル化などという事を心配しなければいけないのかも知れないが、振られている自分には関係無い事だと思い、必死に悠里や、先に買って帰ってきているかもしれない2人を探す。
「未来、悠里達はどこかしら?」
未来は悠里を見つける前に、妃子に声をかけられた。
妃子は一番人気のある店を担当した為未来よりも時間がかかったようだ。
妃子が悠里達と言ったのは、虹花はポテトなどの出来合いの物を担当したのでもう悠里と合流していると予想しての事であった。
「あ、未来、居たわ!」
未来は、妃子の声に反応して妃子の顔が向いている方を見る。
見つかりにくいはずである。
悠里と虹花が座る席には、他にも男性が3人座っており、2人に話しかけている。
大勢に紛れて仕舞えばそういうグループのように見え、悠里が1人または虹花と2人で席に座っていると思って探していた未来は見逃してしまっていたのであった。
「でも、なんか嫌な雰囲気ね。早くいきましょう」
相席するように座る男性3人に話しかけられているのを、悠里は迷惑そうな顔をしており、虹花は何か怒って文句を言っているようである。
そして2人とも、嫌そうな顔をしてパーカーのジッパーを上まで上げた。
男達は、ヘラヘラとしながら話をして、虹花が買って来たであろうポテトを摘んで口に運んでいる。
未来は妃子の言葉に頷いて、悠里達のいる席へ向かう。
「お待たせ。混み合ってるから見つけるのに時間がかかったよ」
「あ、未来君」
「ほら、私達は男連れなの。あんた達は迷惑だからどっか行ってくれる!」
悠里は未来を見てどこかホッとした様子を見せ、虹花は男達を追い払うような言葉を発した。
「そんなナヨっとした根暗そうな男よりも俺達と遊んだ方が楽しいって。それに、もう1人も美人じゃん!」
男の1人が、未来を見て鼻で笑い、未来と来た妃子をみていやらしい笑を浮かべた。
トレイを持っていて悠里や虹花のようにパーカーの前が閉めれない妃子は、不快そうである。
「そんな男放っておいて俺らと遊ぼうぜ? 俺らはスキルもあるから言うこと聞いといた方が身のためだぜ? な?」
男の1人がそう言って悠里に手を伸ばした。
未来は、持っていたトレイを机に置いて悠里に伸ばされた手の手首を掴む。
「貴方達に守ってもらわなくても、僕1人であなたの様なスキル持ちから守れるので結構です」
未来に手を掴まれた男は、未来に少し力を入れられただけで悲鳴を上げる。
「痛え! お前、おい、放せ!」
未来が手を離すと、男は未来を睨むが、未来は気にした様子はない。
「ね、僕1人で守れるでしょう?」
未来の言葉に威圧感を感じたのか、睨んだ男は怯んだ表情に変わった。
「あ、思い出した。あんた達電車の迷惑男じゃない!」
妃子が、思い出したように男達に向かって言った。
「散々電車で暴言を吐いた女の子をナンパしてくるなんて成功するわけがないじゃない。馬鹿なの?」
妃子の言葉で悠里と虹花も思い出したようである。
「ああ、私達の指定席に荷物置いてどかしたらいちゃもん付けてきたクレーマー!」
「な、お前らあの時の奴らか! ならちょうどいい! 俺らに迷惑かけたんだから詫びの代わりに付き合え!」
男達も気づかずにナンパをしていたようで、気づいた男の1人が意味不明な事を言い出した。
「無茶苦茶な事を言わないでください。これ以上付きまとうなら、スキル持ちの貴方達から友達を守る為に僕も実力行使に出ますよ?」
未来は、男達に向かってダンジョンのモンスターを相手にする時のような殺気を発した。
流石に漫画のようにそれだけで相手が気絶するような事はないが、未来から威圧感というか、恐怖を感じた男達は、暴言を吐きながら去って行った。
男達を追い負かした未来に、周りの席のお客さんから拍手が飛んだ。
フードコートなので、周りの席の人達も悠里と虹花をナンパしていた男達の態度を見て不快に思っていたのだ。
スキルという暴力をチラつかせていたので行動には出れなかったのだが、未来が追い負かした事でスカッとしたのであろう。
男達が居なくなったのでようやく未来と妃子も席につく。
「お店には悪いけど、あの男達が手をつけたポテトとかは気持ち悪くて食べられないね」
「ラーメン、焼きそばにカレーもありますから、こっちを食べたらいいですよ」
「私の買ってきたパンケーキとかき氷もあるわよ! 早く食べないとどんどん溶けちゃうから早く食べましょう!」
少し気分を害される事はあったが、無事乗り越え、未来達は食事を始める。
虹花や未来が食事に手をつける中、悠里は一番先にかき氷に手を伸ばす。
先程自分に伸ばされた手から守ってくれた未来の方をチラッと見て、顔が熱を持って赤くなっていそうで、冷まそうと口に運ぶ。
「うん、冷たい!」
先程までの顔は何処へやら。嬉しそうな表情を浮かべる悠里を、虹花がラーメンをすすりながらニヨニヨとした表情でみている。
それに気づいた悠里は、恥ずかしそうに「なんでもないわ」と言い訳して手に持っていたかき氷を勢いよく食べた為、アイスクリーム頭痛を起こしてしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます