第66話 水族館
未来と妃子が2人で水族館デートをするからといって、悠里と虹花は別荘で留守番をしているという訳ではない。
別行動をするというだけで、こちらも水族館を見て回っている。
「未来んと妃ちゃんのデートを尾行とかしなくて良かったの?」
虹花が、悠里を焚き付けるようにニヤニヤとしながら質問をした。
「うん。せっかく旅行に来てるんだから、私達も楽しみたいじゃない?」
「ふーん」
水族館に入ってすぐに、エントランスから左右に通路が分かれる。
そこで悠里達は未来と妃子と反対の道を選択して別のルートを選んだ。
自分も数日後に未来とデートをするが、その時に見られていたら嫌だと思うし、尾行しても自分がいい気分になる事はないと思っているからだ。
なら、別行動で楽しんだほうがいい。
普段も虹花と2人で遊びに出かけるのだから、いつものように楽しめばいいのだ。
「ほら、虹花行くよ?」
「……はーい」
どちらかというと尾行して楽しみたかったのは虹花だったようで、悠里の呼ぶ声に後ろ髪引かれるようにして返事をするのであった。
一方、反対側のルートへ行った未来と妃子はというと……
「全く動かないわね。でも、かわいい」
「そうですね、口はもしゃもしゃと動いてますよ」
水族館に来たのに、入り口付近にいる陸の生き物のカピパラをじっと見ていた。
浅い桶に入れられた水の中に入って目を細めてじっとしている。
微動だにせずに寝ているようにも見えるが、口元は何も食べていないのにもしゃもしゃと動いている。
「ああ、可愛い。でも、動かないみたいだし次に行きましょうか」
「そうしましょうか」
ただ会話をしながら歩く通学路とは違って水族館の生き物を見ながら移動すると、妃子の反応は様々だ。
ハーフ美人で服装の雰囲気からクールなイメージを受けるが、意外とカワイイ物好きであるし、水槽を移動するたびに子供のように目を輝かせる姿は可愛らしくも見える。
「わあ、大きい」
しかし、この水族館の名物であるジュゴンを見上げる妃子の横顔は、薄暗い部屋の中で水槽の灯りに照らされていて、本当にモデルのように綺麗だと思う。
「すごいね、水草をばくって!」
「え、ええ。そうですね……」
妃子の横顔に見惚れていた未来は、返事に詰まってしまった。
「なによ、変な未来!」
「いや、ジュゴンの大きさに圧倒されちゃって。さっき見て来たマナティに似てるけど迫力が全然違いますよね」
「そうね。でも、こっちの方がのんびり動いてて私は好き」
楽しそうに笑顔で話す妃子の反応を見て、見惚れていた事を気取られずにすんだと未来は胸を撫で下ろした。
その後、外へ出てペンギンやセイウチを見た後、同じスペースにある扉の前で2人は立ち止まっていた。
「どう。未来は入りたい?」
「僕はあんまり……妃子先輩は入りたいですか?」
「私もこう言うのはいいかも。もっと可愛いのが見たいし、次に行きましょ?」
「はい。そうしましょう」
案内では、少し気持ち悪い生き物が展示されている様子だったので、2人は変な生き物研究所と書かれた扉を回避して次の場所へと向かった。
「未来! 見て! すごく可愛いわ! ほら! 飛んだわ! 一生懸命手を伸ばして!」
妃子は、テンションが上がった様子で未来の肩を叩いている。
ちょうどラッココーナーに来た時、餌やりショーの時間になったので一番前のいい場所で見る事ができている。
飼育員さんから餌をもらう為に、ラッコが愛想を振り撒きながらショー感覚で餌を貰っている。
テンションの上がった妃子の叩く力は手加減のない力強いものであったが、ステータスに差があるので、未来は微笑ましく相槌を打つ事ができていた。
その後も色々と見て回った後、未来と妃子はお土産コーナーへやってきた。
水族館の閉館時間は17時と早いので、もうそろそろ水族館デートも終盤である。
「か、かわいいわ!」
妃子が、お土産コーナーにあったジュゴンのデフォルメされたぬいぐるみを手に持って目を輝かせている。
「妃子先輩、それが欲しいんですか?」
「ええ。これは絶対に買うわ!」
妃子はそう返事をしてそのままぬいぐるみを小脇に抱えた。
「それじゃ、それは僕がプレゼントしますよ。この服も選んでもらいましたし、お礼もかねて」
「ほんとに?」
「はい。せっかくなのでプレゼントさせてください」
未来にプレゼントを買ってもらった妃子はお会計の済んだジュゴンのぬいぐるみをホクホク顔で抱きしめ、くるくると回った。
「そんなに喜んで貰えるなんて良かったです」
「ええ。大切にするわ! 今日はこの子を抱いて寝なくちゃね!」
妃子の喜ぶ姿を見て、未来は自然と笑顔になった。
お土産も買い終わった2人は、閉館時間前に連絡を取り合って悠里達と合流をする。
その後、集合した4人は晩御飯を食べながら水族館の感想を話したりして盛り上がり、日が暮れる頃に別荘へ帰宅したのであった。
別荘に帰った後、寝る前に妃子は部屋でデートに興味津々な2人から質問攻めにあって、寝る時間はとても遅くなったようである。
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