第65話 緊張の朝
未来は本日の服装が指定されている。
先日みんなで買いに行った時に妃子が選んでくれたコーディネートであった。
「よし!」
部屋に備え付けてある鏡で変な所がないか何回も確認した後、声を出して気合いを入れ、緊張を誤魔化した。
今日は昨日の勝負の結果により未来は妃子と水族館デートをする事になっているのである。
以前は2人で登下校をしていたとはいえ、女子と2人で何処かにお出かけというのが初めての事なので朝から緊張して1人なのに顔が引き攣っていた。
「はぁ、緊張するな。妃子先輩にとっては予行練習みたいなみたいな物なんだろうけど。……うん、そうだよね、予行練習だよ。僕が意識しすぎたら失礼だよね」
未来は言い訳のように理由をつけて気持ちを落ち着かせるように「ふぅ」と息を吐いた。
「未来ー! 準備できたー?」
「は、はい! 今行きます!」
妃子の呼ぶ声に、未来は慌てて部屋を飛び出した。
女性の準備は時間がかかると聞くので油断していたが、よく考えたら自分と出かける為に時間などかけないだろうと待たせてしまった事を後悔するのであった。
妃子が未来を呼びに来るより数時間前、妃子は今日、いつもよりだいぶ早く起きた。
同じ部屋の悠里と虹花を起こさないようにそうっと部屋を出ると、別の部屋で出かける準備を始めた。
時計を見て何がなんでも起きるのが早すぎだろうと思いつつも、いつもより準備に時間をかける。
今日は昨日勝ち取った未来との水族館デートである。
なぜこんな事になったかと言うときっかけは虹花の一言であった。
「せっかくの旅行だしさ、三重ってデートスポットが沢山あるからこの機会に未来んとデートしてみれば?」
妃子も悠里も、お互いが未来の事を意識している事はしっている。
それに未来とデートと言う言葉はパワーワードであった。
そしてもう一言。
「それに未来んってデートした事ないと思うんだよね。だから、先着一名は未来の人生初めてのデートをもらう事になるよねぇ」
「人生……」「初めて……」
ニタニタといやらしい顔で話す虹花の言葉を聞いて妃子と悠里は喉を鳴らした。
「未来んの初めてを奪う権利を勝負して決めよう!」
虹花の言葉に乗せられ、すぐさまホテルのプールを押さえた。
競泳という勝負はステータスが上がっている自分が有利であったが勝つ為に手段は選ばなかった。
未来は悠里が好きなのだ。
告白が失敗しているとはいえ、悠里が行動を起こせば自分の敗北は目に見えている。
だから、絶対に印象に残るであろう初デートは譲れなかった。
「妃ちゃん早起きだね!」
「おはようございます、妃子先輩。今日は、楽しんでくださいね」
「ええ、目一杯楽しんでくるわ!」
いい時間になって、妃子がバッチリ用意してリビングで飲み物を飲んでいると、2人もリビングにやってきた。
2人は部屋でいつものような準備をしてきたようである。
挨拶の後、妃子と悠里の間に少しの静寂が流れる。
「えい!」
虹花が2人のほっぺを指で突いた。
「これで2人の仲が悪くなったら私も未来んも悲しいんですけどぉ」
虹花はそう言いながらプニプニと2人のほっぺを押した。
その行動で、2人の緊張がほぐれた。
昨日の夜も、3人で仲良く話していたしお互いにいいライバル関係だと意識してはいるが友人としての仲は良好である。
「そうね。今日はしっかり楽しんでくるわ。だから、次のスペイン村はそれに負けないくらい楽しんでね」
「はい。私も妃子先輩に負けないようにお洒落頑張ります。今日の妃子先輩、凄く綺麗ですから」
「ふふ、ありがとう。それじゃ、行ってくるわね!」
妃子は2人に見送られて、まだ部屋にいる未来を迎えに向かったのであった。
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