第64話 競走
未来は今、海ではなく室内プール、しかも競泳用のプールへやってきていた。
なぜここへ来たかというと、朝まで遡る事になる。
「未来、おはよう」
「未来君おはようございます」
「未来んおっはよー!」
未来は朝起きてリビングへ向かうと、妃子、悠里、虹花の3人は既に起きて来ていた。
「未来ん、昨日はどのベッドで寝たの? やっぱり私が寝た手前のベッド?」
「そんなわけないでしょ。そことは反対側の一番奥のベッドで寝ましたよ」
未来は揶揄ってくる虹花をあしらうように返事をした。
なぜか妃子ががっかりした様子をしており、悠里が恥ずかしそうに俯いているが、変な事は言っていないはずである。
「ほほう。エッチだねえ、未来ん!」
「何でそうなるんですか! 違うベッドで寝たって言ってるでしょ!」
未来が精一杯否定するが、虹花はニヤニヤとした様子で未来を見ている。
「ところで未来、今日は予定を変更してプールに行くわよ!」
いきなりではあるが、妃子が話題を無理矢理帰るようにバンと机を叩いて立ち上がると未来に宣言した。
「妃子先輩いきなりですね。今日は海に行くんじゃなかったんですか?」
「海はいつでも行けるわ! 今日はプールで、競走なのよ!」
と言う訳で本日はプールにやってきたのであった。
「未来ん、そう残念がんなくても海はまた行くからさ。ほら、2人の競泳水着姿も良いもんだよ。未来んが期待してた一緒に買った水着よりも布面積は大きいけどあのピタッとした感じとかあれはあれでセクシーだと思——」
「別にそんなことで残念とか思ってないからね! 何でいきなりプールで競走なんて話になったんだろうって思ってただけだからね!」
未来の隣で未来の言葉を代弁するかのように饒舌に話す虹花ぬ未来は勢いよくツッコミを入れた。
「ああ。それは明日の水族館とか来週行く予定の志摩スペイン村とかを回る時の未来んの隣をかけての勝負だよ。昨日私が寝る前に焚き付けたの。面白そうだから」
ニシシといい笑顔で話す虹花の様子に、未来はため息を吐いた。
「そんなわけないでしょ。別に分かれなくても4人で回ればいいだけの話じゃないですか」
「もう、鈍感組んだなぁほんと。そんなんじゃ逃げられちゃうよ? 思春期の気持ちなんて熱し易く冷め易いんだから」
やれやれと言った様子ではなす虹花の言葉に、未来は首を傾げる。
「なんの話ですか」
「まあいいや! 私も一応賑やかしで勝負に参加するからね。未来んはスタートの合図を頼むよ!」
虹花はそう言うと立ち上がり、競泳水着の上に着ていたパーカーを脱いで妃子や悠里の元へ向かう。
少し前まで準備運動をしていた妃子と悠里も、準備ができているようで、3人は25メートルプールのスタート位置へ向かう。
「未来! 準備はできたわよ! 早くスタートの合図に来て!」
「分かりましたよ」
未来は3人の元へ向かう間、虹花に言われた言葉で、先程まで意識していなかったのに肌に張りついて体のラインがよく分かる水着姿を見て、恥ずかしくなって視線を彷徨わせる。
「そ、それじゃ行きますよ! 位置について、ヨーイ、ドン!」
未来の合図を聞いて、3人は一斉にプールへ飛び込んだ。
ターンをして戻って来るまで50メートル。
勝ったのは妃子であった。2着が悠里で3着は虹花。
「これで明日の水族館は私と未来がペアね!」
ガッツポーズを決める妃子の姿を見て、未来は先程の虹花の話が本当だったのだと思った。
「それじゃあ来週のスペイン村は悠里。私は別にいいから他はみんなで回ろうね!」
未来はやはり「それだったら全部4人で回ったらよくないですか?」と言いたかったが、妃子の喜ぶ様子を見ていると言い出せなかった。
一番この状況を楽しんでいる虹花はと言うと、この状況を作り出す為に昨日の夜に未来とのデートを考案したり、「デートするなら水族館の方が汗の匂いとか気にしなくていいよね!」等色々と2人に吹き込んだのであった。
そして今はご満悦の様子でプールを仰向けにして浮いている。
「にゃ〜楽しいね!」
虹花はガバッと起きると手を今日に使って水鉄砲のようにプールの水を飛ばした。
「ひゃ!」
その水は悠里の顔にあたって悠里は小さな悲鳴を上げた。
「未来んも入りなよ! せっかく貸し切りなんだし時間いっぱい遊ぼ!」
別に貸切にしたわけではないのだが、プールに人が居ないので貸切のようなものである。
「そうね。未来も早く入ってきなさい!」
「未来君はやく!」
そう言ってプールサイドの未来に向かって3人が水を飛ばすが勢いが足りず、届かない。
「分かりましたよ、入りますから」
せっかく旅行に来たのにもかかわらず、未来達の2日目は学校のプールの自由時間のようにすぎていくのである。
尚、小学校以降プールの授業の無かった未来達にとっては、この時間も非常に楽しいものであった。
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