第63話 害
「ったくよ。電車乗り過ごしちまったじゃねえか!」
「融通効かねえよな。で、どうすんの? 特急券の金払ってたんだけど?」
文句を言いながら、キャリーケースを引いて移動しているのは夏休みを利用して旅行に来た大学生3人組であった。
3人組は、ちょっとしたトラブルによって電車を乗り過ごしてしまっていた。
「もう勝手に特急乗っちまえばいいんじゃね? 文句言ってきたらさっきと同じやり方で黙らせればいいっしょ」
「でも、よく思いついたよな、あんな事」
「サークルの飲み会でスキルに当選したのを自慢してる奴が居てさ、それを見てな。ここが違うのよ、ここが」
大学生の1人が自慢げに人差し指で頭をトントンと叩いた。
「でもさ、誰なんだ? 井尻真斗って?」
「知らねえよ。お前見てねえの? ランキング」
「ランキング?」
得意げに話をする大学生はステータスからランキングの確認の仕方を説明した。
「へぇ、ランキング10位ねえ。だったらこの1位の
「バカだな。いきなり1位の人物が目の前に現れても嘘だと思うだろ? 10位くらいがちょうどいいんだよ」
「はぁん、なるほどな。んでスキルを使って脅したんだ」
「ま、ハッタリだけどな」
この大学生達は、駅員に荷物の利用料を請求されたのだが、ランキングの人物の名を語り、スキルを使うとで脅して見逃してもらってきていたのであった。
「どっかでスキルを使ったトラブルのニュースを見たんだよ。今は警察も対応が間に合ってないから泣き寝入りだってな」
実際、少なからずスキルを使った事件やトラブルというのは起こっており、問題視されている。
しかしこの大学生が言っている内容が全てではなく、スキル持ちを刺激してしまうとより大きなトラブル、他を巻き込んだ事件になってしまう事も想定される為、防犯カメラの映像やボイスレコーダーの音声等で証拠を得て、後から警察等に通報するように大きい会社は指導を受けて変わってきていた。
そんな事は知らない大学生達は、今回の事で味をしめたのか特急券なしで電車に乗り込んだ。
「とりあえず駅に着いたらレンタカーだな」
「そうだな。んで旅館に荷物置いて、海はもう遅いから明日だな。それより素泊まりプランだから美味い飯食いに行こうぜ!」
「俺、回転焼肉っての行ってみてえ!」
「伊勢まで来て海鮮じゃないのかよ? サザエとか伊勢海老とかさ」
「泊まるのは鳥羽な。日にちあるんだし両方行けば良いじゃん。今日はじゃんけんで決めようぜ!」
「細えな。伊勢も鳥羽も似たようなもんだろ? よし、俺は勝って海鮮をもぎ取るぜ。スキルでも使うかなぁ」
「なんのスキルだよ!」
大声で騒ぎながら、適当に空いている席に乗車して大学生達は移動する。
「すみません、席を間違えてませんか?」
そこに、水を差す人物が現れた。
「はぁ?」
「そこは私の席のはずなのですが……」
「だから? 俺らが先に座ってんの。見たらわかるだろ? どっか行けよ。別のとこにでも座れば?」
「そんな。馬鹿な話——」
「うるさいな。コイツスキル持ちでランカーの井尻ってんだけど、言うこと聞かないならどうなるか、分かるよな?」
先程と同じように、スキルという大きな力を使って目の前の乗客を脅して黙らせる。
乗客は、大学生達のその態度に関わっては行けない人物だと察知したのか言い返さずに去って行った。
その後、乗客は車掌に相談して別の席を用意してもらったのだが、大学生達の知るところではない。
その後、車掌が来て色々と言われるが大学生達は聞く耳を持たない。
他の乗客に迷惑をかけながら、大学生達の楽しい旅行が再開したのであった。
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