第50話 ショッピングモール《休息》

「虹花、アンタまだそんなに食べるの?」


 コーヒーショップで飲み物と共にハムとチーズのパニーニとブラウニーを注文した虹花に悠里が呆れた様子で声をかけた。

 ちなみに悠里はコーヒーとチーズケーキを頼んでおり、妃子はチョコレートのフローズンシェイク、未来はカフェオレであった。


「私は燃費が悪いんだよ」


 虹花はそう返事を返しながら待ち遠しそうに温めを頼んだパニーニを待っている。


「先に席取っておくからね」


「ありがとうございます。私は虹花を待ってますね」


 妃子が声をかけて先に未来と席へ向かう。


「妃子先輩はケーキとか良かったんですか?」


「これでも結構お腹膨れるもの。未来こそ、コーヒーだけでよかったの?」


 未来の質問に妃子が自分のチョコレートフローズンシェイクの容器を振りながら答えた。


「僕はお昼にお腹いっぱい食べましたから……」


 未来は苦笑いで妃子に返事をする。

 先程の虹花の指摘を聞いて、水着の試着前にお昼ご飯にしたことを少し申し訳なく思っていた。


「女の子はお昼をガッツリ食べるよりもこうやってちょこちょこお茶するのが好きなのよ。気にする必要ないわ。お昼にお腹いっぱいになってたらこの美味しいチョコは飲めなかったもの」


 妃子はそう言って美味しそうにチョコレートフローズンシェイクをストローで吸った。


 その言葉と表情に、未来はホッとした様に優しい笑顔を作った。


「お待たせー! 良い匂い! 未来ん、早く座って!」


 立ったままだった未来は虹花に言われて急いで席に座った。


 美味しそうにパニーニを頬張る虹花を見て、未来は妃子の話と違ってこちらの食欲は凄いと驚いていた。


 虹花はお昼も未来と同じくらい食べたはずである。


「なに、未来ん欲しいの? 私のはあげないよ?」


 未来が虹花の食べる姿を見ていたのを見て、虹花はそんな事をいって未来からパニーニを少し遠ざけた。


「もう、虹花、一口くらい上げてもいいじゃない。日和君、私のケーキで良ければ一口食べますか?」


 悠里が虹花の行動を嗜めて自分のケーキを一口救って未来の方に差し出した。


 それを見た虹花は思惑が成功したのかしたり顔で嬉しそうに悠里に話しかける。


「おおう。悠里ちゃんったら、大胆なんだー!」


「な! そんなんじゃ無いから!」


 悠里はいつもは虹花に一口ずつ交換を求められるのでついいつもの感じでケーキを差し出したのだが、虹花に言われて未来にあーんをしている状況だと意識して顔を赤くした。


「未来、甘いのならこっちも美味しいわよ! ほら!」


 それを見て悠里の行動に対抗する様にケーキに対して自分のチョコレートフローズンシェイクを差し出す妃子。


 そして、2人の行動に戸惑う未来の様子を見て微笑ましそう傍観する虹花の口はニヤニヤとしっぱなしである。


「だ、大丈夫。僕はお腹いっぱいだから」


 その状況に耐えかねた未来がそう言って断ったのを見て、虹花は「意気地なし」とボソリと呟いた。


 未来に断られた悠里と妃子は、何処かホッとしたような、しかし残念そうな様子でケーキとチョコレートフローズンシェイクを自らの口へ運んだ。


「それじゃさ、今日の記念にこの後はプリクラ取りに行こうよ!」


 少し気まずくなりかけた雰囲気を吹き飛ばすように、虹花が元気に提案した。


「いいわね!初めてのお出かけ記念!」


「うん、賛成」


 妃子と悠里が虹花の提案に賛成する。


「僕、プリクラとか撮ったことなくてどうしたらいいか……」


「大丈夫!ただの写真だよ! ほら、みんな食べ終えたら行こ!」


「虹花、もう食べたの?」


「あれくらいペロリだよ!」


 いつの間にかパニーニだけでなくブラウニーも食べ終えていた虹花に急かされて悠里が驚いている。


 そうしてコーヒーブレイクを終えた後、未来達はプリクラを撮る為にゲーセンへ向かった。





 未来達がショッピングモールで休日を楽しんでいる頃、日本では無い国でダンジョン調査が行われていた。


 日本が非公式に2回目のダンジョンアタックを行ったように、他国を出し抜いて利権を掴もうとするのはどこでもある事のようである。


 この国も非公式な為、調査が行われるのは国民のほとんどが寝ているであろう夜中の時間帯である。


『それじゃあ準備はできたか?』


『はい! 10匹とも機材の装備が整っています!』


 ダンジョンの前で準備してされていたのはカメラなどの機材が装備させられた訓練された軍用犬が10匹であった。


 この国は日本のように帰還した軍人がいなかった為、ダンジョンの内部調査として動物を使ってモニタリングしようと考えていたのであった。


 軍用犬にはカメラが2つつけられており、一定の距離までならワイヤレスで映像を送信できる物とバッテリーが続く限り録画し続ける物である。


 ダンジョンの中はどこまで電波が届くか分からないのでカメラも二段構えという訳である。


 実際、未来の時計も百均の時計でも電波時計では使えずに買い直しているのでこの判断は正しかった。


『GO!!』という掛け声と共に、10匹の軍用犬がダンジョンへと入っていく。


 この国の軍は日本とは違い、初めに銃火器を持ち込まなかった国である。


 ダンジョンという閉鎖空間で跳弾して味方に当たる事を想定し、創作物も加味した上でいけそうならば第二陣で試すつもりで剣など取り回しのいい武器をもって探索をしていた。


 結果、帰って来る者はおらず、今回の探索に踏み切った訳なのだが。


 これも、日本のスキルという情報が入っていれば違ったアプローチになったかもしれない。


 この探索の成果はどれ程でるのだろうか?

 作戦チームは、送信されてくる映像が途切れるまで、モニターに齧り付くようにしてチェックするのであった。


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