第48話 ショッピングモール《度胸》

「んあー! 満足満足!」


 虹花がお腹をぽんぽんと叩きながらが、もう片方の手で伸びをした。


 食事を済ませて今は水着を選びにお店に向かっている途中であるが、食事を終えた辺りから虹花意外の3人の口数が少なくなっていた。


 エスカレーターを上がり、店に向かう頃には3人共手と足が左右で一緒の方が出ているし、緊張で顔が強張っている。

 これまで、未来の事を揶揄っていた女性陣であるが、男性と水着を選びに来た経験などなく、妃子も悠里も学校以外で水着を着る事などなかったものだから緊張しているようであった。


 虹花に関しては、陸上部という事もあり、ユニフォームでよく似た物になれている為、緊張はない様子である。


「みんな緊張しすぎ! 気づいてる? みんな歩き方が変に一緒になってるの」


 虹花が苦笑いで指摘した事で、3人と歩き方に気がつき、顔を見合わせて「クスクス」と笑いが溢れた。


「こんなのはね! 女は度胸! 未来んは可愛い女の子の水着姿を楽しみにドッシリと構えてればいいのよ!」


 虹花はお店の側まで来ていた事もあり、妃子と悠里をお店の試着室まで連れていき、中に放り込んだ。


「虹花、私達まだ水着も選んでない——」


「とりあえず妃ちゃんはこれとこれを来てみてください! 悠里ちゃんはこれね!」


「なんで虹花が私のカップ数知ってるのよ!」


「そんなの何回も揉めば大体把握できるわよ」


 妃子と悠里の水着を勝手に選んで渡した虹花に2人が抗議するが、虹花はニヤリといやらしい笑みを浮かべて手をワキワキと動かす。


それを見て妃子と悠里はサッと両手で胸を隠した。


 その後虹花は、2人の更衣室のカーテンを閉めて、店の前で1人残されて固まっている未来を迎えにいき、更衣室の前の椅子に座らせる。


「未来ん、店の前に1人でいらた不審者だよ? ここで着替えるのを待ってて。あ、でも、のぞいちゃダメだぞ? この中では悠里と妃ちゃんが生まれたままの姿で——」


「虹花! 変な言い方しないで!」


 虹花の話を聞いた未来は想像してしまったのかこれまでにない程顔を赤くして俯いてしまった。


「虹花、本当にこれを着るの?」


「私、こんなの……」


「女は度胸! その位はみんな着てるから! 早く! 未来んが待ち遠しそうにソワソワしてるから! 早く着替えないとカーテン開けちゃうぞ?」


「「分かったから!」」


 更衣室の中からは妃子と悠里の戸惑う声が聞こえてくるが、虹花は有無を言わさぬ勢いで2人を煽った。


 その後も「でも」とか「流石にこれは」などと更衣室の中から聞こえてきたが、しばらく静まり返った後に意を結して着替えたのか、更衣室のカーテンが開いたのは2人同時であった。


 シャッという勢いのいい音と共にカーテンが開くと、そこには明らかに布面積の少ない水着を着た妃子と悠里が顔を赤くして立っていた。


「うわー、凄い! 本当に着たんだ。2人には大人っぽ過ぎない? 未来んが見たら興奮して鼻血吹いて倒れちゃうよ?」


 悪戯が成功した事に笑いながら話す虹花はがっしりと手で未来の目を目隠ししており、漫画のように指の隙間から見えているという事も無かった。

 周りに今は人はいないので2人の少々過激な水着は虹花意外に見ている人はいない。

勿論、店の外からは見えない位置である。


「これで度胸はついたでしょう? 早く服着替えて水着選ぼう? 早くしないと未来んの目隠し取っちゃうよ? 2人が着替えるの遅いから腕疲れちゃったしー!」


 虹花に揶揄われた事を悟った妃子と悠里は顔を真っ赤にして爆速でカーテンを閉める。


 着替える途中で2人の苦情が聞こえてくるが、虹花には柳に風、暖簾に腕押しであった。


 私服に戻った2人が更衣室から出てくると、虹花は未来の目隠しをしていた手を外す。

 

 強く抑えられていたせいか、未来の視界にはモヤがかかったようになっており妃子と悠里の表情は見えなかった。


「それじゃ、ちゃんとした水着を選びに行こう! 2人も未来んにちゃんとした可愛い水着を見てもらいたいでしょ?」


 虹花はそう言って、苦情を言い続ける妃子と悠里を連れて水着を選びに向かう。


 1人残された未来は目隠しを取る前に耳元で虹花に囁かれた「見れなくて残念だったね。流石にあれはエチエチ過ぎたよ」という言葉に湯気が出るのではないかという程に顔を真っ赤にし、思考停止して固まっているのであった。

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