第41話 非公式ダンジョンアタック3
ダンジョンを進んで更に2回モンスターとの戦闘を行ったが、自衛隊員はスキルを取得できていなかった。
「レベルは前回の私よりも上がっているがまだスキルは現れないか?」
「はい。まだ覚えていません」「申し訳ありません」
部隊長の確認に2人のスキル未取得の自衛隊員が申し訳なさそうに答えた。
本来なら2人ともスキルを取得して前戦に立たち、井尻を前戦から下げないといけないのだが、今だに妃子を守るようにして後ろにいるからであろう。
逆に、井尻は2回目の戦闘でモンスターを殴り飛ばした時に剣で戦うよりも、直接殴った方が強いと感じたのか勝手に前戦で嬉々として喧嘩するようにモンスターを殴り飛ばしている。
実際、井尻のスキルである《腕力強化》は剣を持っていると発動しないので、井尻は正しい戦い方にたどり着いているのである。
これまでの戦闘で入り口の時よりもレベルが上がっているおかげか余裕を持った戦闘ができている所だけが救いであった。
そして、一定の時間を置いて次のモンスター達が現れた。
入り口の5体からだんだんと増えて今回現れたのは12体現れた。
「待て、あのモンスターは! 慎重に構えろ!」
部隊長がモンスターの中に体の色の違うモンスターを発見して静止をかけた。
「何ビビってんすか! 俺達ならやれるでしょう!」
部隊長の命令を、調子に乗っている井尻はモンスターに向かって走り出した。
「まて!」
部隊長の再びの静止も聞かず、井尻はモンスターを殴り飛ばす。
殴ったのが今までと同じ通常のモンスターだった為、井尻の拳は問題なくモンスターを壁まで殴り飛ばした。
「ほら、平気でしょう!」
井尻は得意げに次のモンスターを殴る。
ガチン。と今までと違う鈍い音がダンジョンに響いた。
井尻が殴ったモンスターの体は青い体のゴブリンである。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
青い体のモンスターは笑い声にも聞こえる鳴き声をあげて井尻に向かって剣を振るう。
しかし、井尻は何を思ったかモンスターが目の前にいるのに青いモンスターを殴った拳を押さえてそちらを見ており、モンスターを見ていなかった。
「下がれ!」
井尻が前に出た後を追いかけるようにして動いていた部隊長が井尻の襟を掴んで力一杯引っ張る。
そのおかげで井尻を切り裂くはずだったモンスターの剣は空を切り、井尻は地面を転がった。
「くそぅ!」
部隊長はガムシャラに青いモンスターの胸に向けて剣を伸ばす。
井尻の拳は通じなかった。
しかし、部隊長の剣は青いモンスターの胸を抵抗なく貫いた。
「よ、よし!」
この前は手も足も出なかった色の違うモンスターに攻撃が通った事に喜びの声を出して、しかし深追いはする事なく、部隊長は井尻を引きずって妃子や他の自衛隊員の元へ戻って来た。
「痛え、欅神楽先輩、早く回復を! 拳が、骨が折れてる!」
部隊長の《魔力(物攻)》と違い井尻の《腕力強化》は元々の力が強くなるだけである。
モンスターの《魔力(物防)》に対して有効ではなく魔力の壁の前に拳が砕けたのであった。
「無理だよ。さっきも言ったでしょう! やり方が分からないの!」
「さっきは回復してくれただろう! 早くしてくれよ! 痛いんだよ!」
「私、さっきも何もしてない!」
入り口で井尻が怪我をした時に治ったのは、ただ単に井尻のレベルが上がった為に全ての怪我が治っただけであった。
その為、妃子は自分のスキル《魔力(回復)》について何も分かっていない。
「何でも良いから誰か俺を治せよ!」
井尻が叫ぶが誰もその術を持っていない。
「まさか! 隊長! あれを!」
井尻が泣き叫ぶ中、自衛隊員の1人がモンスターの方を見て悲鳴に近い叫び声を上げた。
部隊長もそれに反応をしてモンスターを見て声にならない悲鳴を上げる。
残ったモンスター達がこちらへ向けて武器を構えているのが見える。その構える武器は部隊長もよく知る武器である銃であった。
先程倒した2体を引いた10体のモンスターが先程まで剣を持っていたはずなのに何故かこちらに向けて銃を構えている。
緑、青、赤色の体をしたモンスター達が一斉に引き金を引いた。
乾いた音が聞こえる中、部隊長は咄嗟に民間人の2人を守らなければと他の自衛隊員達へ命令を叫びながら妃子へ覆い被さった。
残りの2人の自衛隊員も部隊長の命令を聞く前に井尻を庇うように自らの体で壁を作る。
しかし自衛隊員達の壁も完璧ではなく、隙間を通って妃子の足に命中した。
井尻の方は2人が壁になったおかげで無傷であったが、壁になった自衛隊員2人はスキルもない為に致命傷となってしまった。
唯一、部隊長だけはなぜか銃弾を体が弾いた為に無傷である。
妃子は自分の足に感じる痛さを通り越した熱い感覚と、自分に覆い被さった部隊長の体の隙間から見える体に数発の銃弾を受けて息絶えた2人の自衛隊員の姿を見て、自分の命の終わりを悟った。
「ああ、私はみんなと一緒に旅行に行けないや。ごめんね。……最後に、未来にもう一度会いたいな……」
妃子の口から諦めの言葉が口から漏れ、目からは涙が溢れてくる。
「ぎゃぎゃー!」「ギャッ」「ぐぎゃぎゃ!」
妃子の見えない所で、ゴブリン達から悲鳴のような声が聞こえた後に、ダンジョンはしんと静まり返った。
「妃子先輩、ここにいますか?」
静かになったダンジョンで聞こえてきたのは、妃子の望んだ未来の声であった。
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