第39話 非公式ダンジョンアタック

 時間は未来が妃子を助けにダンジョンへ入る数時間前まで遡る。


「本当にもうダンジョンへ迎えというのですか? まだ、あまりにも時間が足りません! もっとしっかりと作戦を立て自衛隊だけで何とかすべきです! 一般人を巻き込むなどという事は避けるべきです!」


 ダンジョン探索の為の召集に意を唱えたのは、前回ファーストダンジョンアタックの時に部隊長を務めた自衛隊員であった。


「貴方に意見は求めていません。これは総理と防衛大臣の決定。すなわち、国の決定です」


「議会はまだ通っていないのでしょう? 総理や大臣だからといって自由にしていい問題ではないはずです!」


 なおも食い下がる自衛隊員にやれやれと言った様子で和久井はため息を吐いた。


「この件はスピードが大事なのです。生存者というアドバンテージを持った日本が、スキルという有効的な情報を元に世界で初めてダンジョン攻略を成功させたという事実を得て、世界に対して優位に立つにはね。幸いな事に駒は集まっています。スキル持ち3人にこれからスキルを取得させる自衛隊員2人。物語のように5人というのが最適な数だという予測も出ています。失敗は許しません。成功させてください」


 ダンジョン探索の経験がある自衛隊員は和久井の物言いに空いた口が塞がらなかった。

 和久井の話は国都合の理想話であり、現実的な話ではない。


 本当にスキル持ち3、それ以外の人間2が最適だったとしても、それは訓練された自分達自衛隊のような人間の話であろう。

 間違っても最近訓練と言って遊びに来ている学生や紹介されてもいないもう1人を入れての話ではない。


 それも、ダンジョンから生還した身からすれば机上の空論のように思えてしまう。


「しかし、それは——」


「うるさいですよ? 私は防衛大臣に全てを任されているのです。私が頭で貴方は駒。駒の意見は必要ありません。あなたは命令を聞いて成果を持ってこればいいのです。それに、新しい駒のスキルは《ヒーラー》です。より成功率は高くなるますよ。意識さえ戻っていれば、自衛隊員を回復させて使えたのですが、できないものはしかたながありません。幸いな事に立候補者がいましたから問題ありません。

……まあ見ていなさい。私、こう見えてもシュミレーションRPGは得意なんです」


 話の通じない和久井に、自衛隊員は参加者に呼びかけてストライキを起こしてボイコットしようと考え、挨拶ませずに部屋を出て行こうとする。


「ああ、そうだ。変な気を起こさないでくださいね。娘さんや奥さんは元気な方がいいでしょう?」


 部屋から出る為にドアノブを握った自衛隊員に和久井は釘を刺した。


「……失礼します」


 後ろ姿で顔は見えなかったが、自衛隊員が悔しそうな顔をして出て行ったのを想像して和久井は笑みを浮かべた。


「能無しの駒は言う事を聞いといれば良いのです。ああ、私もいよいよ昇進ですかねぇ」


 和久井は1人になった部屋で楽しそうに音階のズレた口笛を吹き始めた。




 数時間後、予定通りに自衛隊+αのダンジョン探索チームは門を通ってダンジョンへ入っていく。


 今回も部隊長を務める事になった自衛隊員は、この状況で、できるだけ一般人を危険な目に合わせまいと突入前に他のスキルを持たない自衛隊員にまずはスキルを取得するようにと作戦を立案した。


公式では発表されていないセカンドダンジョンアタックはこうして始まったのであった。

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