第25話 事件

未来が妃子と登下校を一緒にするようになってしばらくした頃、未来は妃子を家まで送り届けた後に日課のダンジョンへ向かっていた。


「日和君!」


未来が呼ばれた声に振り向くと、焦った様子で未来の方へ走ってくる悠里の姿があった。


「高宮さん?」


驚く未来の背後に悠里は隠れるように移動すると、自分が走ってきた方向を覗き見た。


何かあるのかと未来も同じ方向をみるが、変わった様子はない。


「どうしたの? 高宮さん」


「ううん。何でもない」


悠里のあからさまにホッとした様子を見て未来は心配になった。

このまま別れてはいけないという直感にも似た感覚である。


「高宮さんの家ってこっちの方なんだ?」


「ううん、最近はちょっと遠回りをして帰ってるから」


未来の質問に答える悠里の表情はいつもとは違ってその笑顔がどこかぎこちなく見える。


「なんでまたお前が高宮さんと一緒に居るんだよ!」


未来が悠里に相槌を打とうと思った時、未来に向かって怒声が浴びせられた。


その声に悠里が震えたのを視界の端にとらえながら未来は声のした方を振り向く。


振り向いた先にいたのは同級生の井尻であった。

井尻は苛立たしげに顔を歪めながら暴言を発しながらズカズカと未来達に近づいてくる。


「そこで止まって! 高宮さんが怖がってる」


井尻が近寄って来る姿をみて恐怖で震えてしまっている悠里を見て未来は井尻を語気を強くして止めた。


「お前が俺に指図するな! おかしいだろ! 

なんでお前が高宮さんと居るんだよ! 振られたなら大人しく関わるなよ!」


「たまたまここで会っただけだよ」


井尻が喚くのに対して未来は冷静に答える。


「なら関わらずにどっか行けよ! 陰キャの癖に女たらしとか気持ち悪いんだよ! 調子に乗りやがってよ!」


井尻は怒りに任せるようにして未来に殴りかかってきた。

声の大きさや怒った雰囲気、殴りかかって来る動作に悠里の顔は血の気が引く程恐怖に染まっている。


悠里のその姿を見た未来は今回はいつものように受け身でなあなあにするのではなく、井尻に対して反撃に出る事にした。


殴りかかってきた井尻の腕を掴むと、未来はそのまま腕を捻って投げ飛ばしてしまう。


受け身が取れなくて変な落ち方をして大怪我をされても問題になるので、井尻が受け身を取ったような落ち方に調節するようにして地面に落とした。


それでも背中から落ちた井尻の受ける衝撃は相当なもので、肺から空気が押し出されて痛がりながら咳き込んでいる。


「君の態度に高宮さんが怖がってる。これ以上痛い目見たくなかったら分かるよね?」


痛そうにうめく井尻に対して未来は言い聞かせるように話した。


井尻は悔しそうに未来の方を睨みつけると、背中を押さえながら「覚えてろ」と捨て台詞を吐いて去って行った。


「高宮さん、大丈夫?」


井尻が見えなくなった後、未来は震える悠里に声をかけた。

その後、流石にそのままさよならと言うわけにはいかないので、どうして井尻に追われていたのか話を聞く事になった。


そのまま道端で話を聞くのもあれなので、落ち着いて話せるように、近くにあるダンジョンのゲートがある丘の上の公園に移動してベンチに座って話を聞く事になった。



話を聞くと、悠里は少し前に井尻と帰りの時間が重なったらしく、その時に少しだけ一緒に帰ったらしい。

それから井尻は、毎日時間を合わせてまるでストーカーの様に家まで送ろうとしてきたのだそうだ。


なんとか理由を作って家に帰る前に別れていたのだが、最近はその理由付けの買い物にまで着いてこようとしたり、その後にやはり家まで来たがったそうである。


悠里はそれが怖くなって、今日は道を変えて帰っていたのだが、井尻はちゃんと現れたそうで、それからは未来が知る通りである。


その話を聞いて未来はおいおいと思った。


自分未来に虐めだのなんだのと言ってくるが、自分井尻がしているのは犯罪ではないかと。


「私、これからどうしたらいいんだろう」


先程の恐怖で震える悠里の力のない言葉が溢れた。


「それは、学校に相談するか、それとも警察に相談するかじゃないかな?」


未来はこれ以上事が大きくなる前に大人に相談した方がいいと思い提案をした。


「一応先生には相談したんだけど仲良くしろとしか言われなくて。警察も、実害がなければ動いてくれないっていうじゃない?」


しかし、悠里は既に大人先生には相談した後だったようで、諦めた顔で未来の方を見た。


今まで見たことのない悠里の焦燥した姿に、未来は自分ができる事をしようと思った。


「高宮さん、まだ時間大丈夫? ちょっと相談したい人がいるから一緒に来て欲しいんだけど」


未来が悠里の為に動こうとしている事が伝わったのか、悠里は未来の方を見てゆっくり頷いてスマホで家に連絡をしている。


未来も少し遅くなる事を家に連絡して、2人はある場所へ向かうのであった。


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