第24話 初出勤

翌日、未来は朝から妃子初めての護衛の一緒に登校する為に欅神楽家に向かっていた。


そろそろ屋敷に着くかといった道中、ゴミ捨て場で井戸端会議する近所の奥様方が居た。


「おう! ボウズ、朝からご苦労だな!」


その集まっている奥様方の中から未来に話しかける声があった。


未来が振り向くと欅神楽家のチンピラAもとい濱谷はまたにが箒を片手に持って反対の手を振っていた。

昨日屋敷を訪れた際は未来に絡んで来たように見えたが、実は妃子の事をよろしく頼むと言いに現れたようで、まだ未来に話が通ってないのを知っていた黒田から水をかけるという方法で口止めされただけであった。


話が終わり帰る時には改めて未来に「よろしく」と話に来ていた。


言動などからチンピラ感は拭えないが、意外としっかりしているようである。


「あら、欅神楽さん宅の新人さん?」


「いや、ボウズはお嬢のこれだ」


濱谷は奥様方の1人の質問にそう言って小指を立てた。


「違いますよ! 只の後輩ですから!」


「照れんな照れんな!」


未来は否定するが濱谷は聞く耳を持たない。


「そうね。欅神楽さん宅の新人さんにしては真面目そうだものね」


「そうね、必要なさそうだものね」


奥様方もなぜか納得して微笑ましそうにしている。


欅神楽家の新人とはどういう事かというと、欅神楽家はどうしようもない反グレの更生も行っているそうで、チンピラAこと濱谷もその1人であった。


今では言動や見た目こそチンピラだが、朝から動物に荒らされたゴミ捨て場を掃除しだ後に近所のゴミを捨てに来た奥様方と談笑するくらいには真人間になっている。


「おっと、引き留めすぎたらお嬢が遅刻しちまうな。ボウズ、お勤め頑張れよ!」


「お勤めって……」


「頑張ってね!」「ファイト!」


未来は濱谷と奥様方に見送られて欅神楽の邸へと向かった。


欅神楽家の門を潜ると屋敷の前に黒髪のスーツを着こなした綺麗な女性が立っていた。

何処となく妃子に似ている。年齢的に大学生位なのでお姉さんだろうかと未来は思った。

どこかて見た事がある気がするが、それは妃子に似ているからであろうと未来は考える。


「へえ、貴方が日和君ね、ふーん。本当に強そうには見えないわね。まあ、黒田の事を信じないわけじゃないし、あの人が決めた事だから仕方ないけど、妃子の好みはこんな感じなのねー」


女性は未来を品定めするように顎を指で触りながらじっくりと見ている。


「あの、おはようございます……」


「ええ。おはよう」


未来が居心地悪そうに挨拶をすると、女性は笑顔で挨拶を返した。


「ママ!」


「あら、妃子ちゃん。もう準備できたの? 日和君が待ってるわよ!」


「ママを探してたんでしょ! 未来が緊張して固まってるじゃない!」


「あら、そう? ごめんなさいね日和君。これから妃子ちゃんを頼むわね、傷物にしたら承知しないわよ?」


「は、はい!」


妃子がママと呼んだ事でお姉さんだと思っていた未来は口を開けて驚いていたのだが、妃子の母親の一言に背筋を伸ばして返事をした。


「だからママ!」


「ふふふ、釘は刺しとかないとね。それじゃ妃子ちゃん行ってらっしゃい」


妃子の母親は笑いながら西洋風の頬にキスする様な仕草で妃子に挨拶すると2人に手を振って屋敷へ入って行った。


「未来、迎えに来てくれてありがとうね」


「いえ、それじゃ学校に行きましょうか」


こうして未来としては少し騒がしい朝であったが、未来と妃子の2人は平和に登校するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る