第16話 自衛隊の動き1

「本当にこんな訓練ばっかで効果があるんですかね?」


「どういう事だ?」


「い、いえ、なんでもありません!」


新しく始まった剣術の訓練上がりに同僚に愚痴をこぼしていた自衛隊一等陸士の青年が、視察に来ていた上官に話を聞かれてしまい、慌てて背筋を正し、敬礼して自分の言葉を否定した。


その様子に苦笑いしつつ、上官は首を振りながら陸士に質問をする。


「いや、言ってみなさい。今の状況は何もかもが手探りの状況だ。君の一言がヒントになる事があるかもしれない」


上官の質問に、青年は本当に言ってもいいのかと不安になりながらも、意を決して自分の意見を話し始めた。


「ダンジョン、門の出現から私達はずっと剣や槍などの物理武器の訓練をしています。それは物語に登場するダンジョンでは銃が役に立たないという予想の元です。しかし、それは人の創造物の中の話でありますし、近年では異世界で自衛隊が銃を持って活躍するなどと言った物語もあります。私は物理的な武器に固執せず、銃という選択肢も捨てるべきではないと思うのです。銃が通用するならば、そちらの方が確実に戦力になります」


青年の言葉を聞いて、上官は顎に手をやって「ううむ」の唸った。


今の自衛隊の訓練の方針は会議に出ている漫画好きの隊員によるダンジョン像に基づいて決められている。


普通に考えれば人類の歴史として刀剣から銃火器に進化したのだから銃火器を使う方が良いはずである。


しかし、会議ではダンジョンでは銃火器は使えない前提で話が進んでいた。


それは初めに漫画好きの隊員の発言による物なのだが、言われてみれば、漫画を前提とするのは間違っていると思えてくる。


「いや、貴重な意見だ。次の会議で話そうと思う」


この時の会話により、日本の自衛隊は腰に刀剣を携え、背中に銃を背負うのがスタンダードな形としてどちらも扱えるように新たな訓練が始まった。


敷地内に建てられた狭い迷路を仮想ダンジョンとして4つの入り口から別々のチームが入っていき、最後の1チームになるまで模擬戦を行ったりしている。


これまでとは違い、ダンジョンという閉鎖空間に対応した戦い方を身につけるのだ。


そうして訓練していると、狭い場所では銃での戦闘に制限がかなりあった。


固まって敵に対して一方から集中砲火なら有用だが、一旦混戦になれば壁での跳弾や味方への誤射など気を使うことばかりで、剣などの方が戦いやすく、漫画などで銃火器が使われない理由はそう言った理由もあるのかもしれないと思えてくる。


しかし、初めから囲まれた状況でなければ、最初の一撃として数を減らすのに有効な一手であるとも思えた。


物語のように少数での模擬戦意外にも、入り口から大多数でジリジリと攻めていくような方法も有効かもしれない。


三ヶ月という短い期間ではあるが、自衛隊のダンジョンへの対策は、色々な方法を模索しながら着々と進んでいくのであった。

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