第13話 お昼ご飯

「どうしたの? あ、私のお弁当のおかず欲しい?」


「いえ、大丈夫です!」


何回か妃子がおかずを持った箸を未来の方に差し出すが、未来はお断りした。

おかずを持っている、先程まで妃子が使っていた箸を見て、恥ずかしくなって顔を自分の弁当箱へ戻した。


 会話が続けられない……


 ほぼ初対面の女子と一緒にほぼ無言でお昼ご飯を食べるという苦行に未来は気まずさを感じながら自分のお弁当を口に運ぶ。


 何度か妃子から話題を振ってもらうのだが、緊張もあって話をすぐに終わらせてしまっている。


 未来としては、食事をしながら女性と話す事など親族以外では小学校以来なのだ。


 それも、自分とは普通関わらなそうなギャルの先輩である。それも美人。


 未来は、自分のおかずを咀嚼しながら隣に座る妃子を盗み見た。


 整えられた金髪プラチナブロンドの髪は根本に黒い部分が無く、金髪プラチナブロンドにも関わらず屋上への出口の窓から入って来る少ない光を反射して輝く艶のある髪の毛は手入れを怠たっていないのが分かる。


 服装に関しても支給されたままの制服では無く、着こなす為に少しいじっているのだろう。

 シャツの上に着ているセーターは学校指定のものではなく、少し大きめで、指定よりも短くなっているスカートからは同級生クラスメイトのスカートからは見えない太ももの部分がチラリと見えている。


「気になる?」


 ちょうどスカートの方に目が行った時に話しかけられたので、未来は慌てて顔を反対方向に向けた。


「あれー、どこ見てたのかなー? 何か勘違いしてるよねー?」


 クスクスと笑いを堪える様に話す妃子の方を、申し訳なさそうに未来は振り向いた。

 いつもの3倍、いや10倍ほど心臓の鼓動が早い感じがする。


 流石に先程の続きからとスカートに目をやる勇気はないので、妃子の顔を見たのだが、にやにやと笑う妃子は、自分の綺麗な金髪を一房摘んで持ち上げ、揺らしていた。


「髪の毛の事よ。何か他の事でも考えてた?」


 妃子の質問に未来は顔を一気に赤く染めた。


「よく間違えられるんだけど、これは地毛よ? お父さんが外国人なの。私、ギャルじゃないから怖がる必要はないわよ?」


「へ、へぇ、そうなんですか」


 未来は、妃子の言葉を信じられずに苦笑いでチラリとスカートを見た。


「ああ、スカート? 校則の長さの膝下って見た目ダサいでしょ? ほら、ギャルの子に比べるとまだ長いし下品な長さじゃないでしょう? それに、私ギャルの子みたいに集まって騒ぐ人達は苦手なのよ」


 お弁当箱を膝の上から床へ移動させ、立ち上がってスカートを少しつまみながら話す妃子の行動にでちょうどスカートが目線の高さにきたので、未来はただでさえ赤くなっていた顔が更に熱くなるのを感じて直視しないように目線を床へ向けた。


 妃子の説明を聞いても、未来は悠里のような制服を着崩したりしない真面目な生徒に連絡事項などで話しかけられる事しかなく、ギャルとは関わらない様にしてきたので、妃子が言うような差は分からない。


 最近井尻に絡まれた時、井尻のグループにギャルはいたが、そのギャルのスカートの長さを意識するような余裕は無かった。


 なので、未来の中では短くしている=ギャルという認識であった。


「負に落ちない顔してるわね? まあいいわ。一度会ったら友達なわけはないし、これから仲良くなっていきましょ。その為に、これから毎日こうしてお昼食べましょうね?」


「え?」


「嫌なの?」


 会話も弾まないし、今日だけだと思っていた為、未来の口から疑問の声が出てしまったが、妃子はそれに対して少し声のトーンを落として詰め寄った。


「いえ、ご一緒させていただきます……」


「ふふふ、大丈夫よ。日にちが経てば慣れるだろうし。あ! 同じ釜の飯を食べた方が仲良くなるって言うし私が未来君のお弁当も持ってこようか?」


「い、いえ! 大丈夫です!」


「そう?」


 友達とは、時間をかけて慣れるような関係なのだろうかという疑問は残るが、毎日妃子とお昼ご飯を食べる事が決定した。


 その後も、ぎこちない昼食が続き、お昼休みが終わる頃、疲れと明日からの不安でため息を吐きながら未来は教室へと戻るのであった。





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