第8話 欲望
未来は学校が終わると、高台にある公園に来ていた。
そして、入り口とは反対部分、落ちない為の柵のある方へと歩いていく。
ここに来たのは、ある事を確かめる為であった。
未来が柵へ触れる程に近づいた時、通常ではあり得ない事が起こった。
柵のある場所で、まるで電球のように光る逆三角のカーソルが表示されたのだ。
カーソルが表示された場所は、あの時、地震が起こった時に未来が座っていた場所で、昨日未来が帰って来た場所でもあった。
《ゲート》
カーソルの上にはそう表示されている。
「やっぱり、またここから入れるんだ……」
未来は、ダンジョンから脱出した時の説明から、予測はしていた。
何故それを調べに来たのかと言うと、今日学校で感じた違和感の為だ。
今日やった授業の内容は別に復習ではなかったし、学校を休んでいた未来は当然苦戦するはずの所であった。
それなのに、なんの違和感もなく、それどころか過去に習った授業内容が脳裏に蘇り、それを応用してサクッと解く事ができた。
それに、昼に井尻に呼び出された時も、殴られるのをあんな風に避ける事は過去の自分にはできない事だし、殴られて痛くないのはおかしな事である。
両方とも、過去の自分にはできない事で、その原因が考えられるとすれば、ダンジョンの壁に書かれていた《栄養》というワード。
単純に考えれば栄養とはゲームでいう経験値の事で、ゴブリンを倒して栄養を得たおかげでステータスのようなものが上がったおかげで起こった変化なのだと思えた。
これまで、未来は自分が優れた人間だと思った事はない。
弟は頭が良く、親戚には集まりのたびに比較されて育ったし、学校での成績はいつも真ん中よりも下。
スポーツが得意で運動神経がいいという訳でもなく、学校での認識は目立たない陰キャと呼ばれる人間。
今回、そんな未来がなぜ思いを寄せていた悠里に告白したかといえば、ただの事故であった。
たまたま放課後に掃除当番の関係で放課後2人になる事があった。
その間、未来と悠里の間に会話は無く、ただ淡々と掃除をするだけであったのだが、その時間、未来は憧れの悠里の事をチラチラと見ながら綺麗だな、可愛いな。などと考えながら内心一緒に居られる掃除当番に感謝していた。
しかし、チラチラと覗き見ていた事は悠里にはバレており、未来は悠里に「さっきから何かようなの?」と質問をされてしまった。
まさか声をかけられるなどと思ってなかった未来は、咄嗟に返事をする事ができずに、話す声は詰まったような小声になってしまった。
それに対して、悠里は聞こえづらい短い言葉を喋る未来に悪気もなく「ごめん、聞こえづらい」と苦情を言った。
その事に、更にテンパってしまった未来が、訳も分からずに咄嗟に口から出てしまった言葉。
それが「好きです」の一言であった。
その後、悠里に「ありがとう。でも付き合うのは無理」と断られ、自分の
今日の出来事で、そんな自分を変えられるかもしれないと気づいた。
このダンジョンに入っていれば、変われるかもしれないと思った。
もう来る事はないと思っていたが、死ぬ事はなかったという経験と、
世間では三ヶ月後に入れると言われているダンジョンに、なぜ自分だけがもう入れるのかは分からないが、そのおかげで周りに差をつけるチャンスという事になる。
自分だけが特別
そんな期待を胸に、未来はゲートの説明に書かれていた言葉を口にする。
「ゲートイン!」
その言葉と共に、未来の体は公園から消えたのだった。
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