第7話 呼び出し
未来は悠里のおかげで朝以降教室で虐めの加害者だと言われる事は無かったのだが、今回の事で以前は休み時間に話ていた友人にあからさまに避けられてしまい、休み時間は1人で窓の外をぼうっと眺めながら過ごしていた。
そうして午前の授業が何個か終わったのだが、未来には不思議な事が起こっており、内心困惑していた。
こんな時、話せる友達が居ないのは寂しいものである。
不思議な事とは、1週間学校に来ていないにもかかわらず、勉強ができるようになっていたのである。
未来は成績も目立たない勉強も中の下で出席日数さえ足りていれば留年しない程度の学力であった。
しかし、今日は朝から先生が話す授業の内容がするすると頭に入ってきて、出された問題も悩む事なく時間を余らせて終わる事ができた。
例えばこれが一年時の復習をしているだけなら、一年で理解できていなかった所が今更ながらに理解できただけかも知れないが、確認の為、今日の授業の内容を話そうとしても避けられて話す相手もいない。
全ての授業が復習になる訳がないので、新しい所がスムーズに理解できているという事なのであろう。
結局、そのまま午前の授業を終えて、未来は弁当を食べる前にトイレに行っておこうと思い席を立った。
未来がトイレで用を済ませて教室へ戻ろうとした所で、声をかけられた。
「おい、ちょっと顔貸せよ」
ちょうど教室に向かう途中にある階段の踊り場で声をかけてきたのは、井尻とその仲間達であった。
複数人に囲まれてしまい断れる雰囲気でも無かったので、未来は井尻の後をついて場所を移動する事になった。
どんどん人気のない場所に向かっていくので、未来は内心焦っていた。
しかし、結局なんの抵抗をすることもできず、校舎の陰になる全く人気のない場所へと連れてこられてしまった。
「お前さ、朝ので許されたとか思ってねえよな?」
未来に校舎を背にするようにして立たせ、逃げられないらように井尻を中心に囲むようにしてから井尻が未来に威嚇するような声で言った。
「え?」
井尻の発言に未来は疑問の声をあげた。
この問題は悠里と未来2人の問題で、悠里が問題にしないと言った以上、終わった話である。
勿論その後の他の生徒が未来にどう接するかは別として、未来の告白に付随する虐め問題はなかったという事になる。
しかし、未来の疑問の声に対して井尻はあからさまにため息を吐いた。
「表面上問題にならなかったとは言えお前が虐め加害者だった事実はなくなんないの! そんなお前が学校にいるだけで教室の空気は悪くなるし、迷惑なんだよ、わかりーた?」
「でも、僕も授業を受けないといけないし学校に来ないわけには——」
「ほんと、頭悪いなぁ。それが迷惑なんだよ! 虐めの加害者は学校に来んなって言ってんだよ!」
井尻は、未来の反応が気に入らなかったのか、言葉と共に未来に向けて手が出た。
未来の顔に向かって拳が繰り出されるが、授業に引き続き、未来は不思議な感覚であった。
先程の反論にしても、いつもなら萎縮してしまって謝ることしかできないだろう。
なのに、今回は井尻に凄まれようと恐怖などは感じる事がなかったのでつい反論してしまった。
それに、今も殴りかかられている最中であるが、井尻の拳はとても遅く頼りなく感じる。
少し首を傾げるだけで避けれてしまうような。
あの洞窟にいた時のゴブリンに比べれば、とてもチープに思えてしまう。
未来は、そんな事を考えながら少しだけ顔の位置をずらすと、井尻の拳は顔の横を通り過ぎ、校舎の壁にゴツと鈍い音を立ててぶつかった。
「痛ッ」
井尻からとても小さい声が未来には聞こえた。
しかし井尻の仲間には聞こえていないようで、反応する者はいない。
「井尻優しい! 俺なら殴ってるわ!」
「でも本当に殴ったら問題になるんじゃない? 井尻はあんたと違って考えてんのよ」
「なにおう?」
未来の周りを囲んでいる井尻の仲間が周りで囃し立てている。
「チッ。今後調子に乗るようなら次は本当に当てるぞ? 陰キャは陰キャらしく縮こまっとけよ、告白とか調子乗った事すんな?」
井尻は凄んだ声で忠告は終わったとばかりに、最後に未来を睨みつけて校舎の陰から去っていく。
「忠告で済んでよかったね、確かに陰キャが告白するとかそれだけでキモいわ。私なら問答無用で虐めって言うけど。だってキモいし! だから私の目になるだけ入らないでよね」
「まあ、早く退学でもしろって事だな。あんまり居座るようなら不快だから今度は正義の鉄拳でボコボコにするからな?」
井尻の後をその仲間が未来に忠告をしながら去っていく。
「でも、今回もお前も少しは痛い目に会うべきだよな?」
井尻の仲間の1人が、ニヤニヤしながら未来の腹を殴った。
未来はあからさまに避けるのも話がややこしくなりそうなので、黙って殴られる事にした。
「うっ」と言う不意に喉から空気が漏れた声が出てしまったものの、殴られた痛みは感じなかった。
未来が呻き声のような声を漏らしたのに満足したのか、笑いながら井尻の仲間も去っていき、校舎の陰には未来だけが残った。
1人残った未来は、井尻達に言われた事よりも、今日の自分が感じている不思議な感覚について考えていた。
そしてたどり着いたのは洞窟の壁の文章であった。
あの洞窟で、ゴブリンを倒した事でステータスのような物が上がっているのだろうか?
校舎裏で色々と考えていたせいで午後の授業の予鈴がなってしまい、未来は弁当を食べる時間を失ったのであった。
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