第6話 登校
「悠里、おはよ!」
「あ、
朝、校門の前で登校して来た友人の虹花に後ろから声をかけられて、高宮悠里は振り返って挨拶をした。
その後、2人は並んで話しながら下駄箱で上履きに履き替えて教室へと歩く。
「人の噂もなんとやらって言うけど、やっとみんな日和君の事言わなくなったよね」
「まあ、日和君ずっと来てないからね。あんなのって本人を揶揄ったりして面白がってるだけでしょ? いい迷惑だよ」
「さすが、当事者が言うと違うわねー」
「だって私が気にしてないのに虐めだなんだって騒ぐわけでしょ? これで日和君が学校に来てたとして、そのせいで来なくなってたらそっちの方が虐めじゃない?」
「だねー。正直関わらないのが1番だと思うわ」
悠里が未来に告白されて断った事がバレて、学校中に広がってから、ある程度のクラスメイトが余計な正義感なのかただ面白がっているだけなのか、未来が学校に来たら守ってやるとでも言いたげに「虐め反対!」と話していた。
今思えば不用意に教室で友達に話していた悠里も悪かったとおもっている。
その後、悠里はクラスの反応を迷惑だと感じて無視していたのと、未来が学校に来ていなかった事もあって、虐めだと面白がっていた周りの熱はすぐに冷めていき、今はもうその話をする人は居なくなって元の平和な学校生活が戻ってきていた。
悠里と虹花が教室へ入り、それぞれの机に荷物を置いた後、悠里の席に集まって他の仲のいい友達も交えて談笑していると、不意に教室がざわついた。
悠里達も何事かと教室を見回すと、この1週間学校を休んでいた日和未来が、登校して教室に入って来ていたのであった。
「何だよ、やっと学校来たのかよ。でも、虐め野郎に席なんかないぜ?」
未来が登校して来た事に、騒ぎの熱が冷めてしまった生徒達は遠巻きに話しているだけであったが、虐めの噂を流した男子生徒が意気揚々と話しかけた。
その言葉を無視して、未来は自分の机へ荷物を置いて席に座った。
その行動に、声をかけた男子生徒は苛立った様子で席を立ち、未来の机の前まで歩くとドンと勢いよく机を叩いた。
その行動に、未来は驚いた様子で男子生徒を見上げ、耳に付けていたワイヤレスイヤホンを外した。
「何?」
「あ? 調子乗ってんじゃねえぞ! 虐め野郎!」
男子生徒の言葉に「あっ」と何かを思い出した顔をした未来だが、そんな事は気にしていないように男子生徒は捲し立てるように話す。
「1週間くらいズル休みした程度で虐めが忘れられるなんて思うなよ! 人を虐めたお前に居場所なんかねえよ! そうだろ、みんな?」
クラスの同意を求めるように周りを見渡す男子生徒の友達がにやにやとした様子で「そうだそうだ」と囃し立てる。
クラスの雰囲気が今一度未来を加害者だと認識しようとした時、窓際の席から悠里が立ち上がって声をかけた。
「私は別に日和くんに虐められたなんて思ってないけど?」
悠里の発言に、周りはざわついた。
この虐め問題は悠里が未来を加害者認定している事が大前提になるからである。
「はぁ? 高宮お前日和に告白されて振ったんだろ? だったら虐めだろ! お前が被害者、こいつが加害者!」
「それは
「でも振ったんだろ? だったらこいつは加害者だろ?」
「別に私は日和君の事をよく知らないから断っただけで気まずいとも思わないもの。井尻君は田中さん達と仲良く話してるけど、たまに肩を叩いてるあれはセクハラ? 違うよね。それと一緒よ。私は別になんとも思ってない。なのにそれを気にして日和君がまた学校に来なくなったらそっちの方が気を使うわ。だって私のせいで来なくなったみたいでしょ?」
悠里は別に未来を庇っているのではなく、自分を免罪符に使われるのが嫌なだけであった。
今のクラスの雰囲気的に、後々井尻ではなく悠里がやり始めた事にされかねない。
悠里の話に、免罪符の無くなった井尻はやめるしかなく、未来をひと睨みするとつまらなそうに自分のグループへ戻っていった。
目の前で行われた会話に未来はと言うと、ダンジョンを彷徨った事で自分の虐め問題をすっかり忘れており、内心どうしようかと焦っていたが、話の流れ的に自分は加害者になることはなかったのだと胸を撫でおろした。
しかし、一度槍玉に上がってしまった未来は、腫れ物を扱うかのように、友人に距離を置かれてしまい、休み時間などに誰にも話しかけられる事はなくなったのであった。
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