第5話 ワイドショー
カレーを食べ終わった後、未来がリビングのソファに移動した所でドアが開いて未来の弟の
「あれ? 未来帰って来たんだ」
「ああ、ただいま。海智は早いな」
「だって俺もう中間だもん。2学期制だし」
2つ年下の海智は中学生だが私立に通っており、未来とはテストのあるタイミングが異なる。
「海智、あんたもカレー食べる?」
「食べるー!」
海智が帰って来た事に気づいた母親は、キッチンで未来の食べ終えた食器を洗い終え、海智の分のカレーを温め直し始めた。
「テレビつけていい?」
海智が質問をしたものの、返事を聞く前にリモコンを手に取ってテレビを付け、めぼしい番組がないかポチポチとチャンネルを変えていく。
「最近はこの話題ばっかだな。昼はバラエティもやってないし」
チャンネルを変えながら海智は愚痴を漏らすと、ため息を吐いてリモコンをテーブルに投げるようにして置いた。
「このニュースは?」
テレビのワイドショーで取り上げられている話題はダンジョンと言うテロップが差し込まれていた。
「ああ、未来はどっか言ってたからニュースも知らないのか。この前地震あったじゃん? その後に世界でダンジョンって書かれた門が現れて毎日その話題で持ちきりだよ。俺の同級生もダンジョンに入って一攫千金目指せば勉強しなくていいなんて言ってる奴もいたよ。まぁ、冗談だろうけど。一般人が入れる訳ないし」
海智は、未来に気を遣っているのか未来がどうしていたのかは聞いて来ない。
その代わりの話題として、未来が疑問に思ったワイドショーの話題について説明してくれた。
ワイドショーでは、ダンジョンに対して日本政府の対応が話し合われており、コメンテーターが政府の方針を指示する側と批判する側に分かれてコメントを言い合っている。
政府の方針は、ダンジョンに入れるようになる三カ月後までに自衛隊の軍事訓練を強化して、地球、ダンジョンが提示する善玉菌になる為に行動すると言う事。
門に書かれた文章から地球温暖化促進へと舵を切る方針であるという事であった。
これに対して賛成派は、門に書いてある文言と、門の中がダンジョンという言葉通りに受け取れば、想像できるのは漫画などで描かれた物で、そのダンジョンを攻略できれば、つまり善玉菌になる事ができれば、今人類が抱えている食糧問題や環境問題をクリアできる報酬が得られるはずで、その為に自衛隊を派遣する事は理にかなっているという意見である。
対して反対派はその中でも意見がまばらで、ある程度は賛成だが、ダンジョンからの利益を政府が独り占めするのは反対で、漫画のようにダンジョンを一般開放すべきだという者。
それ以前に、ダンジョンが陰謀論で、やはり今までのように温暖化対策はもちろんの事、環境問題など地球をよくする為の運動はしていかなければならないのではないかというそもそもダンジョンに書かれた文章の否定派など、色々なコメンテーターが意見を言い合っている。
それを見て、未来は風呂で頭の片隅に追いやったあの洞窟での出来事を思い返していた。
未来も直接見たあの初めの壁に書かれた文章に書いてあった事だ。
しかし、三カ月後とはどういう事だろう?
未来は先程までダンジョンを彷徨っていたのだ。
しかし、ダンジョンの恩恵。多分『善玉菌に欠かせない栄養』の事だと思うが、ゴブリンを倒しても食糧や漫画のようにお金に変えれそうな物は落とさなかった。
強いて言えば持っていた武器だろうか? 装飾もないただの剣だったが。
未来はゲートに入る際に外に出るならば武器は要らないと思って洞窟に置いて来てしまった。武器を持って歩いていれば警察に捕まるだろうから正解だと思うのだが。
などとテレビの意見に心の中で自分が彷徨っていた洞窟の話を照らし合わせて答え合わせをしていると、はっと思い出した事があった。
母親が言う事を参考にすると1週間ほどダンジョンに居たのだが、その間、空腹を感じなかった。しかも体が光れば傷が消えていた。
体調も良くなっているようで、元々多い方では無かったが、思春期特有のニキビもそれを潰してできてしまった跡もキレイに無くなっている。
それを思うと確かに食糧問題は少しは無くなるのだろうか? などと考えて難しい顔をしていると、隣に座っていた海智が話しかけてきた。
「あんまり難しく考えても仕方ないよ。どうせ俺達には関係ない事だし、漫画みたいな事にはならないよ。俺達は今まで通り将来の為に勉強してればいいさ。漫画みたいに冒険者になれば勉強なんてしなくていいなんて思っちゃダメだよ?」
海智は本当に弟かと思うような意見を言ってソファから立ち上がると、母が用意してくれたカレーを食べに食卓のテーブルへ移動して行った。
いくら兄より頭がいい中学に行ってるとはいえバカにしすぎではないかと思うが、真っ当な意見なので何も言い返せなかった。
別に、未来もなんの得もなかったのにまたゴブリンと戦いに行きたいという戦闘狂ではない。
未来はその日、夜に帰って来た父親にも心配をかけた事を謝って、久しぶりのなんでもない日常を過ごして就寝したのであった。
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