第3話 徘徊

 訳もわからず大地震に巻き込まれて洞窟に閉じ込められた少年日和ひより未来みくるは、いつ出られるのか、さらには出口があるのかさえも分からないままずっと洞窟を徘徊していた。

 止まるという選択肢もあったが、止まったとしてもゴブリンは向こうからやってくるし、救出が来るかもわからない。

 サバイバルの知識もない少年は、止まることの恐怖に負け、出口を探すことを決めたのであった。


 どれだけ時間が経ったのかも分からず、精神はどんどん擦り切れていったが、お腹や体力などは不思議と全く減っていなかった。


 初めのゴブリンを倒した後も、定期的に新しいゴブリンが現れ、何体か倒す度に体が光りを放ち、疲労感や空腹感はその都度薄れていった。

 それに気づいたのも体が光ってすぐではなく、何度目かの時にどれくらいの時間が経ったのか考えた時であったのだが。


 スマホの充電も無くなり、どれだけ時間が経ったのかもわからない。

 どれだけゴブリンを倒したかは覚えていない。

 何度体が光ったかも覚えていない。

 疲れがないとはいえ、寝てしまえばゴブリンに襲われて殺されるかも知れないので、休息も取れないまま、無限にも思える時間を洞窟を彷徨うのは少年の精神を摩耗させていく。


 幸か不幸か、この洞窟に迷い込むまでに悩んでいた告白の事や虐めの事などは、そのおかげでどうでも良くなっていた。


 少し進んでいると、またゴブリンが現れる。


 未来は気づいていないが、ゴブリンの体は初めの個体よりも少しがっしりして、身長も微妙に高くなっている。

 ダンジョンが免疫と呼ぶだけあって、倒される度に少しずつ未来に対抗できるように強くなってきているのかも知れない。


 しかし、それは未来も同じであった。


 体が光る現象は、ゲームでいえばレベルが上がったのと同じ現象である。

 故にステータスと呼ばれるような身体能力も上がっていっている。


ただ、両方の能力が上がっていくので、イタチごっこでその差が変わる事はなかった。


 そのせいもあって未来はこれも気づいていないのだが、ここに落ちた時と比べて身体的特徴は変わることはないが、体が光る度に身のこなしは鋭くなり、武器の扱いも上手くなっていっている。


 今は、ゴブリンから奪った初めの棍棒から何匹か前のゴブリンが持っていた金属製の剣に持ち変えている。


 未来は、新たに現れたゴブリンに向かって駆け出すと、ゴブリンが持っていた武器を弾くようにして上に打ち上げた。

 そして、その動作で上段に持っていった剣をゴブリンに向かって思いっきり振り下ろす。


「グギャ!」


 ゴブリンは短い断末魔を上げて頭から切り裂かれて息絶えた。


 今回は体は光らなかった。


 体が光らない時は疲労が蓄積するが、これまでのレベルアップのおかげか息が上がった様子はない。


 今回のゴブリンはちょうどいいサイズの剣を持っていたので、未来はゴブリンの死体から剣を奪う。

 ちょうどこれまで使っていた剣は刃こぼれが起こり、今回ゴブリンを切り裂いたのも以前より切りにくいと感じたので交換して前の剣はその辺に捨て、未来はまた出口を探して洞窟を彷徨うのであった。




 一方、日和未来が来なくなった学校では虐め問題について高宮たかみや悠里ゆうりは職員室に呼び出されていた。


「それじゃ、日和が登校してきた時にはあまり騒がないように頼むな」


「……分かりました」


 悠里は挨拶をして職員室を出た。


 教室まで戻る間、ムカムカした気分を漏らさないようになんでもない風を装う。


 しかし心の中では、これじゃ私が悪いみたいじゃない! と悪態をついた。


 悠里が告白を断った日から日和未来は学校に登校して来ていない。

 今の世の中、虐めの加害者と断定されれば学校で人権はなくなる。

 それに、酷くなればSNSやテレビでも炎上するので学校に出て来にくいのもわからなくはない。


 しかし、世間に広がれば学校の対応を批判されたり色々あるのだろうが、担任や学校はどうやら事実を穏便に済ませる。いや、隠蔽したいようであった。

 とは言え、被害者告白された側である悠里を呼び出して騒がないようにと話すのは違うと思う。


 悠里は虐めだと思っていないのだから、虐めだと騒いでいるのタチの悪い同級生達。そちらをどうにかしろと先生には言いたかった。


 自分は未来が登校して来てもこれまでと同じように接するつもりであるが、このままだと他が騒ぐだろう。


 悠里はご愁傷様と心の中で日和未来に手を合わせながら、授業が始まる前に教室へ戻るのであった。








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