第2話 世界の反応

 その日、世界的に大きな地震が起こった。


 大地震と言っても過去に日本で起こった災害のような地震ではなく、世界で同時に予測のない地震が起こったのだ。

 まるで地球が震えたかのように全世界で同時に起こった地震は、過去にない震度9.6という大地震だったにも関わらず、日本に限らず普段地震の起こらない耐震設備の甘い国でさえ建物が崩れるなどの被害も何もない不思議な地震であった。


 いや、その地震で起こった変化はあったのだ。

 地震の後には、世界各地の至る所で門に閉ざされた洞窟が確認された。


 その突如現れた門の上部には時針しかない時計がある。

 少し後にわかる事なのだが反時計回りに針が進んでいる。そして、時針のようではあったが12時間を数えている訳ではない事が分かった。


 そして、その時計の下には各国それぞれの言語で同じ文が書かれていた。



『ダンジョン入場者へ。これより、地球は体調が戻りかけてきた為、常在菌の選別を行う。長らく、大きな氷のせいで風邪をひいていたが、体温がやっと活動できる程に戻ってきた。そして、これから体調を戻して行く中で、体に棲みついてしまっている常在菌の選別を行おうと思う。当時の常在菌が死滅してしまった為、新しく環境を整えなければいけないのだ。ダンジョンには常在菌の内、善玉菌に欠かせない栄養と悪玉菌を殺す免疫を用意した。私の体調を理解して、善玉菌となるか、悪玉菌として死滅するか、頑張るといい。ある程度ダンジョンシャーレでの培養に成功したら、本格的に体調を戻していこうと思う。それまでに、立派な善玉菌になってくれるように願っている』


 この文章を読んで、世界各地では論争が巻き起こった。

 地震や世界各地で同時に現れたこの洞窟ダンジョンを見るに、悪戯と言う事はあり得ないだろう。


 しかし、この出来事に大きく反論をする団体は多く現れる。


 この文章は、今までの常識を真っ向から否定する物であり、今までそこで利益を得て来た団体は腐るほどある。

 

 認めたくない事実であった。


 代表例で言えば地球温暖化問題である。


 文章を読み解くと地球温暖化は地球の意思という事になる。

 約7万年前の氷河期、隕石によって風邪を引いてしまった地球は徐々に体温を戻してきという事だ。


 それが地球の意思であるならば、これまで温暖化対策として排ガス規制やSDGsなど、地球の為と言って行動して来た規制は全て無駄だったと言う事になる。


 いや、地球に暮らす人という構図では正しいのかもしれないが、地球から見れば悪玉菌体調を悪化させる奴という立ち位置だったのではないかという結論に至ってしまう。


 世界各国では、これからこの文章に対してどう対応していくかの会議が連日開かれた。

 結果として、物語や創造物でよく見る《ダンジョン》という言葉を見て、あの門の向こうがダンジョンになっているのだろうと予想をした。


 日本を含む各国は、いろいろな団体に反論を受けながらも、温暖化対策の為に行われてきた色々な対策を緩和、廃止していく事を決め、ダンジョンへ軍を差し向けての調査をする事を決めた。


 勿論、それに反対してダンジョンの封鎖をして、これまでのように温暖化対策を続ける国もあった。

 地球よりも、自分達の暮らす環境を優先した国という事だ。


 世界は、文章が指す《善玉菌》《悪玉菌》の二つの勢力にわかれていく。


 ダンジョンに入れるようになるのは、門についている時計が0を指すだろうと予測され、針の進むスピードで3ヶ月後という事になる。


 それまでに《善玉菌》となり、ダンジョンを攻略すると決めた国は軍の強化を図り、放棄すると決めた国はダンジョンに入れないように門を封鎖する為に門の前に壁を作るなどして入門を禁じた。



 世界の状況は、刻一刻と変わっていくのだが、政府の人間以外には大きな地震があった事と、ダンジョンが現れた事以外には日常に変化はなく、いつも通りの日常が過ぎていく。

ダンジョンの入場は、各国軍事行動となっており、そのニュースを見る程度となっているのだ。




 とある高校では、男子生徒がダンジョンの話題で盛り上がっていた。

ダンジョンの情報だけはニュースなどで入ってくる為、憧れる生徒も多かった。


「なあ、ダンジョンが解放されたら冒険者になるだろ?」


「漫画の読み過ぎだって。調子乗ると死んじまうんじゃないの?」


「その前に漫画みたいに学生や一般人が入れる訳ないだろ。どうせ政府が独り占めだって」


 それとは対照的に、自分達に関係のないダンジョンを気にする事なく、今までの様に勉強の話や、他の話をしている生徒もいる。


「えー、日和ひより君に告白されたの! そんな事するイメージないよねー。で、どう返事したの?」


「断ったわよ。あんまり関わった事ないし同じクラスってだけだしね」


「じゃあさ、この後どうすんの? 先生に相談する?」


「んー、別に良いかな。そんな事で虐めだなんて思ってないし、しつこくされて何かあった訳でもないしね」


「ふーん」


 そんなクラスの女子の話を、周りでダンジョンの話で盛り上がっていた男子の、ダンジョンに入る事を友人に否定されて面白くなさそうにしていた生徒が耳ざとく聞いていた。


「なに? 日和のやつ告白して振られたの? それって虐めじゃん! みんなー! 日和が高宮さん虐めたんだってー! 虐め反対!」


「ちょっと! 井尻君!」


 声の大きな生徒の廊下にまで響くような声で、日和という生徒が虐めの加害者らしいという情報は広がっていく。

 日和という生徒がその日は休みだったというのも、その話題に信憑性を持たせる事になるのであった。




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