第32話 エルフのお姫さま

「ライオネル殿、どうかユーニス様のお戯れに少し付き合って頂けないでしょうか。もちろん謝礼は差し上げます」

「はぁ、まぁ少しであれば」

 今朝方助けたのはユーニスといって、どこかの偉い身分の方らしい。

 尖った耳からして、どこかにエルフの国でもあるのかもしれない。

 本来なら痣が残る場面だったが、何故か皮膚が奇麗になっていた。

 その時、リタは口角を上げて「やっぱりね」と一言呟いた。

 どういう事かと尋ねれば、俺がリタに触れる事で、リタは実力以上の回復力が発揮できるという仮説を提示した。

 確認の為に、さらに酷い被害を受けていた村人にも回復をかけたが、結果は同じく肌が奇麗に再生されていた。

 さらにその説を後押ししたのはユーニスの証言だった。

 リタが回復魔法をかけた時に彼女は薄っすらと意識が戻りつつあった。

 彼女は魔力の流れが見えるらしく、俺の体に留まっていた大きな魔力がリタの能力を強化していたというのだ。

 後で聞かされたが俺の魔力量はとんでもないレベルらしく、宮廷魔術師と言っても遜色ないらしい。ついででナタリアについても聞いてみたが、かなり多いが宮廷魔術師というほどではないと言っていた。

 ユーニスは奇麗に肌が再生されたのは俺のお陰だと言い張り、それ以来、俺にべったりくっついて離れなくなってしまった。

 そして、彼女の付き人という若い紳士風の人物が現れ、俺にユーニスの気まぐれに付き合えというのだ。彼は護衛兼マネージャーという立場のアルという名前で、従僕をやっていた所を彼女に抜擢されたそうだ。


 俺はソファーに座って休憩していると、ユーニスが横に座り、俺と腕を組んで悦に浸っていた。

 救出以来、このようにべったりとくっついて離れなくなった。そして、それを不服に思っているのがリタとナタリアの二人だ。

 テーブルを挟んで正面のソファーに座り、まるで軽蔑をしているかのような目線を送ってきている。

「そうそう、わらわは暫くライオネル様と一緒に行動させて頂くのだわ」

「うーん・・・まぁそれは構わないが、明日には出発すると思うぞ」

「どこに向かわれるの?」

「最終目的は王都だな、今は領都に向かっている所だ」

「まぁ、それでしたら丁度いいですわ、王都までご一緒させてくださいな」

 とてもいい笑顔でそんな事を言われ、同行を許してしまった。

 それが気に入らないのかナタリアは鼻息荒くしながら俺に近づき、ユーニスとは反対側に座って俺と腕を組んだ。

 するとリタが呆れた表情でウニを投げるような発言をする。

「あらあら、モテモテねぇ、羨ましいわぁ」

「おいおい、相手は子供だぞ・・・」

 ユーニスの年齢は聞いていないが、見た目は四歳児でしかなく、エルフだという事を加味してもせいぜい六歳くらいだろうと思っている。リタがそんな相手に嫉妬するのかと思いつつも、その姿が少し可愛らしくもあった。

 ただ、近しい歳だとしてもナタリアと違ってユーニスは良く喋る。それが環境による違いなのか、生来の性格によるものなのかと気になっていた。

 そして、できればナタリアの良い友達になってくれればという期待を抱いていた。

(もっと喋るようになればありがたいんだけどな・・・)


「ところで、朝早くにあんな所で何をしていたんだ?」

「そうそう、言い忘れておりました。あの羊ですが人為的に大きくされていたのですわ」

「それはどういう事かな」

 詳しく聞くと、ユーニスが朝早くにこの村に到着したところ、怪しい人影を発見して尾行した。怪しい人影はバロメッツ畑に到着すると、一番成長したバロメッツに魔法をかけ、無理やり成長させたらしい。

 村長に確認してみると、バロメッツが熟成するのはもうしばらく先だという認識で、さらにはあんなに成長した事はないという。

「それに、あの魔力量はかなり高位魔法使いですわ。もう一度会えば犯人を特定できますの」

「どうやって?ああ、魔力量が見えるのでわかるのか」

「ええ、その通りですわ」


 それから、通りすがる人物を片っ端から確認してみたが、なかなか該当者が現れない。村長から村から出発した人たちは居ないという情報を得ていた俺たちは粘り強く探し続け、気づけば昼が近くなっていた。

「なかなかいませんわね」

「魔力を封印する系統の装備で魔力量を変化させていたりするのかもな」

わらわの目を欺けませんわ。皮を被せた所で中身を直接見れば一緒なのですわ」

「じゃあ魔力を使い切ったとか?」

「・・・なるほどですわ。それはあり得ますわね。さすがライオネル様ですわ!」

「最後に犯人の魔力量を確認したのはいつ頃だ?バロメッツを成長させた後か?」

「ええ、後ですわね」

 その直後、急いでリタに会いにいって確認した。

「なぁリタ、あの巨大羊にかけられていた障壁魔法ってかなり魔力使ったりしないか?」

「そうね、私なんかじゃ全然足りないくらい魔力を使うらしいわ。一等とまでは言わないけど、二等の中でもかなり上位の白魔法使いなのは間違いないわね。だけど、ライはこの件に深入りしない方が良いと思うわ」

「どうしてだ?」

「だって、相手は教会の中でも結構上位の人間よ。冒険者としてそれは大丈夫だと思う?」

「ああ・・・それはまずいな」

「でしょ?」

「だがな・・・どれだけ偉いからって悪行を見て見ぬふりできる程、器用な人間じゃねえんだわ」

「ふぅん・・・ライらしいね」

 リタの微笑みに思わず鼓動が高まり、ずっと気になっていた今朝の話の続きをと思った途端、真横から咳払いが聞こえる。

「コホン、わらわが居るのを忘れてないかの?」

「ああ、ごめんごめん」

「お主ら、もしかして───」


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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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