第28話 魔物の襲撃
俺に見つかったナタリアは全力で駆けてゆき、拘束された伯爵の元にたどり着くと短剣を振り上げた。
『許さない』
勢いをつけてナタリアの小さな体を抱きかかえると、短剣は床に突き刺さり、ナタリアは大泣きしながら暴れ続けた。
「ここは我慢するんだ!コイツは必ず極刑になる!ナタリアが手を汚す必要はないんだ!」
言葉にならない叫びの中から聞き取れた言葉を繋ぎ合わせると『この人が死ねば元に戻る』と言ってるように聞こえた。
魔王は死んでいないのかと思いつつも、もし封印か何かで存在ごと消されている場合、黒魔法が関わってくるのは確実だ。
それでも伯爵が術者でない限り、殺した所で何も変わるはずがない。
「ナタリア!鎮まるのじゃ!グリムラングの失踪にコヤツは関係ないのじゃ!」
俺たちを追いかけてきたマリーネが叫ぶように忠告する。
「何を知っているんだ?」
「簡単な推理じゃよ。グリムラングを消す事は伯爵にとってデメリットしかないからじゃ」
「じゃあ、誰が消したんだ」
「恐らく、ナラクシスじゃろうな。悪魔は命令されたことに忠実じゃ、狙いはお主自身じゃよ。そんなお主を魔族が育てている事に我慢できず、グリムラングと直接対決でもしたんじゃろ。ナラクシスが肉体を失ったのは恐らくそれが原因なんじゃろな、グリムラングが万全であれば相打ちくらいには持ち込めたじゃろ」
悪魔と魔族は親密な関係にあると聞いたことがある。
そこで、俺を育てていたグリムラングに殺意を抱くのも筋が通る。
だが、分からない点が多い、多すぎる。
「どうしてナラクシスが俺を狙うんだよ!それで誰が俺を狙ったんだ!」
「お主を狙ったのは、恐らく教国じゃよ。それ以上の事はまだ言えん」
「どうしてだよ!」
「それを知る事で、お主は三つの勢力から狙われる事になるからじゃ」
「みんな俺の命を狙うのかよ!」
「いいや、皆が皆、命を狙うとは限らん、場合によっては囲う事になるじゃろ。そうなったらお主の自由はないがの。これ以上は本当に言えんのじゃ!」
マリーナはそれを捨て台詞のように部屋を出て行った。
その時点でナタリアは落ち着いていた。
俺の方がショックを受けているのを見て我に返ったのか、伯爵を殺してもどうにもならないと知ったせいかは分からない。
落ち込んでその場に座り込んだ俺の頭を撫でるナタリアをそっと抱きしめる。
俺もナタリアも育ててくれた人がいなくなったという共通点があった。
そんな理由で俺はナタリアを見捨てられなかったと思っていた。
今では家族というものに憧れ、お互いに依存するような関係を持ちたいという願望だったと思えてきた。
「ナタリアは俺とずっと一緒にいてくれるか」
ナタリアにとっての本当の親と呼べるのはグリムラングなのかもしれない。
もし、グリムラングが復活した場合、俺から離れてしまうという漠然とした不安から、そんな事を口走ってしまった。
「パパはパパしかいないよ・・・」
「そうか、そうだよな」
「パパこそ、いなくならないで」
逆に心配されてしまった事に、不甲斐ない自分を叱ってしまいたくなる。
ナタリアも同じように不安を感じていたとは思いもよらなかった。
お互いに抱きしめ合い、この時にようやく幸せだと心の奥から感じた。
だが、そんな二人の時間を邪魔するように伯爵が襲ってきた。
「馬鹿め、敵の目の前に武器を放置するからこうなるのだ!」
ナタリアが持ってきた短剣を使い、伯爵は自身を縛り付けていたロープから脱出し、俺たちに向かって短剣を振り下ろそうとしたのだ。
あぐらをかいてナタリアを抱きしめていた俺はどうすることもできず、せめて俺が盾になればと思って庇う。
だがその瞬間、空いていた窓から黒い塊が飛び込んできた。
「ぐああああああ、離せ!離せ!!」
唐突に現れたのは魔物で伯爵の腕に噛みついていた。
魔物の牙はあまりにも鋭く、あっさりと伯爵の腕を嚙み千切ってしまう。
「腕が、我の腕がああああ!」
その間に俺は立ち上がる事ができ、ナタリアを庇いつつ腰の短剣で魔物の首元を切り裂いた。
だが、さらなる魔物が窓から飛び込んできて、ナタリアを襲おうとした。
咄嗟に横から短剣を突き刺し、壁に押し付けると衝撃で魔物の顔面が破裂、そしてナタリアは返り血を浴びてしまう。
「ナタリア大丈夫か!」
「うん!」
ナタリアは咄嗟に、床に落ちていた短剣を拾い、構えた。
「よし、強い子だ、魔物とはできるだけ対峙せず、見つからないようにするんだぞ」
そういうとナタリアは力強く頷いた。
間髪入れず魔物が窓から飛び込んでくるもナタリアしか見ていなかった。
短剣に闘気を込めて振り下ろし首を跳ね飛ばすと同時に、ナタリアが脳天に短剣を突き刺して気概を見せる。
(狙われているのは俺じゃないのか・・・?)
窓から外を見れば、外套を深くかぶった怪しい者がこちらを見ていた。
地面に黒い穴が開き、そこから溢れる様に魔物が現れていた。
よく見てみれば、その魔物はメウィプルハースを襲った個体と同じ種類だった。
「アイツがメウィプルハースを壊滅させたのか!」
窓枠に足をかけると
「喰らええええええ!!」
俺の大剣は黒魔法使いの体を真っ二つに切り裂き、それと同時にいくつかの魔物が消滅する。
「師匠!魔法使いは一人じゃないみたいやで!」
術者が死ねば召喚した魔物も消えるようだ。
そして今でも魔物が残っている以上、ヴィンセントの言う事は正しい。
「ぐあああああああああ!」
建物の中から聞こえる男の叫び声の方向に向かう。
そこにはサヴァナが欠伸をしながら、大量の触手を召喚して敵の黒魔法使いや魔物を捕縛していた。
「トドメはまかせたにゃ、触手ごと切っても問題ないにゃー」
サヴァナ自身は殺傷力のある魔法は殆ど使えないらしく、このような捕縛系に特化しているらしい。
「ヴィンセント、ここは任せた。魔法使いは捕縛してくれ」
「おっけ!」
次に地響きのように鈍い音が響く方向に向かう。
そこではゴドウィンが魔物の頭部を次々とハンマーで潰していた。
「外套を深く被った奴はいなかったか!?」
「こっちには来てないな」
「もし見つけたら率先して倒してくれ!」
「わかった!」
そんな話をしていると、小さく「ひっ!」という声が聞こえた。
あまりにも小さく、俺でなければ聞き逃す程だったが、その声は間違いなくナタリアだった。
ナタリアと伯爵がいた部屋に向かう。
途中で何匹が魔物を倒すが、術者は見当たらななかった。
部屋のドアを勢いよく開けると、そこには脇腹に短剣が突き刺さった術者が伯爵の首を絞めていた。
「また新手か」
そう言いながら伯爵を無造作に放り投げた。
部屋の片隅には震えて縮こまるナタリアがいた。
「てめぇ、ナタリアに何をした」
「コイツはそこの娘を殺そうとしていたぞ!」
伯爵が瀕死になりながらも叫ぶ。
状況は分からないが、どうやら伯爵が殺されかけていたナタリアを助けようだ。
「ふん、
余裕を見せて無駄話をする術者に対して、問答無用で切り裂いた。
勝負にもならず、一瞬で決着がついたことに安堵する。
「ナタリア、大丈夫だったか」
俺が声をかけると、ぽろりぽろりと大粒の涙を流し始め、号泣しながら抱き着いてきた。
抱き上げて優しく撫でてあげるも、暫く泣き止むことは無かった。
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ライオネル「どうしてナタリアを助けたんだ?」
伯爵「ふん、ガキを助けたとなればお前らは我の扱いを考え直すだろ」
ライオネル「打算か、まあ助かった。そうだ腕の治療をリタに頼んでおいた」
伯爵「おい!三等聖女じゃちぎれた腕はくっつかんだろ!もっと上位を呼べ!」
ルーカス「それくらいのハンデは受け入れろ。止血してもらえるだけありがたく思え」
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感想など反応あれば非常にうれしいです。
(たぶん)次回、この章の最終話になります、章タイトルは常に迷っているので適時変更するのをご了承ください。
これからもよろしくお願いいたします。
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