第27話 ライオネルの素性

 ボルドー伯爵を捕縛した後、屋敷の中から幼さが残る従僕を見つけ話を聞くことになった。

 従僕というのは執事になる前段階の職業で、普通であれば執事がいて師事する事になるのだが、執事はとっくの昔に逃げたらしい。

 執事が逃げる前は下男という、さらに前段階の職業だったらしい。

 雑用メインの下男と違い、執事の代理を務める事もある従僕は、執事の一挙手一投足を見て覚えなく手はならない。

 それを手本もなしに執事の真似事をしろというのだから、土台無理な話である。

 この事に激怒したのはルーカスの執事だ。

「───許せませんね、執事の人生を何だと思っているのでしょうか。あと百回くらい蹴り上げないと気が収まりません」

 従僕という下積み時代は重要で、優れた執事の元に就く事で成長するだけでなく、その間の戦闘訓練も兵士以上に厳しいもので、戦えない執事は「なまくら執事」と揶揄される程だった。

 他にも数えきれない程の苦労談を執事が語ると、さらに執事になってからの話が始まった。執事というのは家の一切を取り仕切る存在であり、何十人もの使用人を指揮する立場であるが故、非常に多忙でプライベートは皆無。それだけに執事業をしている間は結婚できない事が殆どだ。

 主人との移動中ともなれば実戦を余儀なくされる事も多く、雑事の傍ら戦闘訓練を行う事も稀。常に浅い睡眠はを心掛け、主人に呼ばれては何時であれ行かなくてはならないなど、苦労話が尽きる事はない。


 そんな執事はおいておき、改めて従僕と話す事となる。

「伯爵が何に金をつぎ込んでいたか知らないかな?」

「えっとぉ、ご主人様はぁ黒魔法を研究する魔法使いに出資していましたよぉ」

「それは、何かを召喚する系統のものか?」

「魔物を召喚したかったみたいですねぇ、いつか国王になるとか言ってましたよぉ」

(国家反逆罪じゃないか・・・)

「ほかに何か嫌な事はあったか?」

「えっとねぇ、夜の奉仕はちょっと乱暴が酷かったですぅ」

 脳天に電撃が直撃したくらいにショックだった。

 伯爵の奴、男色家だったのだ。しかもこんな幼気な少年に対して・・・!

「君・・・男だよね?」

「ちゃんとぉ、男ですよぉ。アリーという立派な名前ですよぉ、勘違いしないでください!ぷんぷん」

 ちょっと変なしゃべり方をするが、女子に見えるような容姿に本当に男なのか確認したくなる気持ちを抑え、話を続ける。

「そうか、悪い事を言ってしまったな」

「もしかしてぇ、ご主人様と同じで体が目的で話してますぅ?」

「そんな事はない!そんな事より、他に伯爵が夢中になっていた話とかないか?」

 あまり考えたくない話になる前に話題を変えた。

 すると従僕は少し考えてからとんでもない事を言い出した。

「国からお金貰う為にぃ、魔族を魔王と偽ってぇ、討伐実績作りたかったみたいだよぉ」

「なんだって!?」

 それから何度も確認しながら彼の証言を聞いた。

 それによると、伯爵は魔王討伐で資金を得ると同時に討伐したパーティを王都に派遣しようと考えていた。

 その王都で魔物を発生させ、そのパーティに討伐させる事で、国王から勇者と認定させる計画だった。

 そして伯爵は名誉を得ると共に、国内での地位を確立しようと考えていたらしい。


 その話を聞いて茫然としていた。

 やはり、あれは魔王ではなかったのだ。

 思い返せば魔の森での敵の出没は意図的で、調と考えられないだろうか。

 だとすれば魔王城は幻覚魔法だろし、軍みたいな組織立った団体と遭遇しなかったのも納得がいく。

 理由こそ分からないが、俺たちを育てる為の意図があったのかもしれない。

 裏付けするように戦闘が終われば回復魔法をかけた上で転送魔法で町の前に帰し、その度に装備を与え続けたのだ。

 だとすれば、魔王は自身が魔王と認識されたことを都合よく利用したとも考えられる。


 この事をマリーネとリタに話した。

 するとマリーネは、腕を組んで深くため息をついて話し始めた。

「実は、アヤツはグリムラングという名で、ラグオネルとは旧知の仲じゃ」

「は?」

「アヤツは魔族で幻覚魔法や変化魔法に長けておってな、人間に変化しては冒険者として暮らしておった。あの魔の森でじゃ」

「・・・最初に送り返された時、マリーネだって凄く怒ってたじゃないか」

「ふふ、名演技じゃったろ?全てはお主を育てる為で他の者はついでじゃな」

 最早絶句を通り越して、呆れ果てた。

 俺の為にそこまでする必要があるとは思えない。

「どうしてそこまでして、育てようと考えたんだ?」

「いずれ知る事になるじゃろう、お主はこの国を背負って立つか、王を倒す存在になるからじゃ」

 俺ですら驚いてばかりでにわかに信じがたい話を、リタはまるで驚く素振りもせずに聞いていた。

「もしかして、リタは知っていたのか?」

 するとリタは静かに頷き、言い辛そう答える。

「ライの素性は父ちゃんから聞かされて知ってたの」

「もしかして、そのせいで俺と結婚できないとかいうのか?」

 その問いにリタは目をつぶり、酷く言い辛そうにして、ようやく口を開いたと思えば肯定する内容だった。

「うん・・・たとえ結婚しても、いつか別れる事になるって・・・」

「じゃあ、リタは俺と結婚はしたくないって事か?」

「そうじゃないわ!けど、けど・・・」

 この時の話は、ここで中断された。

 俺も情報の整理が必要だったし、リタも嫌いじゃないという事が分かった。

 マリーネは少し時間をかけて決めれば良いと俺たちに助言し、俺たちもそれに従った。

 それからナタリアを探すと、何か思いつめた表情をしていた。

 そして手に持った短剣に俺は青ざめてしまった。


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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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