第25話 ボルドー伯爵①
行方不明だったナタリアを回収した後は、報酬の分配を兼ねて酒場で集まった。
ナタリアが居るので俺は酒を飲めないが、他の奴らは飲む気でいるらしい。
テーブルに大量のツマミと飲み物が並ぶと、グラスのぶつかる音が乾杯を盛り立てた。
そして、一気に飲み干そうとした時、兵士が現れ声をかけてきた。
「失礼、ライオネル殿でございますね」
「ああ、そうだが」
「ボルドー伯爵様がお会いしたいとの事で、ご同行願えないでしょうか」
その瞬間に面倒事になると悟った。
同じように察したリタも小声で呟く。
「あちゃー、なんでもうこの町にきてるのよ」
マリーネは別の事に納得していた。
「それで町が騒がしかったんじゃな」
リタにナタリアを預け、宴会を続けてくれと頼むと兵士が口をはさんできた。
「クエストにご同行された方、全員でお願いします」
「子供もか?」
「例外はありません」
兵士は無表情で答えた。
しかし、目の前の料理を無駄にするも我慢ならず、食事を敢行する。
「食事の時間くらい待てよ。それくらいには心が広いのだろう?領主様は」
「領主様の使者は領主様も同様。それを目の前に食事をするなど、無礼だとは思わないのですか」
「なに言ってんだ、食事を無駄にする方が、世界への冒涜だぞ」
「食事などいつでもとれる!それ以上の罪を重ねる前に、即刻ご同行されたし!」
兵士はバンッと机を叩くが、ナタリア以外は食事を止める事は無かった。
「ナタリアが怖がって食事にならないだろ!食事中は騒がないってマナーも知らんのか!教育に悪いわ!」
「貴殿こそ物を食べながらしゃべるなと躾する立場であろう!」
「・・・」
なるほどと、彼の正論に納得した。
「どうして黙る!」
「食ってる最中だからだよ!今さっき、アンタが言った事だろ!」
「だったら食事を止めればいいであろう!」
「
見るに堪えなくなったサヴァナが黒魔法を使う。
床から無数に生えた触手が兵士を拘束し、ついでに口も塞いだ。
「もがごもぐ、もぐぐう~~~!!」
「おお、黒魔法すげえ!」
これにはナタリアも大興奮だ。
「この魔法、拘束される側も満更じゃないにゃ」
「どういう事だ?」
「あの口に突っ込んでる触手の先に、秘伝の焼肉のタレの味がついてるにゃ」
兵士は徐々に抵抗を諦め、口内に突っ込まれた触手を堪能しはじめる。
「
そうして異様な状況の中、飲み会は続くのだった。
食事を終えた俺たちは休憩していた。
酒は控えめに最初の一杯だけにして、食事も追加注文はしなかった。
それなのにマリーネはいい感じに酔っぱらっている。
「ま、謁見するのなら、酔いは覚まさなければな」
そう俺が擁護すると、ヴィンセントが名案を浮かんだと言わんばかりに口を開く。
「なぁ、師匠!食後の運動なんていいんちゃう?ちょっとだけ、ちょっとだけやから!」
そんな折、涙目で訴えてくる者がいた。
「
サヴァナに『解除してやれ』という意味で頷くと、サヴァナも頷き返す。
「仕方ないにゃあ、
その呪文と共に床から小指よりも細い触手が現れ、兵士の耳をめがけて突き刺さろうとした。
「
「ちげええよ!解除したれって意味だよ!」
サヴァナはその言葉を聞くと、指をパチッと鳴らして魔法を解除する。
その瞬間、兵士は床に倒れ気を失った。
「なんだー、違うのにゃ。せっかく脳みそを改造して───」
リタは咄嗟にサヴァナの口を塞いだ。
そこから続く言葉がヤバいと感じたのだろう。
倒れた兵士は意識を取り戻すと、口内に溜まった唾液を飲み込んだ。
「まったく、美味い目じゃなく、酷い目にあった。もうついてくる気になったか?」
「娘が寝てしまったから、起きるまで待ってくれ」
「待てる訳がないだろ!」
仕方なく抱きかかえて行く事になった。
兵士は悪態をつきつつも、ボルドー伯爵の名を出して裁いてもらうというと、高笑いをする。
問題は一行の中にルーカスがいる事だ。
確認した事こそなかったが、彼の立場は伯爵なんかよりはるか上のはずだ。
それが終始、何かを企んでいるかのような笑みを絶やさなかった。
ちなみに、酒の飲める歳ではないので素面だ。こればかりは伯爵に同情する。
反対に終始苛立っていたのはマリーネだった。
てっきり出店の件を引きずっているのかと思いきや、サヴァナによると権力者をひどく嫌っているらしい。それを詳しく聞こうとするも、サヴァナは酔った振りをしてすぐに話題を逸らすのだった。
この町にはボルドー伯爵の別荘がある。
一番大きな建物で、周りにはそれなりの地位の人間ばかり住んでいるという高級住宅街。その一帯は伯爵の別荘以上の大きさの建物を許さないという法律まで作るほど、自己顕示欲が高い。そして、その別荘の維持ですら周辺の住民に任せるという無償の奉仕を義務付けた。
そんなところから、金にがめつく、わがまま放題な人物として認識されている。
直接会うのは初めてだが、俺からの評価は地中に深く潜っている。
広い応接間のような部屋に通され、そこには上等な椅子が一つだけ用意され、そこに明らかな貴族の恰好した人間が足を組んで座っていた。
「ライオネル殿ご一行をお連れしました」
伯爵は兵士の言葉を気だるそうに聞き終わると、舌打ちをして口を開いた。
「お前がライオネルか。平民は礼儀がなってないな」
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リタ「あ、なんかムカつく。殴っていい?」
ライオネル「おい、やめとけ、殴るなら俺が先だ」
リタ「ライが国を追放されたら、ナタリアちゃんはどうするのよ」
ライオネル「追放かぁ、まぁそうなったら連れてくさ」
リタ「じゃあ私も一緒に行こうかな」
ライオネル「それって・・・」
マリーネ「当然、儂もいくのじゃ」
ナタリア「たのしそー!」
ライオネル「・・・」
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感想など反応あれば非常にうれしいです。
これからもよろしくお願いいたします。
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