第24話 真の味方?

 六つ子たちと話しても、何の情報も無かった。

 無駄な時間を使ってしまったと後悔している間に、商人が話しかけてきた。

「おや、今日はお一人なんですね、ライオネルの旦那」

「・・・あんたこそ、いつまでここに滞在してるんだ?」

 この町に滞在していた怪しさから、こいつが誘拐犯人かと疑い始めていた。

「つれないですね~、アッシこそライオネル様のだというのに」

「それはどういう意味だ?」

 店主は胡散臭い笑みを浮かべているが、よく見れば筋肉の付き方が商人のそれとは異なっている。

 立ち方からはまるで無防備の様に振舞っているが、闘気を纏っているからには、不意を突いても防がれるかもしれない。

「簡単に言いますとね、アッシはマリーネ様同様、旦那のを知っていて、復讐をするのであればそれに協力できればと思っております」

「両親は船の事故で死んだと聞いているのだが?」

「ああ・・・ですかい、ふーむ・・・そうか、そうでしたな」

 店主は少し考え事をしていたが、しぶしぶ出したであろう答えを口にした。

「ちょっと急ぎすぎましたね、まずはマリーネ様に色々聞くといいでしょう、ラグオネルの仇についてもね」

(俺の父の仇ってなんの事だ!)

「お前、本当に何者なんだ!」

 咄嗟に腰の短剣に手をかけて威嚇しようとした。

 だが、その手はくうを掴み、ようやく腰の短剣がなくなっている事に気が付いた。

アッシには戦闘意思はありませんよ、旦那」

 いつの間にか店主の手に俺の短剣があり、短剣をお手玉のように回して遊び始めた。

「懐かしいですなぁ、この短剣は我が同士の愛剣ではありませんか」

「そんな訳があるか!それは魔・・・」

 魔王から貰った物だと明言する事に躊躇した。

 言ったところで信じてもらえるはずもなく、話がややこしくなるだけだった。


「刀と同じ様な製造方法で造られた剣、しかもこんな心鉄しんがねにミスリルを使った短剣がそこら中にあっては困るんですがね」

「しん・・・がね?」

「ちったぁ剣の構造くらいは勉強してくだせぇ、剣の芯の部分の事で、これがミスリルとなれば魔力の通しやすくなる事ですよ」

「・・・魔法が使えないんだが、俺でも使いこなせるのか?」

「はぁ、あのですね・・・魔力と闘気は根本は一緒だ!呪文を使って放出するのが魔力、無理やり捻りだすのが闘気だよ!」

「そうだったのか!」

「ラグオネルの野郎!なんで教えてないんだよ!マリーネ様もだ!」

 行き場のない怒りを地面にぶつけた直後、短剣を弧を描くように投げ返した。

「もしかして、鍛え方、足りてないんじゃねーすか?」

「なんだと・・・?」

「来いよ、殺す気で刺してこい」

 先程とは打って変わって店主は無手とはいえ、戦闘態勢を取った上、彼の闘気が俺に向かって勢いよく刺すように攻撃してきた。

 それ自体に攻撃力はなくて無害なのだが、その一刺一刺に体が反応し、まるで刺されたと錯覚する。

 この殺意ある闘気に本物の一撃が紛れ込んでいたらと考えると背筋が凍る思いだ。

「すげえな、まるで父と対戦してるようだ」

「肩を並べて戦った仲だからな。だが、あまり油断するなよ」

 そう言うと、相手の闘気がさらに強くなった。

 一撃一撃がすべて致命傷かと思えるような闘気に、震えそうになる足を抑えるのに必死だ。

 ふと、相手の闘気の揺らめきを感じ取れる瞬間があった。

(今だ!)

 小声でそう言うと、地面を蹴り上げ、短剣を構えて全力で突進する。

 だが、相手の行動は素早く、いつの間にか俺の真横にいて首元に手を伸ばそうとした。

 咄嗟に剣でガードしたのだが、そこには誰も居なかった。

「終了だ。闘気の攻撃を錯覚するようじゃ、仇討ちなんて夢のまた夢だな」

 結局のところ店主は一歩たりとも動いていなかった。

 ありもしない方向からの攻撃に怯え、横からの攻撃を防御した時点で店主からすれば、俺は無防備な状態だった訳だ。

 咄嗟に防御したのは俺の攻撃が無駄になっただけじゃなく、致命傷を与えるチャンスを与えた事にもなる。

 完全に悟った。

 この人には勝てない、と。


「何をすれば、それほど強くなれる?」

 店主は少し考えると、思い出したように手を叩いた。

「もしかして、ライオネルの旦那は、人を憎んだ事がないんじゃないですか?そう、殺したい程にね」

 そう言われて思い出したのはサイくらいなもので、あれは殺すまでは思っていなかった。

「だったら憎めばいい、そこにヒントがある」

「だとしても、アンタより強くなれるとは思えないんだが」

 そう答えると間髪入れず否定された。

「自分を信じろ!旦那はアッシの何倍も強くなる素質を持っている!母親の血がそうさせるはずだ!」

 そう元気づけされたところで、少し遠くから声がした。

「切り刻め!疾風の刃ウィンドブレード!」

 その声と同時に、店主の立っていた場所に攻撃魔法が着弾した。

 店主は高笑いしながら、家に屋根に飛び上がる。

「いけねぇ、ついにバレたか!旦那、また今度な!」

 そう言うと店主は続けて屋根伝いに逃げてゆく。


 背後から現れたのはマリーネだった。

「おぬし、ここに居たんじゃな」

「マリーネ、さっきの店主を知ってるのか?」

「ああ、あのくそ悪ガキデリクじゃな。まだ悪い夢から覚めてないようじゃ!」

「悪い夢?」

 そう言うと、マリーネは踵を返し立ち去ろうとした。

「おぬしが知る必要はない!ほら、ナタリアがウチに来ておる、さっさと連れて行け!ちなみに、王都に行けなんて言われてないじゃろうな?」

「いや、王都の事は全然」

「ならいいんじゃ」


 それからマリーネは終始不機嫌でまともに話ができなかった。

 マリーネの家に行くと、サヴァナが引きつった表情で手を振り、その膝を枕にしてナタリアがすやすやと寝ていた。

「心配したんだぞ」

 そう言ってあまたを撫でる。

「ウゴッ、ギョッ、ゴッ」

 サヴァナの表情が百面相のようになり、歪な言葉の悲鳴を上げていた。

「面倒見てくれたんだな、ありがとう」

 ナタリアが起きないように小さな声で答えると、身振り手振りで『早くナタリアを回収してくれ』と訴えた。

 俺がナタリアを抱き上げると、サヴァナが声にならない悲鳴を上げた。

「なんで、ナタリアはここにいるんだ?」

 サヴァナによるとナタリアがここで遊ぼうと言ってきたらしい。

 そのついでに、ナタリアの素質判定をしたりして、遊んでいたそうだ。

「2~3日かかるんじゃなかったのか!?いや、そんな事より、結果はどうなんだ!」

「声を荒げるんじゃないにゃあ、結果は君と一緒。仲良しで良かったにゃ」

 その答えに喜んでいいのか悪いのか、複雑な気持ちになってしまった。


─────────────────────────────────────

 ナタリア「結果?魔法、使える?」

 ライオネル「残念だが、俺と同じだって」

 ナタリア「そっかー、一緒から嬉しい!」

 ライオネル「そうか、俺も同じで嬉しいぞ!」

 ナタリア「・・・」

 それから何故かナタリアがいじけたが、原因は分からないままだった。


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 風邪の後遺症で咳が出続けています。吐きそうになる程の咳き込みは以前にも体験していたので、今回もこうなると予見はしていましたが、いざなると辛いですね。簡単に治る良い手はないかなぁ。皆さまもお体にはお気をつけください。

 これからもよろしくお願いいたします。

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