第23話 クエスト報告

 草竜が小さく咆哮を上げた。

 それはエイマスへの到着の合図だった。

 ぞろぞろと竜車を降りると、町が少し騒がしいのが伝わってくる。

「どうしたんだろうな」

 気にしても仕方がない。

 一旦この場で解散し、夕方頃に食堂で待ち合わせをする約束をした。

 俺はリーダーとして、それまでにギルドに報告する役割があった。


 冒険者組合に行くと、移動に飽きていたナタリアは酒場にいた同じくらいの子供に話しかけた。

 その子は以前にも見た事がある子だったが、酒場によく居ると言うだけで話したこともなかった。

「少し、一緒に遊んでてくれるかい?」

 その子は躊躇する事なく、元気に了承した。

 二人はまるで姉妹の様に手を繋いで、仲良く外に出た。

(こういうのも微笑ましくていいな。まぁ、近所の子だから近くで遊ぶんだろう)

 そう思っている内に、セレストから声をかけてきた。

「ライオネル様!ご無事で何よりです!」


 簡単に報告する。

 冒険者自身は行方も正体も不明だが、間違いなく存在していた事。

 廃村に巣食っていた魔物は退治した事。

 亡骸を弔ってアンデット化を防いだ事。

 それだけ言うとセレストは少し安堵して、テーブル越しに俺の手をとって感謝を述べた。

「それで~、報酬の件ですが・・・」

「うん?」

「私じゃ、だめ?」

「いいぞ」

「え????嘘!私、射貫いちゃいました?やだ、嬉しい・・・」

 そう言うと、セレストはテーブルを回り込み、腕を組み始める。

「四等分だと取り分は少ないが、仕方ないな」

「・・・四等分?」

「ああ、同行した者で冒険者登録しているのは四人いたからな。平等に分けないとな、大丈夫、痛いのは最初だけだから」

 鞘がついたままの短剣をテーブルの上に置いて微笑んであげると、セレストは咄嗟に態度を入れ替えた

「ひいいいいい!ちゃんと、ちゃんと払いますから!!」

「分かったならくだらん冗談は言うんじゃない」

「いけずぅ~~~~」

 ただでさえ安い金額で受けたのに出し渋る方が悪いのだが、本来であれば領主が出すべき費用だ。

 サイが行った時はメウィプルハースの魔物討伐依頼があったのだが、領主は依頼を撤回した。その理由は不明だがあの領主の事だから、金が惜しくなったとか入用になったとかなのだろう。


「それで、例の本は見つからなかったのか?」

「ええ、黒魔法に関する本は入荷情報すらありませんでした」

 以前読んだ本をセレストに頼んで探してもらっていた。

 薄々感じていたが、見つからない事であの本の正体がナラクシスだと決まったようなもんだ。

(そうだ、決して俺の学習能力が悪い訳ではない。他の本ならちゃんと読めるしな!)

「代わりに何か魔法関係で教えれるものがあれば良いのだが」

「四属性魔法の方がよくないですか?それでも、4歳にはかなり早いと思いますが・・・」

「子供の癇癪でうっかり魔法を使うなんて事はないと思うが・・・」

「そうじゃなくて、黒魔法の選択が復讐だったらどうします?育ての親を奪った相手を恨んで・・・とか」

「復讐か・・・ってその場合、相手は俺か?ないないわぁ・・・そんな適当な論理でナタリアに悪意を刷り込まないでくれる?」

「ははは・・・、すみません」

「しかし、もうちょっと大人になってからで良いとは思ってるけどな」

(だって、俺は素質がないって言われたんだぞ、これで、ナタリアに素質があった場合、俺は・・・まぁ、困らんか)

 サヴァナはあと2~3日は判定できないので、その間はマリーネの所に引き籠るんだった。

(もし、目を離した隙に素質の判定をされてしまったら?)

「ライオネル様?どうかしましたか?」

(もし、目を離した隙に素質ありと判定されてしまったら?)

「ライオネル様?ライオネル様?どうしたんですか!そんな脂汗かいて!」

(一番最初にお祝いできないじゃないか!!)

 思わず勢いよく立ち上がってしまった。

「ちょっと急用を思い出した。報告の話はこれでいいよな?じゃあ!」

「え、あ」

 そうして俺は全力でナタリアの元に向かった。


「はぁはぁ・・・!いったい、ナタリアはどこに行ったんだ!」

 組合周辺や家の方面を探すも、ナタリアは見つからなかった。

 そうしている内に、一人でいるルーカスに遭遇する。

「ルーカスっ・・・・様、ナタリアを見つけなかったか?」

 人目の無い所なら、これまで通りの呼び方で良いと言われていたので、勢いで言葉がグチャグチャになる。

「いや、見ていないぞ」

 そんな、無礼な言い方も気にせずに普通に答えてくれた。

 結局、そんなルーカスに気を許しているのかもしれない。

「ん?今日は執事と一緒じゃないんだな」

「ああ、さっきリタ殿と話があるというので別れた。それで菓子でも食べに行こうかと思った所だ」

 ではリタの家に行くのも無駄という事だ。

「ん、菓子?広場か・・・」

 広場はまだ探していない事に気づくと、俺は全力で向かった。


 広場に到着すると、そこには一緒に遊んでいたはずの子供が菓子を食べている。

「君、ナタリアと一緒じゃなかったのか?」

「ナタリアって誰?」

 誰かもわからないような顔をするが、ナタリアは自分の名前を言っていないかもしれない。

「どうしたの~?」

 背後から、この子供と同じような声がした。

 ふと振り向くと、同じ姿の子供がいる。

「双子?」

「ううん、わたしぼくたちは、六つ子だよ?」

 思わず、紛らわしいと、ドデカイ声で叫んでしまう所だった。


─────────────────────────────────────

 リタ「その時、ナタリアちゃんは、初恋に目覚めたのでした」

 ライオネル「やめてくれ、相手を●しそうになる」

 リタ「やめてよね、そういうの、ほんとに」

 マリーネ「じゃあ、結婚なんてなったらどうなるんじゃろうな」

 ライオネル「脳が破壊されるからやめてくれ」


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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