第22話 帰路

 荷物を纏めて移動を始める。

 ナタリアがあの村に未練があるかと思いきや、何事もないようについて来る。

 開けた景色の中、一本しかない道をゆっくりと歩く。

 空を見上げれば浮遊島が漂っていた。

 最近、流れ着いたのか、やたら気になっている存在だった。

 俺も空を飛べれば『あの島で探検できるのに』と、思う事もある。

 そういう時、決まって故郷のように感じるのは、どういう感情なのだろうか。


「にゃあああああ、なに黄昏てるのにゃあ」

 サヴァナが俺によじ登り肩車状態になっていた。

 ウザがらみに少々イラっとしつつも、我慢して黒魔法の話にすり替えた。

「なぁ、黒魔法を手っ取り早く上達する方法ってないのか?」

「かなり危険だけど、なくはないにゃ」

「へぇ、どんな方法か聞いていいかい?」

「それはだにゃー」


 それは召喚するか既に出没している悪魔に魔法書を用意してもらう事だった。

 代償として、悪魔の好きな時に本人の体を乗っ取れるという事だ。

 その魔法書は実質的に悪魔そのもので、それを読むことで悪魔が精神パイプで読み手と接続し、思考を共有が始まる。

 ただし、より年齢が若い方が精神を侵食されるという構図になるの為、殆どの場合は読み手が侵食され、最悪の場合は憑依される。

「それでも興味あるのかにゃ?」

「いやいや、止めておこう。あっという間に支配されてしまいそうだ」 

 その答えに満足したのか、サヴァナはヨシヨシと言いながら頭をグチャグチャになでなでした。


 竜車が通る道まで出ると、待ち時間が発生した。

 丁度良いので食事を手早く終わらせて、黒魔法の手ほどきを受ける事にした。

「じゃあ、ちょっと大人しくしてにゃあ」

 そう言うと、おもむろに背後から抱き着かれた。

 接触する感触に緊張していると、サヴァナは説明を始めた。

「まずは、闇属性の魔力を循環させるのにゃ。より密着した状態でライオネル君の体を自分のものと認識しながら、のにゃ」

「え?強引!?」

「いくにゃー!!」

 何か得体の知れない物が流れ込もうとする感覚だったが、結果的に入口ではじき返したような感覚になった。

「はじかれたにゃ!!」

「それはどういう事だ?」

「どうもこうもないにゃ、闇属性の魔力が循環しない体になってるにゃ!本当に人間かも怪しいくらいにゃ!!」

 そんな事を言われ、結果的に適正なしと判断された。

「勉強しても無駄にゃ!!」

 その結果に落ち込みながらも、ナタリアにも同じ事を頼むと今は無理だと断られた。どうやら俺のせいで魔力循環が上手くできなくなっているらしい。

 

 しばらくして到着した竜車に乗り込み、ナタリアが居眠りする頃合いを見て、まるで思い出したかのようにヴィンセントに質問をした。

「そうだ、ミトリア教国ってどんな街並みなんだ?白くて大きな建物なんてあるか?」

「それは大聖堂の事やなぁ。国の中心となる建物で、お城みたいなもんや」

 少し考えたが、何か違和感があった。

「大聖堂で育てられる赤ん坊っているものなのか?」

「おるで~、大聖女様は時に処女懐胎しょじょかいたいを受ける事があるらしいねん」

「ってなんだ?」

「えとな、男女の交わりあいなしで、子供ができる事やって」

「へぇ・・・」

 そんな不思議な事があるのかと、感心していると、ヴィンセントは付け加えた。

「俺が居た頃に失踪した大聖女様も、そうやって生まれたって話やってんけどな。そうやって生まれる子は必ず大聖女としての適正を持ってるってのが通説やねん」

 国が違えば風習が違うとは言うが、こうも違うのは少々驚くしかなかった。

 結局、ナタリアが聖女としての適性を持っていない事で、そうやって生まれた事が否定されたのだと結論付けた。

(だとすれば、親は誰なんだ?)

 分からない事ばかりで頭が痛くなり、無性に腹が立つ。親が誰であろうと返す気はないが、いつの日か教国に行って父親を探し出し、一発殴ると心に決めた。


 途中でルーカスが何度も騎士にならないかと勧誘してきた。

 執事がどうにか話をそらそうとするも、止まらずにどんどん話をふくらませ、遂にはパーティの四人共まとめてどうだとまで言われた。

 だが、引き受ける気はないと断った。

 ふと、ルーカスはここに居て大丈夫なのかと聞いてみた。

 すると、エイマスの現状を調べてくるようにと、と答える。その事を発端にルーカスは自分の境遇語りが始まった。


 彼は六人兄弟の中の四男にあたり、上に姉と二人の兄、下に妹がいるらしい。

 約20年くらい前の王都混乱期に長男が両目を失い、次男は足が不自由になった。

 当初はルーカスが跡継ぎになるものだと周囲から噂されていたが、最近になって兄二人の手の者がルーカスを害そうとした。

(※王都混乱期:悪魔ナラクシスが王都や周辺都市に壊滅的ダメージを与えたとされる事件から1年くらいの期間)

 執事のお陰で危機を脱する事ができ、今ここにいるという状況という話だった。

 要するに母親の命というのは、暫く身を隠せという意味があるのだろう。

「ん?四男だったら、もう一人上に兄がいるんじゃないのか?」

「それは生まれてすぐに亡くなったらしい。どうだ、騎士になるなら姉を紹介する事だってできるぞ」

 その言葉にはほんの少し惹かれたが、歳はルーカスの一つ上の15歳という事もあって遠慮した。

 ルーカスは俺が30歳でも紹介してもよかったとまで食い下がるが、どこからか攻撃的な視線を感じ取って我に返った。

「いやいや、俺には心に決めた人が」

 そう、小声でお断りすると、ルーカスは少し苦笑いした。

 もしも話が進んだとしても、ナタリアが排除される可能性が高く、それは許容できる事ではない。

「なんで俺は真面目に考えてんだよ・・・」

 思わず自分に叱咤する。

 ナタリアはその行動を不思議に思い、気に掛けてくれた。

「パパ?」

 そんな姿をみて、天秤にかけるようなことをした罪悪感が押し寄せてきた。

「なんでもないよ、ナタリア」

 そう言いながらも心の中で謝り、そして、そっと抱きしめるのだった。


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・野営時の話

 草竜使い「あの~、美味しそうな匂いがしますね。少し分けて貰う事はー」

 リタ「良いですよー」

 草竜使い「もぐもぐ・・・ングッ。なんですかこれは!まるで高級料理店で出てくるような濃厚な味!力が、力が漲り溢れ出してくるぅぅぅ!!」

 リタ「いや~、そうかなぁ。誰も褒めてくれないんですよねぇ(チラッ)」

 ライオネル「ん?そんなの、べらぼうに美味いに決まってるじゃないか」

 リタ「そうでも~、毎回ちゃんと言ってくれる方が嬉しいのよ?」

 ライオネル「そうか、じゃあ次からそうするよ。いつも美味しい食事をありがとうな」

 リタ「ん~~~~!!」

 何故かバシバシと叩かれる。何か間違った事を言ったのだろうか。

 

 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 お陰様で、熱は完全に下がりました。(一度ぶり返しましたが)

 ただ、体力がかなり落ちてるので当面は隔日更新で行きたいと思います。

 これからもよろしくお願いいたします。

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