第21話 ダークエルフ

 魔物の下処理が終わると、俺たちは村人の白骨を集め始めた。

 村を一望できる小高い場所に穴を掘り、集めた白骨を埋めて墓標を建てた。

 墓標と言っても、少し長い板切れに言葉を刻んだだけのものだ。

『安らかに眠り給え』

 墓を建てると、手を重ねて祈る。

 何を言わなくてもナタリアも同じようにした。

 すでに夕日が差し込み、周りが赤く照らされていたが、山の中腹と言う事もあって風は冷たく、何か一枚羽織る必要を感じる。

 それから俺たちはテントを張った。

 念のため、ここで一晩過ごし、魔物が現れない事を確認するためだ。

 その間に俺は、村に残っていたメウィプル採集器具を集め、木々に設置していった。


 その夜、ナタリアは再び老夫婦の小屋に行っていた。

 後をつけて、聞き耳を立てると、ぽつりぽつりと独り言を口にしていた。

『じぃじ、ばぁば、私、幸せだよ』

 そこだけで、涙腺が崩壊しそうになった。

『でも、いないの』

 続く言葉が気になった。

『魔王様、だけが、いない・・・どして・・・』

 聞いてはいけない気がして、テントに戻った。

 ナタリアは魔王の事を覚えている?

 そうだとしても、それを聞いてはいけないような気がして、今は大人しく寝たふりをした。


 翌朝、体の重さを感じて目が覚めると、毛布の中に誰かが潜り込んでいた。

 ナタリアが寒さのあまり潜り込んだのだろうと思っていると、ナタリアは真横ですやすやと寝息を立てていた。

 よく観察するとマリーネ程小柄ではなかったため、ヴィンセント或いはリタが入ってるのかと想像した。

 これがリタだとしたら一気に距離が詰まる。

 そんな事を考えると緊張で鼓動が早くなる。

 そっと毛布をめくりあげると、暗闇の中に光る眼が俺を威嚇する。

 一気に毛布とめくった、だが、その瞬間俺は硬直した。

「誰だお前・・・」

 俺を覆いかぶさるように抱き着いていたのは褐色肌のダークエルフだった。

 睡眠中であれ、殺意を持った者や魔物が近寄れば察知できる。

 戦闘で闘気を殆ど使わなかった分、それだって余っている程だ。

(※闘気:正統セレニア流においては闘気を纏ったり放出する事で剣技、攻撃強化、威嚇、索敵を行う事のできる。魔法使いにおける魔力みたいな概念)

 そういう状態で敵対者に対してであれば、不意を喰らう事はないはずだった。

「んふぅ、つれないにゃあ」

 そう言いながら、俺の胸元に顔をすりすりし始めた。

「おめぇ、サキュバスかその手の類じゃないだろうな」

「いやだよ、そんな下品な種族とは一切関係ないにゃあ。あんまりつれなくすると、何もせずに帰っちゃうにゃあ」

 香水でもつけているのか独特な甘い香りに少し絆されそうになる。

 このまま身を任せても、なんて思い始めた時、真横から視線を感じた。

 ナタリアが目を覚まして、ガン見していたのだ。

 考えられるのは最悪の事態だった。

 このままなし崩し的に親の尊厳が崩壊し、リタに対して誤解を生みかねない。


 俺は拒絶しようと相手の両肩を掴んで離そうとした。

 ところが、そこで見えたのは大きくたわわに実った脂肪だった。

 ありえない事に、服すら来ていない痴女だったのだ。

「お前なんだよ!!」

 咄嗟に蹴り飛ばすと、テントの外に放り出すことができた。

 他のテントで寝ていたパーティメンバーも一人、二人と起きてくる。

 その中、リタとマリーネが一緒に起きてきては目を丸くしてた。

「違う、誤解だ、俺は何もやってない!」

 全裸のダークエルフにリタは目を隠し、マリーナはため息をついた。

 ダークエルフに向かい、マリーナがずんずんと近づくと、頭部を蹴り上げる。

「愚か者!!お前はまともに登場もできんのか!!」


 結論から言うと、このダークエルフはマリーネの知り合いで、町に来るようにと呼び寄せていたのだという。

 ところが、町の人の多さに恐怖を抱いて森の中で暮らしていたらしい。

 名前はサヴァナといい、マリーネとは幼馴染だそうだ。

 語尾ににゃあにゃあ付いてるのは以前行った召喚でケットシーを呼び出したのだが、うっかり自身の魂と融合してしまった名残で、寒さに弱いのもそのあたりかららしい。

「それで、何しに呼び寄せたんだ?」

 マリーネは深いため息をついた。

「はぁあああああ、察しが悪いのぅ。儂はさっき何と言った?」

「町の人が多くて、森で暮らしていた?」

「違うわい!召喚魔法が使えるといったんじゃ!」

 この言葉に、一番反応したのはナタリアだった。

「くわしく、くわしく!」

「ナタリア、その話は帰ってからにしないか?」

 俺も黒魔法について知りたいので、作業を優先させることにした。


 朝に予定していた作業を行おうと思っていると、マリーネは思い出したように忠告した。

「まぁ、取って食われんようにな」

 俺も凍り付いたが、衝動を受けたのは横で聞いていたリタだった。

 リタは俺を袖を引っ張ると、小屋の裏手の誰にも見られない場所に誘導する。

「ライ!あんなのに惑わされないでよ!」

「あ、あたりまえだ」

「絶対ね、絶対だからね、私の方が断然、す、す・・・」

 赤面したリタが魅惑的で今にも抱きしめてしまいそうだった。

 でも、そんな衝動で二人の関係を進めるのは何か間違えている。

 そう思った矢先、俺を呼ぶ声がした。

「師匠~、どこにいったんや~?」

 俺たちは、その言葉に我に戻り、そそくさと違う方面に歩きだした。


 魔物の魔力抜きと解体が終わると、魔獣の生肉をマリーネのマジックポーチに収め、 毛皮やら、牙なんかは背負う事にした。

 俺は昨晩の内に設置した器具からメウィプルの樹液を集め、マリーネに頼んで煮詰めてもらった。透明だった樹液は次第に黄金色に変化した。それが冷める前にガラス瓶に移して、マリーネのマジックポーチに収めた。

 終始、興味深そうに観察していたナタリアは、煮詰めるのに使った鍋に残ったメウィプルシロップを指ですくって舐め、それを見てヴィンセントも同じようにする。

 気づけば鍋が奇麗になって、二人が満足していたので怒る気にもなれなかった。


「こういう時間に余裕のある狩はいいのう」

 マリーネが言うと、俺たちは深く同意する。

 その事に疑問を持ったヴィンセントが質問した。

「時間に余裕が無かったらどうしてたん?」

「魔王城に行く時なんかは、早く移動しなくてはならないから、狩った魔物は放置だな」

「勿体のうございますな」

 そう言いだしたのは、執事だった。

 魔の森の魔物の素材ともなれば、それなりの金額になっただろう。

「9回も行ったんやから、全部素材取っていれば相当な利益になったんやろなぁ」

 ヴィンセントが言う事に、マリーネが補足した。

「とはいえ、儂がマジックポーチを手に入れたのは、8回目だったからのう。裸で持ち運べば匂いにつられて魔物が寄ってくるから、より到着が遅れるんじゃよ」

 手に入れたと言っても、魔王から貰った物で別に金を出したわけじゃない。

 それに金を出したところで、エイマス程度の規模の町では入手できないのが現実だ。

 それだけに、他の冒険者からの妬みは酷かった。

 マジックポーチを一つでも持った冒険者パーティなんて他に殆どいないのだから当然と言えば当然だ。

 恐らく俺たちのパーティは、かなりの上位になるのだろうとは感じていた。

 それが明確になるのは、もうしばらく先の話になるのだった。


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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 昨日はおやすみしてすみません。今週頭から風邪ひいちゃって、一昨日ついに37.5度いったので病院にいくとその日の内に38度まで到着。さすがにここまで上がると小説を更新しようって気力が沸かなくなり。最高38.2度まであがって「もう私はダメだ」なんてふざけそうになるも、咳が酷くてしゃべりたくない。寝たきりの状態になってごはんも喉を通らない始末。何がつらいかって、咳の度に腹筋が痛い。私、結構咳だけが残って腹筋が鍛えられるんですよね。こういう時、プロテインでも飲んでおけば筋肉つくのかなぁ?ちなみに現在37度切りました。

 尚、感染源は家族です。これも愛だと思って受け入れるしかないですねえ。

 そんな弱々ですが、これからもよろしくお願いいたします。

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