第20話 メウィプルハース

 メウィプルハースに到着早々洗礼を受けた。

 四匹の獣型魔獣が襲ってくる。

 魔物は素早い動きでこちらの攻撃を警戒しながら嚙みつこうとする。

 だが、それ以上の速さで動けば何も問題は無かった。

 喉元を短剣で切り裂き、よろめく間もなく蹴り飛ばす。

 ゴドウィンは盾で頭部を押しつぶし、ヴィンセントは大剣で真っ二つにした。

 残る一匹がリタの方に向かった。

 執事が声を上げる。

「聖女様の方に一匹行きました!」

 だが、その言葉に反応したのはヴィンセントだけだった。

 ヴィンセントが助けようとしたが、距離があって間に合わない。

 近くにいたマリーネも魔法を使う気配はない。

 そうして叫ぶヴィンセントを見たリタは少し照れてた様に聖杖を振り下す。

 俺はヴィンセントに忠告した。

「ヴィンセント、心配する事はないぞ」

「え?」

 リタが降り下ろした聖杖は獣の頭部を直撃し、そのまま絶命した。

「リタがこのパーティ一番の最高火力アタックホルダーだからな」

「いやぁ、庇われるって久しぶりで照れちゃうわね。でも、立ち回りはライの方が強いわよ」

 後で知った事だが、終始にこやかに撲殺するリタを見たヴィンセントは狂気を感じたらしい。


 後始末はマリーネがやってくれた。

 魔法を使って木にひっかけて血抜きをしつつ放置する。

 村の方が片付く頃には、魔力抜きの魔法で食用にする算段だ。

「じゃあ、村とその周辺を探知するぞぃ」

 マリーネが生命探知を行う。

 取り分け強い生命反応一つを含む、22頭の魔物が居る事がわかった。

「それじゃあ、競争って事で」

 俺は口角を上げて大剣を取り出す。

「よしきた!」

 ゴドウィンが目を光らせて気合を入れた。

「ほどほどに頑張るわ~」

 リタはにこやかに戦意を隠す。

「頑張ります!!」

 ヴィンセントが声を上げた。

「リタがんばえー!」

 ナタリアは何故かリタだけを応援する事に、落胆しながらも戦闘は始まる。

 いや、一方的な虐殺というべきだろう。


 呼吸を抑えて知覚を鋭くする。

 敵が集まる場所を本能的に見つけると同時に、その場に向かって駆けだしていた。

 その速度たるや、魔獣が驚く程の速度で不意打ちという恰好になる。

 一頭目の首を切り落とすと、二頭目が襲い掛かる体制を整えようとしていた。

 すぐに位置を変え、二頭目の真横から大剣を振り下ろし、頭部を切り落とす。

 三頭目が目に追えない相手とい感じるや否や、脱兎の如く逃げ出した。

「遅いんだよ」

 そう言っている間に三頭目の頭部が体から離れた。

 続く四頭の集まりに突撃し、次々と撃破する。


 ふと、ヴィンセントの方を見ると、三頭相手に翻弄されていた。

 俺が短剣を投擲すると、一頭の頭に突き刺さり、そのまま絶命した。

「二頭ならいけるか?」

「全然、余裕だし!」

「そうか、じゃあ任せたぞ」

 そう言ってその場を離れる。

 狙うはリーダー格。

 その気配がする方に向かうと、気持ちいいくらいに威嚇してきた。

「ガルルルルルル!」

「おお、いいね。少しは楽しめそうだな」

 他と比較にならない程の巨体で、足だけでも俺よりも大きいくらいだ。

 破滅の大剣ソードオブルインを構える。

 どうにも隙が無い。

 一瞬の対峙。

 だが、沈黙の時は、すぐに崩壊した。

「はい、どーん!」

 突如現れたリタが、真横から首元を目がけて聖杖が振り下ろされる。

「ガルゥゥゥゥ!」

 その絶叫と共に、魔物のリーダーは絶命した。


「私、おっきいの入れて八頭かしら」

 リタが勝利のポーズをとりながら、報告した。

「俺だって八頭だし」

「でもリーダーがあるから、私の勝ちね」

 悔しいながらも、敵わなかったと地面に拳をぶつける。

「くっそー、全然倒せなかった。俺は二頭やったわ!」

 ヴィンセントが疲れたと言わんばかりにあぐらをかいて座っていた。

「俺は四頭だ、すばしっこいのは苦手だから、仕方ないな」

 ゴドウィンはこの結果を予測していたかのように、しれっと答える。

「ゴドウィンは重量級が相手になると頼りになるんだよな」

 そんな報告をしあっていると、マリーネが残念そうに口を開く。

「少しは、取り漏らしがないと、儂の出番がないんだが?」

 その言葉にそれぞれの表情で笑いあった。

 そして、戦闘を見ていたルーカスが呟いた。

「このパーティはすごいな、爺。全員が一戦級だぞ!」

「ええ、騎士団でも敵う者が居るかどうかですな」

 そこで何故か、ナタリアが自慢げに胸を張った。


 それから、討伐した魔獣を木につるして血抜きを始める。

 全員が手慣れた感じで捌くのを、ヴィンセントとルーカスが手順を覚えようと真剣に見ていた。

 その時、執事から離れ、自由になったナタリアは、村の端っこにある小屋に駆けてゆく。

 それを見た俺は、追いかけるようにこっそりそと小屋の中をのぞいた。

 ナタリアは中に居て、お年寄りが着用していたであろう暖房着を抱きしめていた。

「じぃじ、ばぁば・・・」

 そう呟きながら、すすり泣く姿に、俺は声をかける事が出来なかった。


 ナタリアは此処に住んでいた。

 そして、俺の日記に記してあった唯一の生き残りというのがナタリアだと確信した。

 その後の消息は分からないが、救出したという冒険者が魔王に引き渡したという可能性につなげる。

 あるいは、その冒険者こそが魔王本人であるなんて思い始めた。

 ナタリアは此処で生まれ育ったとして、実の親はどうしたのかと考える。

 その事を考えた所で、答えなど出るはずもなかった。

 そうこうしている内に、ナタリアは小屋から出てきて、俺を見つけた。

「お別れは済んだかい?」

 小さく頷き、すぐに切り替えたように笑みを浮かべた。

 この歳で自分の感情を押し殺すのは普通ではない。

 これまでの人生が、如何に過酷だったのだろうかと思うばかりだ。

「別に我慢する事じゃない」

 そう言って抱きしめた。

 俺にしがみ付く力は相当なもので、小刻みに震えるのが伝わってくる。

「よかったら、ここで覚えている事を教えてくれないかな」

「・・・うん」

 そうして、小屋の中で色々話した。

 たどたどしい話し方ではあったが、気になる事は聞くことができた。


 要約すると、襲撃の1年前に連れてこられ、老夫婦に育てられた。

 その前はどこかの白くて大きな建物が立ち並ぶ大きな都市に居たらしい。

 そこから、魔の森に捨てられたところを冒険者に拾われ、そして老夫婦の元に預けられたという話だ。

「じゃあ、その1年前に拾ってくれたのも、襲撃時に救ってくれたのも同じ冒険者なのか」

 その問いに対して、少し躊躇して、小さく頷く。

 ナタリアの境遇に血の気が引くと同時に、怒りがこみ上げた。

 そして重要な事を確認した。

「ナタリアは生み親に会いたいか?」

 そう言うと、ナタリアは迷う事なく首を横に振り、俺に抱き着いては呟いた。

「パパといる」

 その言葉に、俺はそっと頭を撫でるしかできなかった。


─────────────────────────────────────

 ついに明かされたナタリアの過去。

 しかし、それは愛されるべき子供には不釣り合いな経歴だった。

 生みの親と襲撃後の1年は謎のままだが、それでも同情以上の感情を持ったライオネルは、決意を新たにするのだった。


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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