第19話 出発
騒がしいパーティから数日後、魔王討伐以来のクエストに行くことになった。
目指すはメウィプルハースという廃村。
サイによると、そこには今も何匹もの魔物が住み着いていて、その中のリーダー格にやられたらしい。
サイは養生の為、フロイドは新婚旅行中で不参加。
その代わりに、ヴィンセントとルーカス、執事が参加となった。
前日の夜、戦闘が予測される事から、ナタリアは連れていけないと告げた。
「───と言う訳で、ナタリアはお留守番な。リタの実家に泊めてもらえるように話はつけてあるからな」
「・・・・やだ」
「え?」
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」
これが名高いイヤイヤ病か、なんて思いながら宥めに宥めたが、全く言う事を聞かなかった。
しまいには疲れて眠ってしまったが、明日の朝もこの調子だったらどうしようか悩んだ末、夜の内に預ける事にした。
朝になって出発する俺らを見送ると言って出てきたナタリアは、とてもしおらしかったらしい。
俺に向かって「抱っこ」と一言いって、手を広げる。
数日間、離れ離れになるのは寂しいのだろうと抱きしめた。
「すぐに帰ってくるから、良い子にしてるんだぞ」
「いく」
「そうか、行くのか。って、だめじゃん!」
「いくのー!!」
引き剥がそうとするも、どうにも離れない。
ぎゃんぎゃんと喚くナタリアに困っていると、執事が「良いではないですか」と言い出した。
「いや、ですが危険ですし」
「大丈夫、ナタリア様はわたくしがお守り致しましょう」
「ほんと?」
「ええ、お任せください」
「わんわん、すきー」
その二人の掛け合いをみて、苛立ったのは言うまでもない。
「好きにしろ!怪我してもしらんからな!」
そうして、同行する事を許してしまった。
エイマスからメウィプルハースまでの道のりは途中まで相乗りの竜車を使う。
竜車に使われているのは草竜という草食の大型爬虫類で、力強い上に非常に大人しく頑丈、そして根性が座っている。
ワイバーンに襲われても眉一つ動かさず、自分に害が及びそうになると咆哮で威嚇、地面に落ちてきたところを轢き殺すらしい。
背中の籠に乗り込むと視点が高くなり、ナタリアが風景を楽しそうに見ていた。
その姿を見ると何でも許してしまいそうになるので困ったものだ。
出発したその日の夜、各自テントを張って食事を摂った。
食べてすぐにナタリアはうとうととし始めたが、ほどなく眠りに落ちてしまう。
そうしてると草竜使いが話しかけてくる。
「どうも、その子、助かったんですね」
「何のことだ?」
「以前、メウィプルハースで老夫婦と一緒に暮らしているのを見た事があるのです」
「そ、それは本当か!?」
「え、ええ、間違いありません、小さな村でしたからね。人が増えれば耳に入るのですよ」
「そうか、教えてくれてありがとう」
その時、複雑な気分になっていた。
ナタリアが魔族でない事や、魔王の生まれ変わりでない事に安堵すると同時に、魔王はどこに行ったのかと疑問に思った。
(いや、自在に魔王が幼女体に変化出来る可能性もあり得るのではないだろうか)
しかし、その疑問をすぐに否定した。俺は信じるしかなかったからだ。
ナタリアはナタリアで他の何者でもなく、俺の娘だという事に。
翌日の夕方には、相乗りの竜車を降りた。
ここからは徒歩で1日程、その道中の殆どで登坂が続く。
メウィプルハースという村は山脈の一角に自生するメウィプルという木を育て、樹液を採取するのが主な産業だった。
その樹液は甘くて国内でも人気があったのだが、それが絶たれた今、深刻な品不足に陥ってる。
これによって、領主ボルドー伯爵は王妃の怒りを買ったらしく、現在非常に危うい立場にあるそうだ。
それで、領主が討伐依頼を出したのが、サイが同行した一行だ。
実は依頼料がかなり安価だったらしいが、組合が何割も補填したという話。
「そういえば、そろそろ討伐隊が編成される時期だなぁ」
ゴドウィンが思い出したように話す。
「そうね、あと一か月くらいかしら、町が騒がしくなるわね」
毎年恒例の魔の森の間引きイベントだ。
正規兵の訓練がてらに行われるこの行事は領主も参加する。
とはいえ、部隊の後方に居座って煩く指示を出すだけらしい。
問題は暫くの間、領主がエイマスに滞在するという点だ。
「領主とは会わせない方がいいんじゃないか?」
ゴドウィンが気にかけているのはナタリアの事で、何かイチャモンを付けられるという心配からだ。
「いっそ旅行に出かけるのも有りかもしれないな」
「いいねぇ、ついて行こうかしら」
「お、おお、じゃあ戻ったらどこに行くか決めよう」
「りょこー!!」
純粋に喜ぶナタリアとリタ。ゴドウィンが少し意地悪に微笑み、俺は苦笑いした。
ゴドウィンからすれば「さっさとくっつきやがれコノヤロー」と言いたいのだろう。
道中でさらに一泊する。
明日は早いうちにメウィプルハースに到着する。
移動の疲れをとりつつ、リタの美味しい料理が堪能する。
そして、無邪気に眠るナタリアを見つめながら、俺も睡眠をとった。
─────────────────────────────────────
ヴィンセント「なぁ、俺もついてっていいのか?」
マリーネ「儂もいく、儂も!」
ルーカス「じゃあ、お言葉に甘えて・・・っていいのか?」
ライオネル「良い訳ないだろ!!」
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感想など反応あれば非常にうれしいです。
これからもよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます