第18話 仮バースデー当日

 朝にまで甘い物を作っていた俺たちは満身創痍になっていた。

 昨晩、そろそろ全員眠ろうという話になった段階で、事件は起きた。

 酔っぱらって訪れたマリーネが目が覚まし、おもむろに冷蔵庫を漁ってケーキを筆頭に甘い物を独り占めしたのだ。

 その事を知った、ナタリアが号泣。

 何故か一緒になってリムまで泣き出す始末。

 そこで、リタが激怒して作り直しを宣言。

 酔いの冷めてないマリーネを寝室に監禁して、リタが全員に作業を割り振った。


 そして起きてきたマリーネにリタが仁王立ちで命令する。

「昨日の責任を取って、屋台の食べ物買い集めてきてよね!」

「儂がどうしてそんな事しなきゃいかんのじゃ!」

 マリーネが混乱する中、俺がそっと事情を説明する。

 正座になって脂汗を垂らすマリーネは「すまなかった!」と平謝りする。

 リタが「10人前買ってくるまで出禁だからね!」と叫ぶと、マリーネが走って買いに行った。


 さすがにマリーネ一人では荷物が多いと思い、俺もついて行った。

 広場に辿り着くと、開いていた店をいくつか回り食料を買い集めた。

 この町では早朝から店が開く。

 それは夜間の漁から戻ってきた独身者相手の商売だ。

 船上で魚を捌いて食べる者もいるが、魚ばかり食べると飽きてしまうもので、広場の露店に早朝から人が集まる理由にもなっていた。他の時間は基本的に観光客相手になる為、わりと長時間労働になるらしい。

 両親が生きていた頃は、朝起きると誰もおらず港まで両親を迎えに行くのが常だった。合流した後は、家に帰って朝食を摂るの事が多かったが、時々この露店で買い食いをしていた。

 ナタリアのお陰で、ずっと忘れていた思い出を、ようやく懐かしく思えるようになったのだ。

「たまには、朝にナタリアを連れてくるのもいいかもしれないな」

 ふと、以前立ち寄った靴や帽子を扱っている店を見つけので、声をかけた。

「店主、あれからずっと店を開いているのか?」

「おや、ライオネルの旦那じゃないですか、今日はお一人で?」

「なんじゃ、知り合いか?」

 マリーネが少し怪訝そうに割り込んできた。

「おや、素敵なエルフ族のお嬢さんまで一緒でしたか。どうですか?がございますよ」

「服には困っておらん」

 マリーネは店主のセールスを巧みに躱すと、俺に向かってそろそろ戻ろうと言い出した。

 確かに食料は十分に買ったのだから、冷める前に戻るべきだ。


 そうして帰る事になったのだが、道中で改めて聞かれた。

「さっきも聞いたが、あの店主とは知り合いか?」

「いや、知り合いと言うほどではないよ。以前、一度だけ子供用の靴があるか聞いたくらいだ」

「ふうん・・・、まぁ、勘違いだったらいいんじゃが」

「どうかしたのか?」

「以前、会った事がある気がしてな」

「気のせいだろ、行商人なんてみんな似たりよったりだよ」

 マリーネは暫く考え込むが、暫くして考えるのをやめてしまった。

「そんな事より、はよう帰ろう!朝食がまだなんじゃぞ!」

 気にすることではないのだが、何かが引っ掛かった。

 新品を扱う行商人は三、四日の滞在が一般的で、一週間を超えることなるとかなり珍しい。しかも食料品店でもないのに早朝から開けているのも変な気がする。

 それでも、きっと何か事情があるのだろうと勝手に思い込み、頭の中は今日のパーティの事でいっぱいだった。


 帰ってから朝食を摂った後は部屋の飾りつけを始めた。

 すぐにルーカスたちがやってきたのだが、本人はリビングでくつろぎ、執事が手伝いを引き受けてくれた。

 そうこうしている内にゴドウィンの家族が総出でやってくる。

 子供が増えて賑やかになったと思えば、リトとリマも来て騒がしいくらいになった。

 次にサイが来たのだが、意外にも子供たちの面倒を見てくれるので助かった。

 本調子でもないので少し心配ではあったが、結果何事もなかった。

 少し遅れてフロイドが彼女を連れてきて、結婚を発表した。

 あの事件からフロイドが回復するや否や、彼女の方からプロポーズしたのだとか。

 なんでも、一時も時間を無駄にしたくないとかなんとか。

 そういう事もあって、今回のパーティーは『仮バースデー&結婚パーティー』と改めた。


『誕生日と結婚おめでとー!』


 乾杯をしてからは、わいわいがやがやと騒がしい時間がゆっくりと過ぎる。

 ヴィンセントが遅れてやってきて、もう一度乾杯をし直すなんてこともあった。

 ナタリアはずっとテンションが高いままで、はしゃぐ姿はなんとも微笑ましい。

 いつのまにか執事が人狼状態を披露し、ナタリアが「わんわん!」と言いながら抱き着くのには少々嫉妬した。

(俺にも体毛があればなぁ・・・)

 そんな中、ソファーに座るとリタも並ぶように座る。

 昔ならお互いにもたれかかっていたのだと思い返してると、リタの方からもたれかかってきた。

(やはり、リタも俺の事が好きなんだ)

 そんな風に思い込んでしまう。

 いつの間にか重なっていた手の温もりに、今告白するしかないなんて思い始めた。

 早まる鼓動で手のひらに汗がにじみ出す。

 顔すらろくに見れないほど緊張していた。


「リタ・・・・!」

 思い切って声をかけた。

 俺が横を向いたせいで、支えを失くしたリタは俺の膝元に倒れてくる。

 意図せず膝枕になってしまった事に、さらに緊張する。

(どうして、今日はこんなに積極的なのだ!)

 だが、リタは何も話さない。

 そうしている内に、リムが俺に向かって叫んだ。

「あー!膝枕してる!おねえちゃんだけズルい!」

 その瞬間、周りの全員が人差し指を立てて口に当てた。

「しー!」

 よく見れば、リタはすやすやと熟睡していた。

 ケーキとかの作り直しのせいで、睡眠不足だった事を思い出す。

 その事に気づいてしまった俺も瞼が重くなり、そのまま眠りについてしまった。

 最後に目に入ったのは、ナタリアが毛布を引きずりながら持ってくる姿だった。


─────────────────────────────────────

 ライオネル「俺も執事の毛皮、触りたかったな」

 リタ「ライって猫派じゃなかった?」

 ナタリア「わんわんがいいー!」

 ライオネル「今は犬派だ!」


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 猫飼いたいですねぇ。アレルギー持ちで触ると酷い状態になるので無理ですけど。

 じゃあ犬?って話になると、昔買ってた豆柴に近い雑種を思い出して二の足を踏んでしまいます。子供の頃、その子が出産する時、たまたま見守る事になり、二匹生まれて感動してる所、胎盤を食べるのを見て倒れそうになったのはいい思い出です。

 そんな基本犬派、見るのは猫派ですが、これからもよろしくお願いいたします。

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