第16話 お祈り

「よ、よう、久しぶりだな」

「うん・・・久しぶり」

 少し暗い表情の様子のリタに、俺はたじろいだ。

 ナタリアが抱っこされようとリタの足元にしがみつく。

 ギリギリの位置に立っていたせいか、リタがふらついて落ちそうになった。

「危ない!」

 リタの手を引っ張り、引き寄せる。

 俺の腕の中に納まるリタは、あの時の様に嫌がる素振りは見せなかった。

 そこで、ナタリアが泣きそうな顔で謝った。

「ごめんなざいぃ」

 リタはまるで本当の母のような優しい表情でナタリアを抱きしめて、大丈夫と言って慰めた。

「触られたら、嫌だよな」

 俺がそう言うと、リタはきょとんとした顔になる。

「嫌がった事なんてないわよ?」

「だって、サイを浄化する時、滅茶苦茶叫んだじゃないか!」

「あ~~・・・あの時ね」

 リタはあの時の事を説明してくれた。


 リタによると、サイを浄化しようとした時、いつもよりも大きな魔力を注いでしまい、制御ができなくて焦っていた。

 何処からともなく魔力が湧き上がり、尽きる事はなかったのだが、コントロールができないのは恐怖でしかなかった。

 そんなあり得ない状況で俺が肩に手を置いた。その直後、流れる魔力が何倍にもなり、結果、悲鳴を上げてしまったという。

 その魔力はサイの物でもリタの物でもなのは明らかだった。そのせいで俺とナタリアは白魔法の素質があるのではという話になったそうだ。

「結局、分からずじまいだけどねぇ・・・」

「そっか・・・嫌われた訳じゃないんだな・・・よかった」

「えええ、なんでライの事嫌うなんて話になるの??」

 その言葉に絶句した。

 もし、それが俺の勘違いであれば、あのプロポーズの反応も俺の勘違いと言う可能性があるのではないかと僅かな希望を抱いた。

「じゃあ・・・どうしてあれから、俺と会ってくれなかったんだ?」

「だって・・・」

 返答に詰まるリタは恥ずかしそうにする。無理に聞き出す事ではないと半ばあきらめた。

「まぁ、いいけど」

「あのね・・・私の事、見捨てない?」

 また、突拍子もない事を言い出した。

「当たり前だろう、どこからそんな発想が出てくるんだよ」

「だって、二等聖女の試験、落ちちゃったじゃない?見込みすらないんだって。そんな私だから、見限られても仕方ないかなって」

「何言ってるんだ、俺はリタ以外の聖女と組むつもりはねーよ」

「そっか、ありがと」

 ほのかに照れているのか、嬉しそうな表情になるリタを夕日が照らし始める。

 フラッシュバックする。前回こんな雰囲気で振られた事に。

 それが怖くて、再び告白する勇気は出なかった。


 そして時間切れとなってしまった。

 ナタリアが港を見るのに飽きて帰りたいと言い出した。

 俺は少し待つように言って、手を重ねて祈るとリタも同じようにした。

『お陰様で俺は今でも元気です、どうか安らかにお眠りください』

 今日が両親の命日だった。

 この町に墓なんてものはなく、死んだ者は業火で燃やされ骨も残らない。

 残るのは灰だけで、それを海に撒いて弔い、命日には港が見える場所で祈りをささげるのがこの町のやり方だ。


 祈りが終わるとナタリアが何をしているのかと興味深そうに聞いてきた。

「それはな、パパの両親が安らかに眠れるようにと祈ったんだ」

「両親、いないよ?」

「もう、だいぶ前に死んじゃったからね」

 死の概念が難しいかと思ったが、それで納得してくれた。

 ナタリアも真似をしたくなったのか、手を重ねて祈りだす。

 きっと、俺の両親に対して祈ってくれてるのだと、あえて聞かない事にした。


「そうだ、四日後、ナタリアの仮バースデーパーティを開こうと思うんだ、その日ウチに来ないか」

 くすくすと笑いながらリタは答える。

「もう、仮って何よ」

「ナタリアの誕生日が判明するまでの仮決めだよ」

 そんな説明をすると、ナタリアは目を輝かせ、ウンウンの頷き嬉しそうにした。少し自慢げに。

「じゃあ、ケーキを焼かなきゃね、前日のうちにそっちの家で焼こっか」

「それは助かる」


 階段を降りると途中で、リタが思い出したように口を開く。

「あそうだ」

「どうした?」

「サイがそろそろ退院できるはずよ。気が向いたら会ってあげなさいよ。随分と反省して申し訳なさそうにしてたわよ」

(あのサイがか、それなら会いに行くのもいいかもしれん、いっそもう一度パーティに誘うか・・・)

「分かった、明日にでも行ってみるよ。話ついでだが、メウィプルハースの調査依頼が指名できている。ついてきてくれるか」

「当たり前じゃない!」

 リタははにかんだような笑顔で答える。俺も表情がつられてしまう。

「パパ、変顔!!」

 そう言われて二人に笑われたが、この空気がたまらなく大事に思えた。

 来年もまた来れたら良いな。


─────────────────────────────────────

 サイ「本当にすまなかった!」

 フロイド「良いよ、それより元気だしなよ」

 ライオネル「そうだ、そんな事より昨日、大岩でリタと───」

  :

 フロイド「ライオネル!なんでそこで押さないんだ!!」

 ライオネル「両親の命日に言う事でもないだろ」

 サイ「のろけ話なら他所でやれ!見舞いに来たんじゃねーのかよ!」

 二人「なんだ、元気そうじゃないか」


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 あー、ケーキ食べたいよー。一番好きなケーキと言えばハーブスのミルクレープなんだけど、先日、買いに行ったら売り切れでした(いつも売り切れてるイメージ)。さらに売り切れの期間限定ストロベリーミルフィーユと言うのを見つけてさらに悲しさ倍増。泣く泣く適当な物で妥協。期間内にリベンジしなきゃと心に誓うのでした。

 そんな甘党ですが、これからもよろしくお願いいたします。

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