第二章 切っ掛けはメウィプルハースから

第15話 セレストは納得できない

 その日、唐突に受付嬢のセレストが家を訪ねてきた。

「ライオネル様!いい加減、組合に出てきてくださいよ!」

「お、おお、すまんな。あの事件でちょっと気が抜けたんだ」

「一体何日来てないと思ってるんですか!」

 冒険者組合に顔を出さなくなって何日目か考えてると、痺れを切らしたセレストが答えを言い出した。

「10日ですよ!!!」

 これには苦笑いするしかない。

 そうだとしても、特に責められる話ではないはずだ。

「それで、何か緊急の案件でもあるのかな」

 セレストはその言葉に、何かを思い出したかのように書類を並べ始めた。

「どうです、三等聖女でも選りすぐりで美人、そして独身ですよ!」

 何を言い出すかと思えば『リタに振られた=回復役が居ない』と言う事態を懸念し聖女の斡旋をし始めたのだ。

 さらにセレストは小声で続けた。

「ここだけの話、全員、男性経験なしで、ライオネル様に好意的ですから」

 何が言いたいのか分からず、少し苛立ちを覚え、クソデカため息を漏らした。

「ライオネル様って結構人気あるんですよ。それなりの身長に両親が居なくて資産家という好条件、顔だって結構いい方だと思います。リタさんからの評価も高いですしね。そんな好物件だから結婚まで考えたいって子も多いんです。そんな人材をフリーにしておくなんて間違ってると思いませんか?思いますよね?聖女がだめなら、私だっていいんですよ!」

 何を言い出すかと思えば、本当にお見合いだった。

 しかも、最後の自分を売りこむとは、呆れてものが言えない。

「お見合いなんぞする気はない、出ていけ!」

 セレストを追い出して鍵をかけると、ドアの向こう側でギャーギャー騒いでいるのが聞こえる。

 しばらくすると静まり返ったが、ドアの隙間から1枚の紙が入ってきた。


 その紙はクエスト依頼書だった。

 依頼主はセレスト。

(お前かよ!)

 そして依頼内容は『メウィプルハースの調査およびとある人物の捜索』だった。

「おい、廃村に今更何の用だ。しかも、とある人物ってなんだよ、誰なのか明確しにしろよ」

 そう言うと、セレストは落ち着いた口調で話した。

「誰か分からないんです。組合に登録してた冒険者なんですが、本名かも怪しいですし。誰も覚えてないんです、それって似てませんか?」

「何にだ?」

「魔王ですよ、記憶は消えて書類上だけ残ってる事と、消えた時期も近い事。もしかしたら・・・」

 それから続く言葉に、少し緊張した。

「私のミスでなんかやらかしちゃったとか!?お酒飲んで奇麗さっぱり忘れちゃったとか。私の考えた最強の冒険者的な遊びぃでプロフィール書いちゃったとかだったら、もう、私・・・!!」

 泣きそうになるセレストに、俺は強い言葉をぶつけた。

「そんなわけねえだろ」

 小さく「え?」と言う声が聞こえる。

「俺、クエストから戻る度に冒険の記録付けてるんだけどな、何処に行って、何を手に入れたとか、こんな人物が居たとか。そういうのを最近読み返したんだ。その中に『メウィプルハースの生き残りを救った冒険者』という記載がある。きっとそれがソイツの事だ。だとすれば、存在していたのは間違いねぇよ」

 小さく泣き崩れる声が聞こえる。

「よかった、よかった」

 セレストは小さな声で呟いていた。

 結局のところ、セレストは人知れず消えてしまう冒険者の存在が儚くて悲しかったそうだ。


 暫くドアごしに話していると、向こう側でナタリアの声が聞こえた。

 今日はヴィンセントと二人で稽古するといっていたので、それが終わっただろう。

「どしたの?」

「あのね、ナタリアちゃんのママになるなら、どの子がいい?ライオネル様の結婚相手決めよ~」

 パラパラと書類をめくる音が聞こえだす。

「セレスト!お前!やめろよな!」

 ドアを開けると同時に、セレストは逃げだした。

 そして、余計な一言を大声で残していった。

「リタさんにリトライするなら早い方がいいですよー!!」

 その場には、きょとんとするナタリアと、にやけ顔のヴィンセントがいた。

「なぁ、師匠、結婚すんのぉ?」

「結婚?」

「結婚ってのはなぁ、好き同士の男女が一緒に暮らす事やねんで」

「じゃあ、結婚、するー!」

「誰とだ?」

 つい勢いで聞いてしまった。

 ここに住んでいるのは俺とナタリアだけだが、一応、念のためだ。

「パパとー!」

 そういって抱き着いて来る。

 お見合いなんてしなくても、結婚相手はここのいたなんて脳内に一面のお花畑が展開されたが、すぐに我に返る。

「師匠、まさか本気に・・・」

「いやいや、まぁ、子供の言う事だ」

「ほんとだもん!!」

 ぷっくらと頬を膨らませるナタリアの頭を撫でながら宥める。

「分かってるよ、俺は嬉しいよ」

 あぶない、若返りの魔法でもあれば、真剣に考える所だった。


 その日の夕方、珍しく訪問者がいなかったので、お気に入りの場所に向かった。

 当然、ナタリアも連れて行く。

 そこはこの町でいちばん小高い地区で、公園として開放されていた。

 中央には巨大な岩があり、撤去する手間を惜しんだのか、観光名所に仕立てたという話だ。

 岩の一部が削られて階段となっていて、上に昇ると町や港を一望できるというスポットになっている。そこは、だいたい4、5人座れるくらい広い。

 ナタリアは階段を楽しそうに上る。

 そして大岩の頂上に到着した瞬間、奇声にも思える高い声を上げた。

「リター!」


─────────────────────────────────────

 リタ「私の考えた最強の冒険者って楽しそう」

 ナタリア「かくー!」

 ライオネル「お、俺の似顔絵か?嬉しいなぁ」

 リタ「角生えてるけど、それでいいの?」


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 いつの間にか第二章に切り替わりました。話数のストックはわずか1話、そしてそれを大幅改修かけて時間を浪費してしまいました。

 しかも一昨日あたりから花粉症来ました。ゴミ箱がてんこ盛りで辛い。

 なので、毎日投稿できるか怪しいです。出来なかったらごめんなさい。

 そんなわけで、応援がてらに♡をポチッとしてもらえると嬉しいです。

 ではでは、これからもよろしくお願いいたします。

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