第13話 ナラクシス降臨

「ライ!気を付けて!サイが!」

 それはサイから少し目を離した瞬間の出来事だった。

 サイは器用にも片足で起き上がると同時に、体が膨張し始めていた。

 体格は一回り、二回りと徐々に大きくなり、仲間内で一番体格の良いゴドウィンよりも巨体になると、失っていたはずの手足は復元されていた。

 元々あったサイの頭は胸元に埋もれていたが、それも、徐々に埋没しそうになっていた。

「サイ!お前、一体・・・」

「助けてくれ・・・ライオ・・・」

 その言葉を残し、サイは完全に埋もれて見えなくなった。


「これは、悪魔との契約、憑依状態だな」

 ルーカスが呟くと、人狼化したままの執事が俺とルーカスに下がる様に誘導する。

、危険です、お下がりください」

 俺はこの理解できない状況に茫然と眺めていると、サイは両肩の間に頭部が形成され、次第に人を模した顔になり、そして話し出した。

『全くもって人間とは嘆かわしい。この程度の素体では語らう時間も稼げやしない・・・。我の名はナラクシス。お前らは危険だ、今の内に処分させてい貰おう!』

「ナラクシスだと!」

 ルーカスが反応し、激しく動揺する。

「ルーカスは知って───」

 確認しようとした所で、ナラクシスが襲ってきた。

 その巨体から繰り出される力は強く、短剣なんて小さい武器では防ぐ事も流す事もできなかった。

 ナラクシスの片手は俺の首元を掴み、持ち上げてしまう。

 持っていた短剣で腕を刺すも痛がる様子すらない。

 執事が人狼の鋭い牙でが腕を噛むが、それすら反応する事は無かった。

「あー・・・俺をわすれちゃ、困るんやけど!」

 気絶していた少年がいつの間にか目を覚まして、剣を振り下ろす。

 ナラクシスの太い腕から激しい出血が起きると、俺は地面に落とされた。

 肉だけでなく、骨まで折れて皮でつながり下がる腕をナラクシスは引きちぎり捨てる。

 同時に、切断面から肉塊が溢れだし、次第に腕の形状を取り始めた。


「なんやあれ!キリねえぞ!」

 正体不明の少年が叫ぶと同時に距離を詰め、斬りかかろうとした。

 だが、ナラクシスはその攻撃を素手で受け止めると指が伸びて大剣に絡みついた。

「なんやねん、これ!!」

 少年は叫ぶと大剣から手を離し、後ろに飛びのこうとしたが、指がさらに伸びて足に絡みついた。

「たんま!たんまやて!」

 そこで執事が鋭い爪で指を切断、ゴドウィンが盾で押しのけるようにしてナラクシスを後退させた。

 俺は敵が両腕で胸元を庇うように、防御態勢になったのを見逃さなかった。

 敵の視界に入らないほどの低姿勢で素早く動き、背後から首を切り落とそうと短剣を食い込ませる。

 短剣は背骨に引っかかると抜けなくなり、ナラクシスが小さく笑った。

『甘い、甘いですね!』

 そう言うと俺を掴みにかかろうとするが、そこをルーカスの炎魔法が直撃してよろけた。

 そこで、首の切断面に指輪を拳ごと押し付けるように拳をねじ込み叫んだ。

『顕現せよ破滅の大剣ソードオブルイン!』

 一つの武器だけを収納できる指輪と収納していた普段の戦闘時に使う大剣、どちらも魔王から貰ったものだった。

 取り出す際に空間を引き裂くように現れるのを利用するため、ここまで温存していたのだ。


『ぐああああああ!』

 ナラクシスの体にめり込むように現れた大剣は、胴体を大きく引き裂いた。

 腰のあたりから首にかけて二つに分かれた胴体は、左右に垂れ下がる。

 サイに対して罪悪感を抱きながら、仕方ない事だったと自分に言い聞かせた。

 剣を抜くとナラクシスは力なく倒れる。

 これが悪魔の憑依と言うのであれば、サイの助かる道は一つだけだった。

「リタ!今すぐ浄化を頼む!」

「わかったわ!」

 いつのまにかナタリアを抱きしめていたリタは、そのまま浄化を始めた。

 頼んだものの、これは非常に分の悪い賭けだった。

「三等聖女ではどこまで浄化できるか・・・」

 ルーカスは俺が思っていた事を口にした。

 三等聖女の浄化では、悪魔の憑依を完全には取り除けない。

 仮に運よく払い除けれたとしても、元の姿に戻れる事はなく、酷い後遺症に悩まされるのは間違いない。

 それでも、このまま死ぬよりマシだと信じた。


 リタは浄化を始めて、すぐに異変を感じ取っていた。

 表情だけでも、ありえない程に焦っているのが判る。

「やだ、なにこれ!魔力がすごい!」

 聖女の浄化は対象に聖属性の魔力を注ぎ込み、相反する属性を追い出すというもので、術者の魔力が枯渇してしまうと聖女としての活動は当分できなくなるという、諸刃の剣だ。

 それだけに、魔力の流れる量を制御して自衛しなければならない。

「リタ!大丈夫か!?」

 俺は無意識にリタの肩に手を置く。途端にリタは悲鳴を上げた。

「いやああああああああああああああああああああ!!!!」

 その悲鳴に俺は静かに崩れ落ちた。

(そこまで嫌われていたのか・・・!!!)


─────────────────────────────────────

 (嘘予告)ライオネル・・・あうとー!

   その場の全員から同情を受けるライオネル、果たして立ち直る日は来るのか。

   それとも、男色に走るのか!?相手は誰だ?ライオネルは受けなのか?


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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