第8話 お買い物攻防

 ここ、エイマスは町の規模が大きいとはいえ、辺境である事と貴族が居ないせいで新品の服屋がなかった。

 つまるところ、平民にとっての服というのはリサイクル品しか手に入らないという事だ。

 ここまで言えばわかる者もいるだろう。

 服は全て一点物で可愛い物の絶対数が少ないのだ。

 そして今まさに、リタによって数少ない可愛い服が買い漁られようとしているのだ。

 これは非常に由々しき事態で、親としての威厳が問われる問題になる。

 だが、ここで俺は逆転できる情報を手に入れていたのだ。


 昔世話になった子供専門服屋リサイクル店の中に入ると、見知った店主が俺の顔をみるなり、にやけながら話しかけてきた。

「よぅ、ライオネル。遅かったじゃねえか、いいところは全部リタに持ってかれてるぞ。おめえ、それでいいのかぁ?」

「ふ・・・問題ない。こんなこともあろうかと、秘策を用意してある」

「ほう、俺の所以外で入手する方法を見つけた・・・だと?」

「ふふ・・・」

 そんな会話を知る由もなく、リタは服を選んでいる。

 そして俺の姿をみた途端、服選びを切り上げてナタリアを連れてきた。

「ライ~。遅いわよ~。めぼしい服はぜ~んぶ、私が買っちゃったからね」

 勝ち誇るリタに、上機嫌になっているナタリア。

 カウンターに詰み上がるは10着ほどの女児服。

 店主が上機嫌に鼻歌を奏でながら、代金を計算している。

「パパ?」

(まだだ。まだ、笑ってはいけない)

 ナタリアの頭を優しく撫でながら余裕を見せた。

「気に入った服は見つかったかい?」

 ナタリアが小さく頷くのを見てリタを引き合いに出す。

「よかったな。リタが

 その瞬間、小さな舌打ちが聞こえる。

 リタに笑顔を向けると、平静を装って清算を終わらせていた。

(これ、陰ながら怒ってるパターンだ)

 リタの思惑は分かっている。

 代金を折半した上で、選んだのは自分だと主張したかったのだ。

 そして、ナタリアからの感謝を一身に受ける予定だったのだろう。

「ナタリアちゃん、さっそく帰って着替えよっか~」

「おっと、その前に寄りたい所があるんだ」

「なによ、ドケチなパパさんは引っ込んでてもらえる?」

「靴とか帽子だよ。リタは服しか買ってないんだろ?」

 そこで、店主が立ち上がり口をはさむ。

「おい、靴とか帽子なんて、この店ウチで買えばいいじゃないか」

「ちっちっち、今日は広場に出店があるんだよ。当然、新品のな」

「「な、なんだってー!?」」

 おもわず、偉そうにふんぞり返りどや顔で威嚇した。

 リタの悔しそうな顔が、この上なく気持ちいい。


 町の中心にある広場では時々行商人がやってきては店を開く。

 そこで売られる品々は殆どの場合、新品なのだ。

 俺は小物店が今日から出店するという情報を、組合長から仕入れていた。

 広場に到着してすぐに、靴や帽子を扱っている店を見つけて店主に声をかけた。

「店主、子供用の靴はあるかな?」

「え、大人用しかありませんよ」

「・・・子供向けの帽子は?」

「それもありませんね。子供は成長が早いですからねぇ」

 笑いを堪えるリタに、明らかに眠そうになっているナタリア。

 リタはナタリアを抱きかかえながら、いやらしい笑みを浮かべ始める。

「あら~、パパは娘に何も買ってあげないの~~~??」

 まさかの事態だ。

 俺は何も買ってあげれない。

 これではナタリアの好感度が、リタの方が大きくなってしまう。

(考えろ!まだ逆転の芽はあるはずだ!)

 だが、タイムリミットは問答無用に襲ってきた。

「はい、時間切れ~。ナタリアちゃんは完全に寝ちゃいました~。ざ~んね~ん」

(くそ!くそ!)

 俺が悔しがっていると、リタは俺の肩を叩く。

 だが、その顔は勝ち誇り、満面の笑顔だった。

「俺の・・・負───」

「ライオネルの旦那、子供用の服ならございますよ」

「なんだと・・・だが、それをもうちょっと早く言ってくれれば・・・」

 そう、ナタリアが起きている時に買わないと、気に入るかどうか分からないのだ。

「ま、次の機会ね」

 そうして、俺の買い物計画は失敗したのだった。


 帰り道、荷物は俺が持ち、リタが眠るナタリアを抱きかかえていた。

 二人で並んで歩いていると、見知った人たちが冷やかしてくる。

「もう、一人目できたんかい?熱々だねぇ」

「仲がいいねぇ、いつの間に結婚してたんだい?」

 そんな言葉のせいか、リタの表情は夕焼けにそまり少し赤らめて見える。

 ナタリアを見つめる目は慈愛に満ちた母親そのもので、そこに見惚れてしまった。

 幼馴染で姉のような存在だったが、ここにきて決意するべきかと考え始めていた。

 聖女は結婚すれば教会から出る事ができ、結婚相手の家から教会に通う事が許される。

 もし、聖女をやめて冒険者でなくなるのなら、それすらも免除される。

 そんなメリットも考えた俺は、立ち止まって呟いた。

「なぁ、俺たち、もう一歩進んだ方がいいと思うんだ」

 その言葉を無視するかのように、歩き続けるリタは何も言わなかった。


 玄関前に着いた時、ナタリアを俺に押し付けたリタは「じゃあ教会に戻るね」と言って、立ち去ろうとした。

「さっきの話───」

 俺がそう言いかけた時、リタから零れ落ちた涙に何も言えなくなってしまった。

 ───振られてしまった。

 結局のところ、弟にしか見られていなかったのだと自身に言い聞かせて、一旦その気持ちを抑え込んだ。


 俺は落ち込みながらも家の中に入ろうとすると、玄関の鍵がかかっていない事に気が付いた。

(鍵をかけ忘れていたのか?)

 そんな疑問を浮かべながらもドアを開く。

 複数人の気配と、微かな香水の匂いがした。

 密告の内容が脳裏を過る。

 聞いていた不審者の情報が思い返しながら、相手の正体を特定しようとする。

 だが、その答えが出る前に相手が声を発した。

「おかえり、ライオネル殿。中で待たせてもらったよ」

 それは聞いた事のない声だった。


─────────────────────────────────────

 空き巣です!悪です!退治しなきゃ!(使命感)

 と、来れば次に来るのは戦闘シーンですかね?(ワクワク)

 でも、リタの妹と弟が登場するそうです。戦ってる場合か?


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 子供用の服って、生まれるタイミングによって足りなかったり、集まりすぎたりしますよね。リタの妹の服は近所の子供に譲ってしまったのでしょう。

 これからもよろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る