第9話 招かれざる客
家の中に入ると、そこには見知らぬ人物が二人いた。
身なりの良い
咄嗟に腰の短剣を抜いて構えると、少年の方が話しかけてきた。
「君、随分手練れだって話じゃないか。単刀直入に言おう。君が俺に仕えるに相応しいかテストさせてもらいたい」
「名も名乗らず空き巣に入るような人物に仕えろとは随分だな。まぁいい、実力を見たいのなら表に出ろ」
二人はやれやれと言った感じに外に出る。
その間に、抱きかかえていたナタリアをベッドに下した。
(こんな状態でもぐっすり眠っているなんて、大物になりそうだな)
そして玄関に向かうと、おもむろに施錠した。
「おい!お前は出てこないのかよ!実力見せるんじゃないのか!」
今日はやけに野犬が吠える日のようだ。
今はリタに振られて、あんなのと関われるような精神状態ではない。
外の騒音を無視してトイレに向かう。俺には落ち着く時間が必要なのだ。
だが、そのドアを開けた時、信じられない物が視界に入ってきた。
「お前、何やってんだ」
トイレに居たのは、縛られて猿轡をつけたサイだった。
「ムヴゥ~~ムウウウ!」
腕や足などに包帯が巻かれているだけでなく、まるで誰かにタコ殴りされたような顔面は酷く痛々しい。
先日のクエストでの戦闘の激しさが伺え知れるというものだ。
その時、玄関のドアをドンドンと叩く音がした。
サイを放置して玄関に向かうと、聞きなれた声がした。
「でてこい、あくやくめ~~!!」
「わたしたちがせいばいするの~!!」
ドアを開けると、そこには小さな二人の冒険者が立っていた。
剣士ごっこ用の木剣を振りかざすリトに、魔法使いごっこ用の魔法杖を構えるリマ。
二人は双子でリタの弟妹。今年で6歳になる。
「よう、どうしたんだ、こんな時間に」
「えい!えい!」
「た~お~れ~ろ~、おねえちゃんをいじめる、わるいやつめ~」
木製の武器でポカポカと叩かれる事には慣れていた。
それは普段の遊びにもある事だったし、リタと喧嘩した時の恒例行事でもあった。
当然ながら、殴られる理由にもすぐに思い当たった。
「なぁ、二人とも、リタに謝りたいんだが、家にいるのか?」
二人は攻撃の手を止め、シンクロするように首を横に振る。
家に居ないという事は、既に教会に戻ってしまったという事なのだろう。
「悪人は反省して謝りたいと思っている。次に会ったらそう伝えてくれないか」
双子はその返事に納得したのか、
「わかった!」
「つぎはないの~!!」
そんな捨て台詞を残して走って帰ってゆく。
(しかし、俺が悪いのか・・・?というか、武器忘れていきやがった)
「なぁ、茶番は終わりか?」
追い出したはずの二人が律儀に順番待ちをしていた。
「もしかして、中にいる人物について何か知ってるか?」
「ああ、アイツがこの家の鍵を開けてくれたんだ。何やら物色していたので空き巣なのではないか?」
「───そういう事か・・・。助かった」
「まぁ良い、今日のところは興が削がれた。改めて挨拶にこよう」
「まってくれ、名前を教えてくれないか」
「俺の名はルーカス。見ての通り、金持ちのボンボンさ」
やはりコイツが組合長が言ってた一人だ。
「───そうか、そういう事の方が助かる」
「ああ、では、また近いうちにな。あ、憲兵は呼んだ方がいいか?」
「頼む」
そういうと二人は背負向けて立ち去ってゆく。そして俺は気づいてしまった。
家の中に入ると、力が抜けてその場にへたり込んだ。
ルーカスのマントに刺繍されていた紋章に竜が描かれてあったのだ。
竜を模した紋章は王族、あるいは王族に縁のある貴族のみに許されている。
そんな人物に剣を向けたのだから、打ち首になるに十分な条件を満たしていたのだ。
それなのに金持ちのぼんぼんと自称するのだから、不問としてくれたのだ。
あるいは、貸一つとでも言いたいのかもしれない。
(面倒な人物と関わってしまったな・・・)
◇ ◆ ◆ ◇
その日の夜、高級宿屋にて───
そこには薄暗い部屋に、一本のロウソクを見つめながら、ワイングラスを傾けブドゥジュースを飲むルーカスの姿があった。
「爺、気づいたか」
「はい、さすがは殿下ですな」
「うむ。あの短剣の構え方は───」
「間違いなく近衛兵の訓練を受けた者ですな」
「───しかも、あの家の壁に飾られていた剣。あんな骨董品を使っていたのは、もう20年近く前だろ」
「ええ、当時の近衛兵に支給されていた大剣に間違いありません」
「───そうか、あの頃に解散した近衛隊があったな。その残党だとすれば一騎当千とまで謡われた戦闘集団か!あの悲劇の第三王子直属部隊!そうだったら、とんだ掘り出し物じゃないか!?」
「ええ、かの者を味方に引き入れれば、殿下の立場も強くなりましょう」
ルーカスは口角を上げて、勢いよく立ち上がった。
「ああ、ライオネル殿が欲しい!欲しいぞ!はーっはっはっはァ!」
大声で叫び酔いしれるルーカスを見つめる執事は思った。
(ああ・・・また、宿屋の主から苦情が来る・・・。それにしても、寝る前の甘い物はいつになったら卒業するのやら・・・)
翌朝、執事の懸念通りめちゃくちゃ怒られた。
─────────────────────────────────────
雇われでもしたら、王都で騎士になってしまう?
そうなれば、安定した収入が確約される。その代わりに失う物はないのか。
人生の分岐が間近に迫っている・・・のか?
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感想など反応あれば非常にうれしいです。
もし仮に、ルーカスが男色家だったら印象がガラリと変わっちゃいますね。
これからもよろしくお願いいたします。
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