第7話 冒険者組合②
「黒魔法の本はあったの?」
リタの言葉にナタリアが反応し、熱い期待の眼差しで俺を見つめた。
(ここで成果が無いと言って落胆されるのはなぁ・・・)
「あ・・・あるにはあった。だが、内容が難しいから少し待ってくれ」
「私も読んでみようかしら、どこにあるの?」
本棚の場所と本の特徴を教えると、リタは急いで食べ終わり、本を探しに行った。
俺はナタリアに合わせてゆっくりと食事をしていると、海鮮と野菜の炒めを食べていたナタリアが、ピィルマンを避けている事に気が付いた。
「もしかして、その緑色の野菜、苦手なのか?でも、残したらリタに怒られるぞ~」
その事がショックなのかナタリアは下を見て涙目になる。
(そんなにも嫌いなのか・・・、しかし好き嫌いは良くないしなぁ・・・)
「仕方ないな、その緑の野菜を半分食べたら残りはパパが食べてやる」
最初こそ躊躇して手が止まっていたが、決意をしたのか目をつぶって食べ始めた。
少し涙目になりながらも、頑張って食べる姿に応援の声をあげたくなるが心の中にとどめる。
(がんばれ・・・!がんばれ・・・!)
半分食べ終わり、皿ごと俺に渡した時、事件は起きた。
「あ~、いけないんだー。好き嫌いはダメよ~」
戻ってきたリタに見つかってしまった。
ナタリアはショックを隠せず、今にも泣きそうな表情で俺をじっと見つめた。
(仕方ない、助けてやるか)
「リタ、半分食べたら残りを俺が食べる約束だったんだ。今回は許してやってくれ」
リタは少し意地悪な顔をして腕を組んだ。
「じゃあ、今残ってる分の半分は食べるのね?」
ナタリアが涙目で訴えてくる。
一瞬、躊躇したが、俺はフォークでぶっさして一気に平らげた。
「あー!ライ!ダメでしょ!!」
リタは怒ったが、ナタリアの笑顔が俺に向いているだけで十分だった。
(だって、約束だもんな)
「ところで言ってた本が見当たらなかったわよ?」
「まぁ、また別の日に見せてやるよ」
その時、俺はあの本から距離を置きたいと思ってしまっていた。
漠然とした不安が、その本にあったのは間違いない。
「そんな事より、ナタリアの服を買いに行かないか?まだまだ足りないからさ。当番はもう終わりなんだろ?」
「そうね、いいわよ。ナタリアちゃん、買い物いこうね!」
「うん!」
俺も席を立とうとしたとき、受付嬢のセレストが俺に近寄ってきた。
「あの、ライオネル様、組合長よりお話がございますので、少しお時間よろしいでしょうか」
なんだか面倒な予感はするが、こういうのもパーティーリーダーの仕事だと思い、二人には先に買い物に行ってもらい、俺はセレストに付いて行くことにした。
セレストがドアをノックし、「ライオネル様をお連れしました」と声をかける。
すると中から「入れ」と短い言葉が返ってきた。
応接間に入ると、組合長は大きなソファーに座っていた。
俺は両親が無くした頃から、組合長に鍛えてもらった事があり、今でも何かと気にかけてくれている。いわば、親切でおせっかいな親みたいな感覚がある。
「よくきたな、ライオネル。まぁ、座れ」
「はい」
「あの嬢ちゃんはどうだ?元気にしているか?」
「ええ、元気ですよ。さっきまで酒場でピィルマンと格闘していました」
「そうか」
組合長は気まずそうに、何か言いたげだった。
「用がないのならこれで」
立ち上がろうとした途端、組合長に引き留められた。
「待ちたまえ!話は何も終わっておらん!」
「だったら、早く言ってください。俺は今すぐナタリアの服を買いに行きたいんですよ」
「そんなのは、後でいくらでも買ってやればいいだろう」
思わず机を叩く。そして、大声をあげてしまう。
「それで、リタのチョイスの二番煎じとか言われたらどうしてくれるんですか!」
俺の言葉にセレスト笑いをこらえ、組合長がドン引きしていた。
「わかった、手短に終わらせるから」
「さあ、早く言ってください、ほら早く」
「そんな年寄りを焦らせるな!まだ確定情報ではないのだがな、嬢ちゃんが狙われている───。まて、落ち着け、深呼吸しろ」
その時の俺がどんな顔をしていたのか、今では思い出せない。
きっと、かなり酷い形相だったのだろう。
「・・・それで・・・相手は誰だ」
「まてまて、狙っているというのは憶測でしかない。早とちりしないでくれ」
「それでも、当てはあるんだろ?なぁ、教えてくれよ」
組合長は額の汗をぬぐいながら答える。
「───最近、この町に来た者が何人かいるのだが、お前と嬢ちゃんの話を聞いて回っているそうだ」
「それだけの事で、どうして狙ってると───」
組合長からそっと出されたのは小さな紙きれ。
そこには『ライオネル殿の周辺に気を付けられたし』と書いてあった。
「冒険者で把握している、余所者は何人くらいいるんだ?」
「それはだな───」
組合長によると関係していそうなのは三人。
一人目はルーカスという者で従者を連れた人物。
上等な服を纏い、この町で一番良い宿を率先して抑えたとか。
彼の会話の内容から、王都から来ている事が判明しているらしい。
二人目にヴィンセントという冒険者。
この町で冒険者登録を行い、登録自体はこれが初めてだという。
ただ、その腕は確かで実力は中級冒険者クラスになるだろうと言っていた。
そして最後に、名前の分からない褐色肌のエルフ。
宿屋にすら泊まっておらず、どこで寝泊まりしているか、目的も不明。
やたら短気で時々、暴力沙汰を起こしているらしい。
後は行商人や女子供ばかりだから、大丈夫だろうという話だ。
(これ、どう見てもエルフが怪しいだろう)
これだけ聞くと、狙われているのは俺自身という印象を受けるが、ナタリアを狙うに至る根拠は別にあった。
それは、魔王討伐クエストが発端となっている。
今のところ、依頼中止状態となっている魔王討伐クエストだが、その後の対応については保留状態となっており、その保留としているのが領主のボルドー伯爵だ。
魔王という存在に関する記憶が全員から失われたのは確かだが、書類上に記された内容までは消えていなかった。記録上では九回も討伐に向かい、冒険者には戦利品があるというのに、領主には何のメリットが無かった事が不満らしい。
恐らくはナタリアを魔王あるいは魔王の子として祭り上げ、捕らえる事で貴族としての箔をつけたいと考えているが、ナタリアが人族にしか見えないのが問題で、醜聞を気にして二の足を踏んでいるという状況らしい。
組合長は領主の手先がこの町に潜伏し、密かに『ナタリアが魔族である』という証拠を探しているのではないかと警戒してくれていたのだ。
組合長から解放された俺は悠長にも犯人を考えながら服屋に向かった。
この先であんな事になってしまうとは、この時の俺には知る由もなかった。
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どうしよう、ハートフルが遠い(;´Д`)
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感想など反応あれば非常にうれしいです。
尚、異世界なので食材名はある程度いじっていますが、直感したもので正解です。
そう、ピィルマンは緑のアイツです。今でも美味しいとは思えないけど、肉詰めだけは例外。
これからもよろしくお願いいたします。
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