第5話 マリーネの魔法体系教室
俺はナタリアを連れてマリーネの家を訪ねた。
ことの発端は将来の夢を聞いた時、ナタリアがモジモジとしながら『魔法使い』と答えたからだ。
明確な目標があるのなら、後押ししてやるのが親の役目。
軽い気持ちでマリーネに教えてもらおうと考えた。
マリーネは玄関のドアを開けると一瞬嬉しそうな顔をしたが、ナタリアの存在に気づいて嫌そうな顔に変わる。
人族嫌いのマリーネがナタリアに関わろうとしていないのは知っていたが、ここまで露骨に感情を出すとは思わなかった。
「まぁ、せっかく来たんじゃ。茶でも出そう」
嬉しさ半分、落胆半分と言ったなんとも複雑な表情だ。
(以前は無防備な恰好で抱き着いて来たり、犬の様にやたらベタベタくっついてきたのになぁ・・・)
傍から見れば、マリーネは俺に恋愛感情を抱いているようにも見えるらしい。
ところが二人きりでいたとしても傍に寄り添うだけで、それ以上の進展は無い。
ある時、リタが躊躇しながらも聞いた事があった。
「ねぇ、マリーネはライの事、好きなの?」
「まぁ、好きか嫌いかで言えば、好きじゃな」
「そうじゃなくてぇ、ほら、結婚したいとか恋人になりたいとか!」
「ん~、そういうのはないの。しいて言えばアヤツの傍は心地よい。それだけじゃ」
「じゃあ、男としては見てないって事?」
「ああ、それはそうじゃな。カッカッカ。しいて言えばお気に入りの迷宮鉱石のようなものじゃ」
男として見られてないという事自体は少しショックだった。
だが、その直後にリタの機嫌が良くなっていたので、その場では良しとした。
(そもそも、迷宮鉱石ってなんだよ)
「それで、ナタリアに魔法について説明してほしいのだが、頼めるかな」
目を輝かせるナタリアに気圧されるマリーネ。
いかにも断りたいという気持ちが顔に現れていたので、ゴリ押すことにした。
「頼む!何でもするからさ!」
「いま、何でもと言ったか」
「あ、、、、ああ、まぁ、俺に出来る事であればな」
「じゃあ、おぬし、椅子になれ」
「え?」
そういう訳で椅子になってしまった。
ナタリアの正面に俺が座り、その上にマリーネが座る。
体格差的には妹のようなものではあるが、その実、マリーネの方が倍以上の年齢である事を忘れないでいただきたい。
それでマリーネの機嫌がよくなったならそれで良しとした。
ナタリアは冷たい目線を俺に向けたが、魔法についての話が始まると真剣な表情になった。
(もしかして、俺の評価、だだ下がりか?今は考えないでおこう・・・)
マリーネは咳払いをすると魔法の体系について説明を始めた。
魔法使いには大きく三種類ある。
白魔法使い、四属性魔法使い、黒魔法使いだ。
白魔法使いは教会での祝福によりスペルを授かる。回復魔法を中心とした魔法系統で比較的覚えやすい。だが、教会の管理下に入る必要があり、その行動はかなり制限されるようになる。
四属性魔法使いは、火、風、水、土といった四種類の属性魔法を操れるが、覚えるスペルが四属性分となる為に魔法の種類は膨大になる。さらに言えば特定の属性に偏った覚え方をすると酷く威力が落ちるので、バランスよく覚える方が良いとされている。ちなみに初歩の初歩であれば一般人でも習得している者がいる。それは生活魔法としてある程度普及しているからだ。
黒魔法使いは系統が多彩に細分化されており、一つの系統を極める者が殆どだ。共通のスペルはあるにはあるが、大半は系統ごとに覚える呪文が異なる。そして、どのような系統があるのか全て把握している者は殆どいないと言われている。攻撃系の威力においては、四属性と比べて最も成長が目まぐるしいのだが、大抵独学になるため、習得難易度は非常に高い。そして、人族やエルフ族は魔族が使う魔法だとして忌み嫌う風潮がある。
マリーネはここで一区切りを置いて、ナタリアに問う。
「さて、
ナタリアにとってみれば白魔法を選べば教会でリタと一緒に暮らせるメリットがある反面、冒険者としては1パーティ1聖女の原則のせいがある為、将来的に一緒に冒険とはいかなくなる。
そうなると難易度的に四属性魔法を選ぶのが普通だ。
マリーネはその時、四属性魔法を選ぶと確信していたらしい。
根拠として白属性魔法ならリタに相談していたし、自分の元に来たのだから四属性魔法を選ぶのは当然だと思ったからだそうだ。
「あのね・・・」
ナタリアは不安でいっぱいといった声で、想定外の選択を口にした。
そう、黒魔法を選んだのだ。
しかも、系統は召喚魔法がいいと言う。
これには俺もマリーネも凍り付いた。
マリーネはこめかみを抑えながら、俺の肩を軽く叩くと「専門外じゃ」とリタイアを宣告した。
(まぁ、エルフは人族よりも黒魔法を嫌うから仕方がないな)
なぜ召喚魔法なのかと問い詰めようかとも思った。
だが、その一言を言ってはいけない気がした。
せっかく自分の意思を表に出したのに、その芽を摘んではならない。
(いや、これは機嫌を損ねるのが怖いだけか・・・)
少し考えた結果、俺も決意した。
(俺が覚えてからナタリアに教えればいいんじゃないか)
ナタリアは文字の読み書きができないから、ナタリアが文字の勉強をしている間に俺が黒魔法を覚えればいいという結論だ。
「よし、ナタリアが黒魔法使いになれるように、一緒に考えよう」
その時、ナタリアが今まで見た事のない笑顔で俺に抱き着いた。
「パパ、ありがとう!」
(我が一生に悔いなし!パパ、滅茶苦茶頑張るからな!)
その時、なぜかマリーネに小突かれた。
「なんだよぉ」
その後、召喚魔法について少し説明があった。
召喚魔法は黒魔法の中でも比較的メジャーな系統に当たる。
冒険者で覚える者は非常に少なく、貴族のお抱えになっている事が多いが、それが公になる事はまずない。
召喚には対価として供物を必要とするが、通常は魔物や動物が使われ、死体より生体の方が供物としての価値は高い。しかし、生体の場合は屈服あるいは行動不能になっている必要がある。
供物の量や質については召喚対象によって変わり、時に非人道的な*規制*や*規制*を必要とする事もある。
そのような召喚は禁忌とされているが、貴族が関わる事が多く、公になった事例は数える程度しかない。
貴族が何を求めるかは、想像に任せると言われて締めくくられた。
説明が終わるとマリーネは少し困ったような顔をして、俺にだけ聞こえるように耳打ちした。
『本当に困った事になったら儂を頼るんじゃぞ』
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ナタリアが歩み出そうとする道は危険な道だった。
親として止めるべきか思考もせずに望みを叶えようとするライオネル。
一体誰であれば止めれるのか、助けてくれ、リタ!!(ネタバレ)
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感想など反応あれば非常にうれしいです。
時々、うっかり魔術という単語を使ってしまうかもしれませんが、当小説においてそれは誤字なので魔法と読み替えて温かい目で見守ってください。
どうして誤字か?魔法書は言いやすいけど、魔術書って言いづらいですよね。
白魔術、赤魔術、青魔術、くろまじゅちゅ・・・。いえ、何でもないです。
これからもよろしくお願いいたします!
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