第4話 魔王討伐③+人物設定他

 九度目の討伐での魔の森は敵の強さがまばらだった。

 多少余裕のある戦闘だったり瞬殺したりと、かなり楽に感じていた。

 これまでは回を重ねるごとに強い魔物と遭遇し、回を超えて同じ種類が現れる事はなかった。だが、今回は以前に遭遇した種類が殆どで、そこに奇妙さを感じていた。

 結局、戦闘が楽だった事と森の中の移動に慣れたのか、たったの十日で魔の森を突破した。


 そこで俺たちが目撃したのは、魔王城ではなく今にも崩れ落ちそうな古城だった。

 規模も明らかに小さく、ルートを間違えたのかと思ったほどだ。

「これが魔王城・・・なの?」

 リタが信じられないといった表情で呟いた。

 だが、魔王城前にある休憩した痕跡は、明らかに俺たちが残したもので間違いない。

(魔王はなのだろうか・・・)

 ふと、我に返る。

 俺は何故に魔王の事を心配したのかと。


 俺にとっての魔王は何なのか。

 倒すべき天敵なのか。

 それとも、好敵手なのか。

 はたまた、師匠なのか。

 魔王のお陰で強くなったのは、他の依頼をこなした時になんとなく感じていた。

 体は軽く、剣は冴え、攻撃を見切る事ができた。

 それもこれも、魔王がくれた装備のお陰というのが大きい。いわば、魔王に育てられたのだ。

 それなのに当の魔王の顔どころか名前すら思い出せない。

 ぽっかりと空いた記憶の隙間に酷く焦った。

(魔王はこの中に居るはずなんだ!頼む、無事で居てくれ!)

 そう願いながら古城の内部に進んだ。


 いつもの大きな部屋にはすぐに辿り着いた。

 だが、そこには魔王の気配は無かった。

 以前の煌びやかさはなく、ただ乱雑に大小様々な瓦礫が散乱しているだけ。

 見ようによっては王座ともとれる古びた椅子が寂しそうに鎮座している。

 誰かが争った形跡はなく、ただ、無為に時が過ぎたであろう空間がそこにはあった。


「魔王だけがいない・・・」

 俺が呟くと、リタは俺の袖でを掴み、小さく震え出す。

 いつしか、俺たちは魔王を心の拠り所にしていたのかもしれない。

「だれか、魔王の事を覚えてるものはおらんか!?」

 さすがのマリーネも声に焦りが感じられる。そして、全員が首を横に振る。

「なんだよ!魔王が居たってのは嘘だったのかよ!」

 新参のサイが悪態をついた。

 負けても装備がもらえると聞いていただけに、裏切られたとでも思ったのだろう。

「いや、確かに魔王と対峙したのを覚えてるぞ。この武器が証拠だ」

 三回目から参加しているゴドウィンが弁明する。

 だが、その表情には動揺しかなく、本人ですら確証を持っていなかった。

「今回はいい指輪がもらえるものだと思ってたのに・・・」

 五回目から参加しているフロイドが残念そうにつぶやく。

 物欲ばっかりだが、俺も似たり寄ったりなのだ。


 サイが瓦礫に八つ当たりをし、俺たちは目標を失って佇んでいると、部屋の片隅にあった大きな瓦礫の方から咳払いが聞こえた。

 そこに隠れていたのは髪の長い幼女だった。

 幼女は少し震えてこちらを睨みつけていた。

 魔王が変化して油断を誘っている可能性も否めない。

 皆が警戒する中、リタが無警戒で幼女に近づいてゆく。

「おい、リタ、危ないぞ!」

 思わず大きな声を出してしまった。

 そのせいで幼女は完全に瓦礫の影へと隠れてしまった。

 するとリタは俺に向かって言い放った。

「バカ言わないでよ!こんなかわいい子が危ない訳がないでしょ!」

 リタは幼女の前でしゃがみ込み、目線の高さをあわせて話しかける。

「私はリタ。携帯食で良かったら食べない?」

 幼女は何も反応しない。それでもリタは話しかけた。

「干し肉は嫌なのかなぁ、じゃあスープを温めたら食べる?」

 まだ反応はない。

 だがその時、お腹の虫が鳴る音がして、幼女が動揺する。

 すると、リタはさらなる笑顔で話しかける。

「やっぱりお腹空いてるのね、仕方ないなぁ~、とっておきのお菓子をあげるね」

 リタは腰に装備したマジックポーチから小さな焼き菓子をいくつか取り出して幼女の前に差し出した。

 そのお菓子の匂いは、まるで出来立てのように甘いバターの香りが漂う。少し離れた俺のところにも届き、口内によだれが充満するほど美味しそうだ。

 匂いに我慢できなくなったのか幼女はそれを奪い取ると一心不乱に食べだした。

 俺たちは幼女の食べる姿に毒を抜かれ、リタは嬉しそうに見つめていた。

 そして食べ終わると、幼女は気が緩んだ顔になり、その顔に全員がほっこりした。

(魔王がこんな癒しな訳がないよな・・・)

 そこでリタが幼女を抱きかかえて話しかけた。

「ねぇ、私たちの町に来ない?あそこのお兄さんが面倒見てくれるわ」

 すると俺の顔を見た幼女は、拒否するかのようにリタにしがみついた。

「大丈夫、私もいっぱい会いにいくから、ね!」

 幼女はリタにしがみついたまま、小声で肯定する。

 だが、その時の幼女の眼差しは、怯えなどなく、真っすぐに俺を捕らえていた。

 それは、まるで何かの目的を持った、年齢不相応の強い意思を感じ取れた。

 その事を気づかないリタは嬉しそうに言った。

「じゃあ、名前、いえるかな?」

 幼女は小さく、息をのみ、そしてゆっくりと答える。

「───ナタリア」


 そうして、俺たちは出会った。

 だが、同時に魔王の存在は人々の記憶から消え、闇に葬られた。


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設定:マジックポーチ

 中級冒険者2年分の収入くらいの価値がある。要はかなり高価だが、それでも下級品にあたる。

 大型リュック程度の容量があり、一般的に飲食物を収納するのに使う。

 その理由としては、主に食べ物から発する匂いを抑える事と、時間経過の劣化を防ぐため。

 なお、取り出す際は入れた物をイメージする必要がある為、忘れてしまうと基本的に破壊するまで取り出せなくなる。

 リタの持つ物は2回目の魔王討伐の際に魔王からの贈り物。

 ちなみに、魔物の素材を食料品と同じマジックポーチに入れるのは嫌がる者が多く、リタもその一人。リタ曰く『気持ち悪いでしょ』


設定:人物情報

・ライオネル 男 19歳 戦士(正統セレニア流) 身長175cm

  剣は幼少の頃から父に叩き込まれていた。

・リタ 人族女 19歳 白魔法使い 身長165cm

  ライオネルと一緒に育ち、剣も一緒に教えてもらっていた。姉のような存在。

・マリーネ エルフ族女 *規制*歳 四属性魔法使い 身長145cm

  人族嫌いが無ければ一級冒険者だった。ライオネルの両親とは旧知の仲。

・ゴドウィン 人族男 32歳 盾戦士(我流) 身長200cm

  三人の子供がいる愛妻家。酒癖のせいで長女に嫌われがち。

・サイ ホビット族男 22歳 アサシン 身長140cm

  普段は陽気で軽口。以前、失言が多くてパーティを追放されていた。

・フロイド 人族男 23歳 アーチャー 身長165cm

  物静かな人物。読書好きで知識は豊富。結婚したい彼女がいる。

・ナタリア 人族女 4歳 身長95cm

  *詳細不明*

・魔王? 魔族男 名前:*規制* 身長210cm(推定)

  *存在抹消*


***

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

感想など反応あれば非常にうれしいです。

これからもよろしくお願いいたします。

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