第3話 魔王討伐②

 だだっ広い部屋は壁の装飾こそ煌びやかだが、不自然に物がなく、唯一あるのは上等な玉座のみ。

 そして、それを使用していたであろう人物は一目で魔族と分かった。

 頭から生える四本の角、紫色の肌に長い爪と長い耳。そのどれもが恐ろしく、今にも逃げ出したいと思う程だった。

 そして、少し言葉を交わした結果、相手は魔王だと自ら認めた。

『そうだな、君たちの言う所の魔王

 それから戦闘になったが、あっさりと負けた。

 転移魔法を使う余裕なんてなく、手も足もでず、ただ一方的に負けたのだ。

 最早指先すら動かせず、死を覚悟したその時、魔王は俺たちを回復させた上で町まで転送した。


 唖然としながらも安堵し、そして混乱した。

 だが、三人の考えは一致していた。

『この事を冒険者組合に、どう説明しようか』

 結局、全員で口裏を合わせる事にした。

『俺たちは全力で戦ったが全く敵わず、命からがら逃げ帰った』

 それだけで信じてもらえるとは思えなかったが、そう言うしかなかったのだ。


 結果をから言うと、魔王城にたどり着いた事は信じてもらえた。

 それは、組合長と話している時の事だった。

 組合長は俺の剣を見て驚き、確認させてほしいと言い出した。

 まじまじと俺の剣を眺める組合長は、なにやら珍しい物を見る目つきだったが、俺の剣はこの町の武器屋で購入した『少し良いだけの普通の剣』だったはずだ。

「この剣はどこで手に入れたのかね。こんな精巧なものはこの町では手に入るまい。領都でも手に入るかどうか・・・」

 渡す時に違和感があったが、改めて見ると明らかに今まで使っていたのとは別物だった。

 そして、俺は咄嗟の言い訳を口にした。

「魔王城にあった物を拝借した。コイツのお陰で生きて帰ってこれたんだ」

 その言い訳に組合長は半信半疑ながらも、信じる事にしたらしい。

 改めて確認すると、リタとマリーネの杖もより強力で上位の精巧な物に変わっていた。

 そして、魔王の最後の言葉を思い出した。

『まだまだ実力不足のようだ。出直してくるがよい』

(あれは、また来いという意味なのか?)

 結局、魔王の行動を誰一人として理解できず、誰に相談する事もできなかった。


「ナメられたんじゃ!」

 酒場でマリーネがテーブルを強く叩き、大声を上げた。

 彼女の言うことも尤もだ。

 俺が言うべき事を言ってくれたに過ぎないので、うなづいて同意した。

 そこで、リタが一つ疑問を口にする。

「ねぇ、魔王の言った事覚えてる?」

「あぁ、自らを『君たちの言う所の魔王』と言ってたな」

「それって、魔王の自覚が無いって事じゃないかしら?」

「じゃが、あの強さは魔王で間違いないじゃろ!」

「もしかして、魔王に覚醒する前・・・とか?」

 それから暫く話し合った結果『覚醒前で舐められている内に俺らが強くなって倒せばいい』という結論に達した。

「よし、訓練がてらに別の依頼で強くなってからリベンジしよう!」

 その言葉に二人は強く同意した。

 それから数々の依頼をこなし、メンバーを増やして再び魔王討伐を目指した。

 何度負けても、強くなってリベンジする。

 そうして、いつしか『不死身のライオネル』と呼ばれるようになった。

 負けるたびに強化される装備、誰一人死ぬことのない戦闘、失うのは道中の食料と精神力だけ。

 体が動くなら、何度でも何度でも挑戦したいと思うようになっていた。

 だが、どれだけ鍛えても魔の森での戦いはギリギリだった。

 そのためか俺たちは強くなっているのか不安になっていた。

 そして、初挑戦から二年半の時が流れ、九度目の討伐に向ったが、そこでは異変が待ち構えていたのだ。


 ◇ ◆ ◆ ◇


 一方その頃、冒険者組合では───


 何人もの受付嬢が一枚の書類について話し合っていた。

「ねぇ、この冒険者の登録した人って誰?覚えてる人いない?」

 その書類には冒険者の情報やクエスト受注履歴が記されている。

 そして、高難易度のクエストがいくつも並んでいるのを見れば、誰しも上級冒険者だと認める内容だった。

「うーん?書類上は随分と立派な功績上げてるみたいだけど、初めて見る名前ね」

「ラング?これはきっと偽名ね。よくある名前よ」

「じゃあ、破棄しましょ。まったく、誰の捏造かしら。これ程の上級冒険者を私たちが知らない訳がないわ。セレストさん、一応組合長への確認と関係書類のチェック、あと処分をお願いね」

「はい、かしこまりました。チーフ」

 新人のセレストは任された仕事が嬉しいのか、軽いフットワークで組合長の部屋に向かう。

「早めに終わらせてね。大口依頼が中止になって書類が溜まってるんだから」


 そうして一人の上級冒険者が登録抹消された。


─────────────────────────────────────

魔王の根底には接待プレイがあった!?

尽きる事の無い袖の下装備品に浮かれて通う冒険者たち。

罠だろ?絶対罠だろう!悔しい、でも通っちゃう!(妄想)

魔王の目的とはいったい!?そして、異変とは?

(嘘予告)次回、魔王、プレゼント装備品ネタが尽きる!ご期待ください。

***

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

感想など反応あれば非常にうれしいです。

これからもよろしくお願いいたします。

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