レナの告白

次の朝、カーテンを開くと、そこには銀世界が広がっていた。初雪だった。

彼女は、本格的な冬が来る前に、一人暮らしを始めようと思っていた。

冬に引っ越す人は珍しいかもしれないが、彼女は少しでも早く、琢磨とそこで

「特別授業」がしたかった。


そう、一人暮らしを始めて、自分の思いのすべてを琢磨に告白し、優しく、愛おしく、そして激しく、そこで彼に「特別授業」を施すのだ。彼女は思っていた。

少しでも早く・・・・・。彼女は少し焦っていた。


部屋を出て、階段を下り、食卓のテーブルに着くと、彼女は朝食の味噌汁を温めている母にむかって、TVの朝ドラを見ながら、何気なく言った。


「この冬が始まる前に、私、家を出ようかと思うの」

「そろそろいいんじゃない」母は味噌汁を温めたまま、振り向きもせずに言った。

「あなたが家を出たら母さん、父さんと離婚しようかしら」

そう言った母に、TVの朝ドラを見たまま道子は言った。


「そろそろいいんじゃない」彼女は反対しなかった。なぜならこの二人は、すでに、十年以上前から、夫婦として成立していないのだった。

そしてなにか、その日、すっきりした気持ちで、彼女は学校に向かった。


学校は大盛り上がりだった。女子バスケット部が昨日、全国大会に勝ち進んだのだった。去年、全国大会にも行っている彼女達の実力からすれば、当然の結果だったともいえるが、校内は大盛り上がりだった。しかし、道子には少し不安があった。


それは、去年、全国大会に行った時の、応援団長が、琢磨だったことなのだ。

それには理由があった。女子バスケット部には琢磨の彼女、レナがいたのだった。

そう、琢磨はレナと、つき合っていたのだった。


だから道子は、琢磨が応援団長になることが不安だった。それは彼の受験勉強に及ぼす影響ではなく、これ以上、二人が接近することが不安だったのだ。道子は、自身でも恐怖を感じるほどに、レナを憎んでいた。


「道子先生、今年も女子バスケ部の応援団長をしたいので、特別授業をしばらく休ませてください」琢磨が道子に言ってきた時、彼女は怒りつけるように言った。

「ダメよ。あなた自分のことを考えなさい。今年あなた、受験なのよ。そんなことで、第一志望に合格できると思ってるの。今年の応援団長は、他の人に任せて、あなたは勉強に専念しなさい」


本当は彼女は心の中で思っていたのだ。「これ以上、琢磨とレナを接近させない。そして、琢磨はいずれ、私のものにする・・・。」そんな彼女の思いも知らずに、琢磨は仕方がない、そう思って、応援団長は他の人に、任せることにした。


そしてその日の特別授業も、彼女は彼の横に座り、ほとんど彼につきっきりの状態だった。他の4人の生徒には、質問があれば、その生徒のところに行った。他の4人は「琢磨は難関国立が志望だから」とあきらめていた。道子は彼の横に腰を掛け、彼の温かな体温、柔らかな息づかいを感じるほどに接近し、ただうっとりとしていたのだった。


そして昼休み、彼女はピアノを弾き続けた。いつの日からか、琢磨を思い、情熱的に弾き続けていた。


その日の下校時間だった、廊下で琢磨とレナが話をしていた。

「分かった、レナ。このことは誰にも言っちゃだめだよ。僕が何とかする」琢磨が言った。

「でも、だれか先生に相談したほうが・・・。私、怖いわ・・・」

レナは、泣きそうだった。

「そうだ、道子先生に相談しよう。あの先生なら、きっとなんとかしてくれる」

「・・・・・」レナは黙り込んだ。

何も知らずに、それを見た道子は、鋭くレナを見つめた。

するとレナは、逃げるように、琢磨のそばから、離れていった。

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