切れた電球


何もする気が起きない休日、小腹がすいて目が覚めた。

腫れぼったい瞼がわずかに痛み、そのまま二度寝してしまおうと目を瞑る。

平日ならいくらでも惰眠を貪りたいと思うのに、寝てもいい日に限って眠れない。

食事を抜くのも珍しくない生活をしているくせに、今日に限って空腹が気になる。

のそのそ起きだして台所をあさるが、なにもない。

仕方ない、近くのコンビニに買い出しにでも行くか。

着替えて財布を手にし、部屋を出、階段のスイッチを押す。

……点かない。

カチ、カチ、と何度も押してみるが、やはり点かない。

ああ、こういうことは重なるものだ。

普段特に意識することはない階段の照明。

点かなくなってから初めてその重要さに気が付く。

部屋の電気を消したら一気に廊下が暗くなった。

普段は階段の電気をつけてから部屋の電気を消すから、何の明かりもないと昼間でもこんなに暗くなるなんて知らなかった。

階段の下には玄関があって、すりガラスがはめ込んである。

そこからわずかに外の明かりが射し込んでくるとはいえ、少し急なこの階段を降りるには、わずかな不安があった。

小さな子供のように一段一段確認しながら階段を降りる。

暗いままでは仕方ないから、電球を取り替えなくてはいけない。

買い置きがないから買ってこなくては。

一般的な電球なら、コンビニでも売っているだろう。

コンビニの商品は割高だが、遠くまで足を延ばす気にはなれない。

最寄りのコンビニまでは5分もかからない。

サンダルをつっかけて家を出る。

棚から一番安い電球と、適当なお弁当を選んでレジへ運ぶ。

「お弁当は温めますか」「いいです」

ビニール袋に入れてもらったお弁当と電球を持って家に帰る。

外が明るかった分、廊下は余計に暗く見えた。

袋と財布を玄関に置き、代わりに一階の収納スペースから脚立を持ち出す。

脚立を抱えて、一段一段確認しながら階段を上る。

部屋の電気をつけると、廊下も一緒に明るくなった。

脚立を広げて、照明の下にセットする。

あまり大きな脚立ではない。

手が届くかどうか心配になったが、一番上の段まで上ると、何とか電球に手が届いた。

くるくる回して電球を取り外す。

外した電球を誤って踏んでしまわないよう部屋に避難させ、玄関に新しい電球を取りに行く。

部屋から漏れる明かりがあってもやっぱり足元が不安だ。

袋を手にしてもう一度上る。

もう何度か暗いまま階段の上り下りをしているのに、慣れない。

新しい電球を取り出して脚立を上がる。

くるくる回して電球をはめる。

スイッチを押すと、ぱっと電球が点き、一瞬にして廊下が明るくなった。

これが、見慣れた光景。

脚立を畳んで小脇に抱え、階段を降りる。

明るくなった階段を降りるのは、何の苦労もない。

トントン、とリズミカルに降り、脚立を物置に仕舞い、また階段を上がる。

部屋に戻る前に電気を消し――もう一度スイッチを入れて、電気が点くことを確認する。

もう一度明るく灯った照明に安心して、改めて電気を消し部屋に入る。

お腹はもうペコペコだ。

買ってきたお弁当を温めようと袋に手を入れて、動きが止まった。

袋の中には、二つのお弁当。

電球のことが気になっていて、いつもと同じように二つお弁当を買ってしまったんだ。


切れてしまった電球なら、コンビニにでもホームセンターにでも行って、新しい電球を買って取り替えればいい。

それだけで、いつもと同じ日常が戻ってくるのに。


切れてしまったあなたの人生は、どうすれば再び光を放つのですか。

どこへ行けば、あなたの代わりが手に入るというのですか。


少しだけ黒ずんだ電球と、二つの冷たいお弁当。

昨日あれだけ泣きつくしたのに、再び目から溢れる涙は、枯れる気配もないようだった。





投稿日時:2013年04月14日 23:51

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