嗅覚の記憶

電車を降りるとまだ空は明るかった。

こんな時間に帰ったのは何年ぶりだろうか。

大袈裟でなくこの数年、家には寝に帰るだけだった。

食事もずっとコンビニ飯。そうだ、今日は久々に自炊でもしよう。


住宅街にさしかかると、窓から灯りが漏れている。

テレビの音に談笑する声。

そして流れてくる美味しそうな匂い……これはカレイの煮付けだろうか。


ふと実家の食卓を思い出した。

カレイの煮付けは母の得意料理だ。季節なら週に一度は食卓に上がる。

一人だけ二切れ確保する父、甘いタレをおかずにどんぶり三杯食べる兄、骨を取ってと甘える妹。


おやじ――おふくろ――兄貴――かすみ――

会いたい、会いたいよ――


視界がゆがんで足元も見えない。

辺りはいつの間にか、すっかり暗くなっていた。




2013年09月07日 11:42

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