なんだかよくわからないけれどそういうことがあった

母体は、無限の粘土のようなもの。

そこからいろいろなものが生み出され、またそこに還っていく。

ある時、人のようなものが作り出された。

体と、頭を持つもの。

体はそれほど大きくなくて、ただ胴体と四肢を持っており、その上に頭がついていた、シルエットはまるで一辺が凸、残り三辺が凹の、四角いジグソーパズルのピースのよう。

それは生み出されてからしばらく遊んでいたが、やがて外の世界に興味を持ったのか、もっとよく物を見たくなった。

その欲求は天に通じ、母体は大きな眼球を生み出した。

それで、ジグソーは体から頭を切り離し、頭の代わりに頭より大きな眼球を付けた。

大きな眼球でいろいろなものが見えるようになったそれは、さまざまな情報を取り入れて楽しんだ。

やがて一通りのものを見尽してしまい、もっと多くのものを見られるようにするにはどうすればよいかジグソーは考えた。

そして、新しくもう一体のジグソーが生み出された。

それは、最初のジグソーと同じく頭と体を持っていたが、最初のジグソーとは違い、体を増やすことができた。

人間でいえば上半身に該当する部分をどんどん増やして、頭と体の間に積み重ねていった。

足が一対、頭が一つ、間の腕は何十対。

高く高く伸びたそれは、遠くのものまで見渡して、さらに多くのものを得た。

しかしそれはあまりに高くなりすぎたので、バランスを崩して転げてしまい、その際に頭と体はすべてばらばらになってしまった。

手だけのパーツは足をはやすことができたので、そこには何十の体と二つの頭、一つの眼球が存在した。

既に多くのものを見て満足していたた彼らは、ばらばらになってしまったことをきっかけに、母体に還ろうとした。

しかし母体は彼らを受け入れなかった。

どういう理由かはわからないが、完全な形でなければ母体に変えることができなくなっていたのだ。

体たちは我先にと二つの頭に殺到し、二つのジグソーピースが完成した。

彼らは嬉々として母体へ還り、そこにはたくさんの体と一つの眼球が残された。

体たちは考えた。

眼球はとても不恰好で醜く気味が悪いけれど、それでも頭部であることに変わりはない。

頭部を得ることができれば、母体に還ることができる。

母体に変えることは彼らにとっては何よりの幸福だった。

体たちは眼球へと群がった。

だが、出遅れた一つの体が気づいた。

母体から、次々と新しい頭が生み出されていることに。

ちゃんとした頭があるのなら、だれが醜い眼球などと結びつきたいだろうか。

体たちは向きを変えて、新しく生み出された頭と結びつき、ジグソーとなって母体へ受け入れられる。

恐らく偶然ではなかったのだろう、生み出された頭の数はちょうど体と同じ数、全ての体が頭を得て、母体へと還って行った。

あとに残されたのは眼球だけ。

大きな眼球は大きな涙を一粒こぼしたが、それを見るものは何もなかった。

母体は静かに佇んでいる。







投稿日時: 2013年04月07日20:11

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