解けない雪だるま

私は在宅で仕事をしている。

先方の都合で納期が急に一週間も早まり、ほとんど缶詰め状態だった。

先ほどようやくクライアントに納品のメールを送り、ほっと一息つくとお腹が鳴った。

ろくに食事もできなかったのだから無理もない。

何かおいしいものを食べようと戸棚をあさるが何も出てこなかった。

どうやらインスタントやレトルトの類は缶詰めの間に食い尽くしてしまったようだ。

仕方がないので財布を手に取り上着を羽織った。

近くのコンビニで惣菜でも買おう。

玄関のドアを開けると冷たい外気が一気に吹き付けた。

そして目に入るキラキラとした白いもの。


雪だ。


そういえば窓の外から、じょりじょり、がりがりという雪かきの音が聞こえていた。

これは後から知ったことだが週末は記録的な大雪で、この関東平野部でも二ケタレベルの積雪があったらしい。

だがもうさすがに殆どの雪は解け、日陰の一部を残すのみ。

雪かきに出られなかったことを心の中で近所の方に謝りつつ、コンビニへ急ぐ。

総菜パンで済まそうと思ったが、外の寒さに中てられてついホットスナックなどを買い込んでしまう。

その買い込んだ中華まんの袋を両手に抱えるようにしながらコンビニを出ると、入り口に親子がいた。

「ねぇママ、どうして雪は解けちゃったのに雪だるまさんはまだ解けないの」

コンビニの入り口には子供ほどの大きさの雪だるまがあった。

おそらくバイトが雪かきのついでに、集客のためか遊び心でこしらえたものだろう。

「結衣ちゃんがお店に来るのを待っていたんじゃないかな」

母親の答えはどこまでもメルヘンだ。

小さい子供を持つと本気でそんな風に考えるようになるのだろうか。

単に地面の雪よりも表面積が狭いからであり、コンビニの入り口が日陰になっているだけだと思うが。

それでも

「雪だるまさん、結衣になんのご用?」

と純粋に受け止める子供の素直さが可愛くて、ちょっぴり笑顔になりながら私は帰路を急いだ。


家の前にいつの間にやら雪だるまがある。

玄関の扉のちょうど横だ。

出かけるときは開いたドアの死角になって気づかなかったらしい。

おそらく雪かきせずに残っていた綺麗な白い雪が、近所の子供の心をくすぐったのだろう。

それにしても、よくこんな大きな雪だるまを作ったものだ。

横に並んでみると私よりも大きい。

私はふといたずら心を出してみた。

コンビニで出会った親子を思い出して言ってみる。

「雪だるまさん、私に何のご用?」


雪だるまが、動いた。




2014年03月06日 01:41

冬季イベント『雪』 参加作品

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