ゆうべはおたのしみでしたね

『ライアン! ケルネス!』

叫んでも間に合わない。

二人の体はキメラの吐く炎に包まれ、消し炭となった。


重い棺桶を二つ引きずりながら、西日で赤く燃える町を目指す。

すれ違う旅人が気の毒そうにこちらを見てくる。

『待ってろよ……ライアン……ケルネス……町に着きさえすれば、教会で復活させてやれる……』






「あんたね、今を何年だと思ってるのよ?」

冒頭の数ページを流し読みした加藤が、興味ない態度を隠そうともせずに言った。

「2013年よ、平成25年。わかる? もう仲間が死んだからって棺桶引きずるようなゲームもないし、そういう非現実的なシチュをメタ視点から書くなんて、世紀末に量産されたラノベの手法よ?」

はあああ、と深くため息を着き、デスクに向き直る。

「まったく、あんたの持ってくるのは毎回毎回作品じゃなくてただの回顧録よ。あんたがやったことあるゲームや読んだことあるラノベの焼き直し。それも劣化版」

灰皿の煙草に手をのばす。

「時間はたっぷりあるんだから、せめて最新ゲームとかやればいいのに、どうせネットワークとかについていけないんでしょ? コミュ障だから」

口に運ぶ。ゆっくり吸って、吐く。

「ん、いつまで突っ立ってんのよ。こっちはね、ニートのあんたと違って忙しいの。この無駄紙持ってさっさと帰んなさい!」

原稿の束を投げつけ、くるりと背を向けた。





「やっぱりリアリティに欠けるのが問題かな」

原稿の直し方を考える。

「……棺桶二つは運べないよな。人って思っていた以上に重いし」

よれよれのシャツに脂の抜けた髪、大きなキャリーバッグをごろごろ言わせながらブツブツ呟く男。

すれ違うOLが気味悪そうにこちらを見ている。



2013年02月26日13:58 初出

2014年09月01日 22:13 夏季イベント『怖い話』 参加

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る