第10話 丑三つ時

 「草木も眠る丑三つ時」、午前2時から2時30分の時間。夜の闇が最も深く、霊界の扉が開き幽霊が現れる時間とされている。


 怪談や怖い話は、この丑三つ時に起こることが多い。やはり霊界の扉が開くからなのだろうか·······


 「疲れたぁ」


 壁の時計は2時2分。寝具用のマットの上で座り込んで作業していた。


 3月下旬の冷え込む夜中、独り暮らしの室内には、自分以外誰もいない·······はずだ。


 妖奇小説『夢幻廻廊』の新エピソードを書いていた。タイトルは『丑三つ時』、真夜中の怪奇現象をスマホの原稿作成アプリに打ち込んでいく。


『丑三つ時、照明が突然瞬く。背中の後ろ、長い髪が顔を覆う女性が浮かぶ。家族なのだろうか?後ろからあなたの肩に、白い指をそっとおろした、まるで招くように·······』

 

 原稿作成は終了。あとはトイレに行って寝るだけだ。スマホを置いてマットから立ち上がりかけた。


 突然、瞬く照明。

 右肩に誰かがそっと手を置いた。

 誰もいるはずがないのに·······

 

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