第8話 電車にて

 改札を走り抜け、階段を駆け下りてドアが閉まる寸前、辛うじて電車に飛び乗った。


 『ヤバかった、乗り遅れたら昨日に続いて今日も遅刻じゃ、いくら何でもまずいからな』


 走りっぱなしで飛び乗ったから、まだ息が荒い。この電車なら確実に始業時間に間に合うので、やっとひと息ついた。


 慌てていたから飛び乗った時には気が付かなかったが、朝のラッシュ時なのに、今日はなぜか乗客が少ない。いつもはすし詰めの満員なのに、


 立ち客がいないガラーンとした車内、ほとんどの乗客はシートに腰を下ろしている。


 やたら静かな車内。いや物音ひとつしない。お年寄り、会社員風、学生など乗客は全て下を向いている。


 何かヤバい、おかしな電車に乗ってしまったみたいだ。次の駅で降りなくちゃ。早く次の駅に着いてくれよ。


 10分ほど走って、電車の速度が落ち始めた。どうやら次の駅に到着するようだ。助かった。ドアにへばり付いて停車を待つ。


 音もなく、気配もなく、乗客の全てが、シートから立ち上がった·······

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る