第3話
そういうわけでおれは三滝坂の自宅へ椿さんを案内することになったのだが、奴が現れるのは深夜帯だ。
無断で戻らず張り込むわけにはいかないので、その前に一旦文楽社に寄らせてもらい経過報告をさせてもらうことにした。
おれの家の周辺になんだかヤバそうなものが出るということは伏せて報告をしたところ、予想していたかのように朝凪さんは穏やかな顔のまま頷いてくれた。
「そういうことなら仕方ないね。くれぐれも怪我には気をつけるんだよ」
「ありがとうございます。遅くならないようには気をつけますんで、じゃあ、行ってきます」
文楽社の前でこそこそ隠れて待っている椿さんの元へ戻ろうと踵を返そうとした時だ。
「待って、御厨くん。どこかで夕食をとるといいよ」
「えっ、でも」
朝凪さんがおれの手に握らせたのは、いくらかの金だった。
さすがにそれは、と返そうとするも朝凪さんの押しが存外強くて大人しく受け取るしかない。
「いいんだよ。どうせ彼に奢らせると後で経費にされてしまうから。それに、御厨くんは夕食を抜きがちでしょう。育ち盛りなんだからたくさん食べないと」
「育ち盛りって。朝凪さん、おれはもう子供じゃありませんよ」
「僕にとってはまだまだ幼いよ。ふふっ」
何が面白いんだ。
上機嫌そうな朝凪さんに、おれはされるがままだ。
と、そこへ申し訳なさそうに女性が声をかけてくる。
「宗一さま、少しお時間よろしいでしょうか」
「ああ、今行くよ。それじゃあまたね、御厨くん」
仕事の話だろう。
こちらこそ騒いで申し訳なかった。
朝凪さんはすぐに彼女の元へ向かっていき、おれは金を返せずじまいとなってしまったが仕方ない。
(……ん?)
椿さんの元へ戻ろうとするも、ある違和感に気づく。
いや待て。今の人、誰だ。
おれにはよく名称が分からんが、なんだかひらひらした洋服を身につけた背の低い少女だったが、おれには見覚えがない。
おれの知らないうちに新しい人が入ってきたのだろうか。
それにしては少し珍しい風貌をしているように思える。
新入社員というより、可愛らしいどこかの良家の娘さんでも遊びに来たかのように見えた。
明日あたりに朝凪さんか、他の人に聞けばいいだろう。
よく噂好きで口が軽い五戸さん辺りなら何でも知ってそうだ。
(行くか……)
しかし、年上の朝凪さんからしたら十代後半のおれなんて幼く見えて当然か。
たまには素直に好意は受け取るべきかと、おれはそのまま文楽社を後にした。
「うわーなんにもないね、すごいよこの部屋」
道中で椿さんと牛丼を頂いた後、ようやくおれの部屋に帰ってきたが、着いてそうそう奴はおれの部屋を物色し始めた。
ここに来るまでもべらべらと喋ってばかりでよく話題が尽きないなと言ってやりたかったしらほとんど反応のないおれに話しかけ続けて何が楽しいのかか全く理解不能だったが、ここでもまだ椿さんは飽きないらしい。
「すごいね、俺のとっちらかった部屋とは大違いじゃないか。いや、これはむしろ片付けとかじゃなくて物を持たなさすぎてるんだよね。なにこれ、布団とちゃぶ台と……だけだね!凄く殺風景だ!もうちょっと何かないのかい。君一応出版社勤めなんだから本も買いなよ」
「静かにしてもらっていいですか」
「というか他の住人も全然いないの?ずいぶん人の気配がしないんだけど。なんでこんな怪しい物件に決めちゃったのさ」
「人はいなけりゃいない方がいいかと。家賃は安いし、おれは雨風が凌げればどこでもいいんです」
「風凌げてないよ。すきま風吹いてるよ」
やかましい。隙間の三つや四つ、そんなものはおれにとってなんの妨げにもならん。
「住めば都。おれにはこれでも上等な方なんで」
「君、色々苦労してるんだねぇ。そんなに我慢しちゃって。せめてもっと美味しいもの食べたり酒飲んだりして健康に暮らしなよ」
あんたの幽霊屋敷よりマシだ。
さっき牛丼食べたばっかだし、なんであんたがおれの生活習慣に口出しするんだ。あと酒飲んでも健康にはならん。
「あー……はい」
言いたいことは怒涛の勢いで頭の中を流れていき、結局おれの口から出たのは話を聞いてなかった時にする適当な返事だけだった。
だが三滝坂の怪異が解決しない限りおれの部屋もいわく付きになること間違いなしだったか。
元々住人が数人しかいない寂れたアパートだったところに、ますます寂れ具合の拍車がかかってしまう。
「怪異が出るのは深夜だろう。それまで気楽に過ごすとするかな」
椿さんは我が物顔で部屋の隅に畳んでおいた布団に腰掛けている。
「布団の上に座らないでもらっていいですか」
「だって座布団ないじゃん」
「……じゃあ、いいか」
言われてみればそうだった。
ならば仕方なし。もとより他人を部屋に入れる予定など一切なかったとはいえ、客人に座布団すら用意できないおれの方が悪かった。
「買いなよ。それぐらい朝凪に出してもらえよ」
「いいです。どうせ長居するつもりは無いし」
椿さんはおれの言葉にどうしてだか食いつき、やけに興味深そうな顔でこちらを見てくる。
「それは、どういう意味で?」
「言葉通りです。おれ、ひとつの場所に長く留まるのには向いてないんで。他人に深入りされるのも好きじゃない。どうせ数年経たないうちにクビになってまた仕事探しの日々ですよ」
おれはいつだってそういう人生だ。
元々身元があやふやなものだから、雇って貰える職場があるだけありがたい。
けれどもやはり、おれという人間に深入りされても人に見せられるようなご立派な過去は無く、その結果おれという存在が疎まれることになるぐらいだったらおれの方から切り捨ててしまえば話は早い。
そうしていくつもの職を、街を転々としそのうちにたどり着いたのが朝凪宗一という人の元だった。
今回は一体何年何ヶ月持つのだろうか。
「へぇ。文楽社がいきなり君を解雇するようなことはしないと思うけど、まあ流れ流されの生活も悪くは無いよね。俺だってこの歳なのにふらふらした生き方しかできないからねぇ」
おれの布団の上でだらけながらそう言われても。
「この歳って、そういえば椿さん何歳なんです」
「秘密。当ててご覧」
ふと気になって聞いてみたものの、聞かない方が良かったのかもしれない。面倒だから。
「あの、太正生まれですか?」
「さすがにそうだよ!ギリギリだけどね!大体朝凪と同じくらいさ、俺はそこまでおじさんじゃないよ」
おれが訝しげに尋ねてみれば、椿さんから苦笑された。
今は太正三十一年。
少なくとも二十代後半だということは分かったが、この人の歳にそこまで興味があるわけじゃないので正直どうでもいい話だ。
「そうかぁ、俺も老けたのかなぁ。ちょっと前までは二十歳そこそこに見られてたんだけどなぁー」
「あ、そういえばお茶があったんだった。ちょっと待っててください」
余計に面倒くさそうな気配を感じたところで、おれは貰い物の茶葉があったのを思い出して退却することにした。
「家具ないのに茶葉と急須はあるんだぁ……」
おれだって客に茶ぐらい出せる。
自分で用意した訳ではなく貰い物なのだが、使い時が来るとは思っていなかった。
ふぅ、とため息を着きながら湯を沸かしつつ、何となく手持ち無沙汰で窓の向こうを眺める。
文楽社に寄り晩飯も食べてきたおかげで、気づけばそれなりに夜遅くの時間帯になっており、外は真っ暗だった。
人を家に上げるのはいつぶりだろうか。
三滝坂に住むようになってからは初めてかもしれない。
相手は友人や親しい人ではなく仕事相手なのだが、なんだか妙な気分でもあった。
(それにしても、怪奇現象を自分で経験し、それを小説に脚色するとはなぁ)
これまでの本もすべてそうなのだろうか。
だとしたら彼はかなりの数の怪奇現象を経験していることになる。
眉唾物の話だが、もしそれが本当だとしたらやっぱり椿さんはよほどの物好きだ。
一部の界隈からは熱狂的な人気があるとか言われているらしいし、本当なのかもしれない。
まあどっちにしろ、俺と椿さんは今回限りの仕事相手なのだからどうだっていいことだが。
「椿さん、お茶入りましたよ」
「ありがとうね。それと、はいこれ。俺の小説だよ。こっちは三滝坂の怪異について、新聞記事があったから切り抜いたやつ。驚いたでしょ」
「お、おお……。ありがとうこざいます」
湯呑みと引き換えに矢継ぎ早に渡されるものだから、椿さんの言う通りに素直に驚いてしまった。
「記事を読んでみて、俺の持ってる情報と君の体験に齟齬がないかを確認したい」
隠し持ってないでそれを先に出せ、とは思ったが受け取ってどれどれと読んでみる。
「これ、新聞にもなってたのか」
実業家高坂氏が云々と書かれた記事の下、読者からの投稿として『三滝坂の怪異』が取り上げられていたとは知らなかった。
切り抜きなのに関係無い記事まで切り抜いてくるところに椿さんの大雑把さが伺える。
とりあえず目を滑らせてみるが、なるほど。
おれが体験したことと違いはないが、どうやら人物名がコウイチだがヨウイチだがオウイチだがで迷っているらしい。
あとは、姿を見たという証言も。
声からして女性の幽霊だったが、それ以外にも青白い顔にずたぼろの長い黒髪、煤けて破けた着物などなど。
どれも共通していることは出現する時間なのでこの点は間違いなさそうだ。
「どう?」
「大体合ってる。おれの見たものと同じだと思いますよ」
「なら良かった。計画通りにやらせてもらうね」
その計画、おれは知らないんだが。
「それじゃあ、俺は少し寝るとするかな。晩飯代ぐらいは働かないとだからね。夜はまだまだ長いんだし、君も今のうちに休んでおきなよ」
「言われなくてもそうしますよ」
と言いつつも、椿さんはおれの布団の上でそのまま我が物顔で横になっている。
まるで自分の家のようなくつろぎっぷりにもはや咎める気なんて起きやしない。
しかし、休めと言われても精神の方はともかく特に体力的には疲れているわけでもなかった。
このまま無為に時間を過ごすのももったいないので、椿さんが持ってきてくれた彼の著作をどれどれと手に取ってみる。
題名は、『亡者の偏愛』。
「おぉ……」
作者があんな腑抜けた様子なのに、意外にもずいぶんと固い雰囲気じゃないか。
朝凪さんはおれにはあまり薦めたくなさそうだったからだろうか、余計に興味が湧いてきた。
ぺらりと頁を捲って読んでみる。
あらすじは怨霊に執着される少女の話というもので、とある村に住む少女が怨霊の見目の美しさにつられて拐かされるという所から始まる。
途中で正気に戻りなんとか逃げ帰るものの、その日から少女の身近な人間が次々と不審な死を目の前で遂げるように。
その様子が惨たらしいのなんので、鬼気迫る描写も相まって口に出すのもはばかられるぐらいだ。
焦りと後悔で次第に追い詰められていく少女の内面が事細かに描かれ、その焦燥感がよく伝わってくる。
拐かされた先で見た桃源郷のような景色と、宝玉のような瞳を持つ、男でありながら天女の如き美しさの怨霊。だがそれはまやかしで、実態は少女の魂を我がものにしようと狙う恐ろしいものだ。
怨霊の美しさと醜さは表裏一体で、それが分かっていながらも人外の力に抗えず、徐々に崩壊していく少女の精神と、迫り来る怨霊の執念深さが物語は進むに連れて色濃くなる。
なるほど確かに。朝凪さんの言っていた通り、怪奇・幻想・惨劇その全てが揃っている。
絵画を血塗れにしたとしても、美しさを穢すところまで含めて完成系に至るかのような作風だ。
おれもあまりこういったことに詳しい質ではないのだが、なかなか興味深いと感じられた。
まあそれはそれとして、最後は恐らく少女が自らの命を供物として捧げることで終わるのだろうなと思いつつ惨劇を読み進めていたのだが。
「……そろそろ来るな」
「えっ」
眠っていたはずの椿さんが急に起き上がるなりそう言うので驚いてしまった。
「あれ、ずいぶん集中して読んでくれてたんだ。どう、面白かった?」
「それなりには……じゃなくて、なんなんですか急に」
「だから、来るんだよ。怪異が」
それはつまり、三滝坂に現れる奴が来るということで。
椿さんはついさっきまでだらしなく寝ていたはずなのに、立ち上がってさっと身なりを整えると颯爽と部屋を出ていこうとする。
「俺たちも行こうか。準備はいいかな、小鞠くん」
「行くって、まさか」
嫌な予感がする。
「そうだよ。迎えに行くんだ」
やはり思った通りだった。
わざわざ怪異を自分から迎えに行こうと言うのか、この人は。
おれは慌てて椿さんの跡を追いアパートの外へ出る。
夜空の色はより濃くなり、おれが思っていたより時間が経っていたらしい。
外付けの階段をあまり足音を立てないように気をつけなが降りていけば、往来に突っ立っている椿さんがいた。
「小鞠くん、あれ」
椿さんの視線の先には、ぽつりと人影がひとつ。
乱れた黒髪に煤けた着物、胡乱な表情で彷徨うその姿は正しく。
「怪異か……!」
身構えるおれだったが、椿さんはおれの横を通り抜けてそのまま怪異に向かって行こうとする。
「ちょ、なにやってんだよ椿さんっ!」
恐れを知らないかのようなその勢いに、おれは呆気にとられそうになるも引き止めようとする。
しかし、椿さんは余裕綽々というかのように平然と怪異に近づき、おもむろに掌を差し出す。
……いや、違う。
椿さんの掌には、小さな鈴が乗せられていた。
「これより先は我が領域。従わぬと言うのなら己の力で打ち破るといい!」
動かしてもいないのに、鈴がチリンと音を立てる。
その音は反響するように幾重にも重なり、二つ三つに増えしんと静まった町を覆うように鳴り響いた。
「こりゃ一体どうなってんだ……」
風はなく、ただ月の光だけがおれたちを照らしている。
何も変化は無い。見た目はそう。
だが、おれの感覚は確実に外との隔たりを察知していた。
先程までいたはずの往来と、どこかが違う。まるで、時間が止まったかのような奇妙な感覚で……。
「言っただろう、この先は俺のものだと。つまり、結界さ。俺の世界ではまやかしの術は効かず、怪異は怪異としての真の姿を現す」
真の姿、ということは今おれの目の前にいるのは本来の姿ではないというのか。
怪異の足元からは墨のような黒い液体が染み出て、こちらに広がってくる。
おれは思わず後退りしようとするも、今更そんな情けない真似はできないと踏みとどまった。
「見てごらん、小鞠くん」
椿さんがおもむろに懐から万年筆を取り出し、それを怪異に向ける。
万年筆で何をするのかと思いきや。
「『星冴ゆる頃、天より落つは凍る花───────』なんてどうかな」
椿さんがそう言いながら万年筆を一振り。
その瞬間。
「なっ、景色が変わって……!?」
まるで空間ごと塗りつぶすかのような勢いで、夜空が白に染まりだした。
先程まで三滝坂の見慣れた光景だったはずが、知らない景色に侵食されていく。
街灯や並ぶ家々は消え、また見知らぬ家屋が現れる。
おれのアパートも白に溶けてなくなり、代わりに小さな住宅が出現した。
夢でも見ているかのような気分だ。
ここはおれのいた現実世界とは大きく異なる場所らしい。
「これ、雪か!」
ちらちらとおれの視界に舞い降りてくる白い小さな粒のようなものに手を伸ばしてみれば、ひんやりと冷たかった。
「その通り!」
椿さんはうんうんと頷く。
そういえばさっき椿さんは、天より落つと言っていた。
もしやこの人の言葉通りに世界が構築されるのだろうか。
だとしたら、本当にここは彼の領域ということになる。
そう考えているうちに白銀は徐々に広まり、あっという間に別世界へとおれを誘ってしまった。
出来上がった場所は、雪の降り積もる閑静な住宅街だった。
「ここ、一体どこなんですか」
「怪異のあるべき場所だよ。見てれば分かる」
「椿さんって何者なんです」
「俺はただの作家だよ。もしくは、三文文士ってやつかもしれないね」
はぐらかされた。
どう考えても椿さんは只者じゃない。
これがただのいち作家が平然となせる技だと言うのなら、世の中の作家連中は奇妙な技を持つ変人集団に名前を変えた方がいい。
『か……え、る。ワ、たしの……』
その声に、おれはパッと顔を向ける。
掠れた声は怪異の口から出たものだった。
驚いた。
以前は繰り返し人の名前を呟くだけだったのが、己の意思があるように話している。
「帰るって、ここのことか」
「そうだね。ここは恐らく彼女の家だ」
帰る。私の。椿さんの言う通りその先の言葉はなかったが、私の家、居場所等が連想できるだろう。
怪異がより『人らしく』なったかもしれない。
おれにしては脳天気な思考かもしれないが、何となくそんな気がした。
「じゃあ、怪異をこのまま家に帰してやれば成仏できるって」
「いや、それはないね」
食い気味に否定されてしまった。
「現時点で彼女の本質は怪異であり、人ではなくなった。成仏だとか往生だとか、俺はあまり詳しくないけどきっとその辺には戻れないと思うよ」
「そ、そうなのか」
おれも極楽とかいう死後の世界はよく知らないが、椿さんが言うならそうなのだろう。
「じゃあ、椿さんはこれから怪異をどうするんですか」
「語るんだよ。三滝坂の怪異の本質を」
本質、とは。
おれの疑問に対し、椿さんは淡々と語り始める。
「怪異を怪異たらしめるのは物語だ。人がそこにあやかしが存在すると定義するからこそ、彼らは力を、体を得てこの世に存在することができる。化け物がこの世にいるのは俺たちがいると信じているからだ。彼らは人々を脅かす脅威であり、魑魅魍魎として我々の生活に隣合っている、と」
そこにいると思うからこそ、存在できる。
椿さん曰く、怪異とはそういうものらしい。
「ではここで、人々があやかしや幽霊の存在を信じることなく、怪異などはこの世に存在せず恐れる必要はないと定義したらどうなるだろうか」
その存在を誰も認めることが無ければ、その結果は。
「怪異は、怪異として存在しなくなる……?」
「ご明察。怪異は認識されなければ存在し得ない。それはつまり人の認識次第で怪異の有り様を捻じ曲げることもできるっていうことさ」
「なんか……よく分かんねぇ話だな……」
やっぱり作家先生の言うことは難しい。
田舎者のおれには分からん話だ。
ひとまずなんとか整理して考えると、椿さんの言う通りなら、怪異の存在を肯定するのが人間なら、化け物を生み出しているのは人間自身ということになる。
だとすれば、三滝坂の怪異もそうなのだろうか。
「ま、これら全ては俺が出した結論であり、諸説は山ほどあるんだけどね。そういうわけで、俺は三滝坂の怪異の本質を語り、それが何であるか定義することによって退治しようと思うんだ。どうかな、俺の計画」
自信ありげににんまり笑っている。
「じゃあ椿さんはこの怪異がどういうものか知ってるんですか」
「これから探るんだよ。自分で調べるより、本人に聞いた方が早いじゃん?」
「そう言われてもな……」
幽霊との対話を試みようというのか。なんだかもうめちゃくちゃだ。
おれの足りない頭で考えるより、素直に椿さんの言うことに頷いて乗っかった方が良い気がしてきた。
「そういうことだから。続き、書いていこうか」
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