懲悪マジックショー(月光カレンと聖マリオ24)

せとかぜ染鞠

懲悪マジックショー

 三日月の尖端に手の届きそうなマンション最上階だ。四国ジュエルパレス内見会で不動産王の土地家とちかウルゾゥがジュエルボックスを女性客に配っている。

 俺さまの番が来た。

「美貌の輝きはチャドリで隠せません」

 耳打ちされる間に指輪だの時計だのルビー製臍ピアスだのダイヤ嵌入股ひきだのを頂戴し,懐中の皮革仕立て小箱から鍵を抜く。

「成約おめでとう」IT企業社長の魔導まどう招鬼まねきが手下を従えて近づく。

「記念品の贈呈です」

 ウルゾゥから皮革小箱を受けとった魔導が中身を確かめて顔色をかえる。ウルゾゥも狼狽した。

「見ぃけたぁ!」記憶障害のせいで自らを7歳児だと思っている 三條さんじょう公瞠こうどう 巡査が手を振る。7歳児青年にとって叔母に見えている俺は鬼ごっこの最中に彼をまいてきたのだ。

 魔導は,俺たちが行動を共にしているのを知っている。案の定騒ぎだす。「月光カレンだ! 背のヒョロ高いあいつを捕まえろ! そうすれば カレンも 大人 しくなるぞ!」

 トランクルームの密集する港湾地帯へ連れていかれた。積みかさなるコンテナから動物たちの悲痛な鳴き声が聞こえる。

「共鳴薬を注入し訓練を終えた動物たちです。同じ型の薬を服用し念じるだけで彼らは思いどおりに働きます」ウルゾゥが言う。

「人間も共鳴薬を注入し 訓練すれば 同じ効果が 期待できんだろうね?」魔導が尋ねる。「人体実験がはじまってんじゃねぇのか?」

 ウルゾゥが含み笑いをして返せと俺に催促する。股ひきを返すかわりに純金いれ歯をくすねてやる。

「違う,鍵だよ鍵!」ウルゾゥも魔導も烈火のごとく怒る。

 俺は鍵を放りなげた――さあ行け,自由だ!

 積載されるコンテナの数々が弾けとんで木端微塵に砕けた。黄金のたてがみを靡かせる獅子や牙を突きあげる象や虹色の翼を翻す孔雀が夜空を彩る。

「魔法だ! 箱があいて魔法がかかった!」三條がはしゃぐ。

 今宵はマジックショーさ,懲悪マジックショーだ! そう思いつつトランクルームを破壊して逃げさる動物たちを見送った。

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