箱の中身は?
八月森
ある高校生男子共のしょうもないやり取り
「箱って……エロいよな」
「……急になに言ってんだ、江口?」
放課後。
幽霊部員だらけでほとんどオレたち二人の溜まり場と化している地学部の部室。
そこで、長机の上に置かれた白い紙製の箱を見ながら江口が口走ったのは、そんな一言だった。
非常にしょうもない予感を覚えながらも、オレは一応どういうことかと聞き返す(暇だったのだ)。
「考えてみろよ高橋。箱ってさ、開けるまでは中に何が入ってるか分からないだろ?」
「蓋で閉じられてるからな」
大抵の箱には何が入ってるか表に書いてる気もするが、まぁ、それは置いておこう。
「つまり、中にギャルのパンツが入ってる可能性だってあるわけだろ!?」
「お前は大声で何を口走ってるんだ」
さぁ予想通りしょうもない話だったぞ。
「いや、聞いてくれって。シュレーディンガーの猫だっけ? あれで言えば、俺が蓋を開けて観測するまでは箱の中にパンツがある状態とない状態が50%ずつ共存してることになるわけだろ?」
「こんなしょうもない話題にシュレーディンガーを巻き込むな」
そもそもシュレ猫は量子論の矛盾を指摘するための思考実験で云々。
「つまり50%でパンツだ! ソシャゲのガチャなら余裕で大当たりだぞ!」
「同列にまとめるな。必ず半数パンツが出るソシャゲとか嫌だろ」
いや、喜ぶやつもいるか? 目の前のこいつみたいに。
「な!? エロいだろ!? 箱には無限の可能性が秘められているんだ!」
「50%じゃないのかよ。自分の発言を即座に覆すな」
「なんだよー、夢くらい見させてくれよー、パンツとノーパンツが重なりあってるかもしれないだろー」
「……そんなに言うなら、開けてみるか?」
「え、いいのか?」
オレは身振りでどうぞと促す。
「お、おぉ……いざとなると、緊張するな。……ええい、ままよ!」
「その台詞をリアルで使うやつ初めて見たぞ」
机に置かれていた紙箱が開封される。果たして、中に入っていたのは……
「こ、これは……! ……ドーナツ?」
「ああ、ドーナツだ。今朝学校に来る前に買ってきた。ここでお前と食おうと思ってな」
「高橋~! ありがとうな! しかし……」
「しかし?」
「……パンが二つでパンツーってオチかと思った」
「お前がこんなアホな話題出すとか事前に予測できるわけねえだろ。とりあえず食え」
「おう。ドーナツ美味い」
「そうだな」
こうして、今日もオレたちはダラダラと放課後を過ごしていく。
箱の中身は? 八月森 @hatigatumori
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